「良い性格しているじゃないか…。」
「ありがとうございます。よく言われますよ。」
にっこりと笑って言ってみせる姿は、さすがは人気俳優。サマにはなっている。
「…はぁ~~…。お前、そういう態度は伊達監督とかなら絶対しないだろう?」
「もちろん。相手を見て言うことは言います。あ、でも勘違いしないでくださいよ?現場での新開監督のことは尊敬していますから。」
「ただ、巨匠陣より気安いだけです。」と悪びれもせず言う男に…俺は、溜息を吐いた後、首を縦に振った。
「分かったよ。一緒に食べる。」
「ありがとうございます。まぁ、京子ちゃんの料理はそんなにまずくないと思いますよ。多分。」
「…何を根拠に?」
過去に、可愛い新人女優のとんでもない創作料理を食べて、その後の仕事に支障をきたしたことのある俺にとっては、『女優の手料理』へのトラウマがある。根拠のなさそうな貴島の言葉に、俺はその理由を問うた。
「彼女のバレンタインチョコレートは美味しかったですからね。」
「菓子と料理はまた別モノだぞ。俺はそのことだってよく知っているんだ。」
菓子はうまく作れるのに、なぜか料理がからっきしという人物は存在するのだ。…それも俺の中のトラウマの……
「お待たせしました。?どうかされましたか?新開監督。眉間に深い皺、寄ってますよ?」
過去に独創的すぎる食べ物を口にした記憶を思い出してしまった俺に、控室へと戻ってきたキョーコちゃんが心配そうに声をかけてきた。
「いいや。何でもない。気にしないで。」
「そうですか……?もしかして、ご気分でも悪いのでは……。」
俺は瞬時に笑顔を貼りつけて、問題ないことを伝えようとしたのだが…キョーコちゃんはそれでも顔を曇らせながら覗きこんでくる。
「あ~~……気分が悪いなぁ……。」
「え!?」
優しい少女の心からの心配に、くすぐったい想いをしていたら。突然貴島が俺を白い目で見ながら不機嫌そうに言った。
「だ、大丈夫ですか!?やっぱりお弁当が脂っこすぎたんですね!!」
キョーコちゃんは、貴島の機嫌を損ねた発言を言葉通りに受け取って、オロオロと周囲を見回す。
「……京子ちゃんのことは俺に任せてくれるんですよね?」
「そのつもりだが、邪魔はする。キョーコちゃんが欲しいなら、さっさと本当の意味での恋人同士になるんだな。」
「え~~と、胃薬が確か鞄の中に…っ!!」と、見当違いな方面へ突っ走り始めたキョーコちゃんを後目に、俺達はにこりと微笑みあいながら牽制しあう。
貴島を応援はしてやるが、キョーコちゃんは宝田社長の秘蔵っ子。彼女が望まない間にキズモノにしようものなら、貴島はもちろん、俺の業界での明日はない。
「振り向かせてみせますとも。俺だって結構本気なんですからね。」
役者らしい絵になる微笑を浮かべたまま、貴島が言う。その言葉に偽りはないのだろう。だが、だからといって手の早そうなこの男が、少女の心と身体が追いつくまで我慢できるかどうかは微妙なところだと俺は思う。