「うわっ!!本当だ!!似てるね~~!!」
「でしょでしょ?うふふっ!!だから留美~、リ―先生、大好きなの~~!!」
「格好いい~!!私もこれ、買おう!!ゲームもやろうっと!!」
「…さすが友加ね…。」
BOX-R撮影の休憩中。スタジオの隅に主演を取り囲んでイジメグループの少女達が興奮気味に話をしていた。それぞれの手にはコミックスを持っている。
「それにしても、ふざけた題名の割に、結構エロいシーンがあるわね。これ…。」
「何言っているの!!ミステリーにエッチなシーンはつきものよ!!」
「…爽やか笑顔を浮かべながら助手に迫る探偵…。なんてSッ気たっぷりなの…。お風呂でばったり、逆バージョンなんて初めて見た……。」
「うふふっ!!これはねぇ、この後のいつものパターンになるのよ!!でもね、この助手の子…ゲームではプレイヤーになるんだけど、エッチなこと散々されながら、まだリ―先生の気持ちに気付かないのよ~。」
その中でも冷静な千織は、主人公である探偵の、風呂場でシャワーを浴びながら妖艶に微笑んでみせるシーンを繁々と眺めつつ、留美と話をする。見開き半ページ分の裸体は、男の筋肉質な上半身をこれでもかというほど美しく描きあげていた。
「…それにしても、確かに…似てるわよね。」
そう呟き…千織は手に持つコミックスから隣で完全に読みふけっている友加に視線を向ける。…彼女が熱心に読むのは仕方がないだろう。
何せ、友加は……
「何してんの?あんたたち…。」
そこへ、『ナツ』を憑けたままのキョーコが4人に近付いてきた。
「あ。ちょっとね、マルミーが持ってきた漫画を皆で読んでいたの。オススメだって言うから。」
「へぇ?…やけに友加が熱心ね。そんなに面白い話なの?」
「うん!!元々はゲームだったんだ!!それを漫画化したもので~~。とにかく、リ―先生が格好いいの!!」
「…変態っぽいけれどね。Sッ気たっぷりだし。」
千織は、興味がないというようにパラパラと確認していたコミックスを閉じると、BOX-Rの台本を読み始める。
「…む~~。ちおりん、出会った時と性格が違う~~。」
「こっちが本性なの。それだけあなたたちに気を許しているってことなんだから、いいじゃない。」
「…ん~~~。なんかそう言われちゃうと言い返せな~い…。」
頬を膨らませ、「ぶーぶー」と拗ねる留美。そんな留美に穂奈美がコミックスを片手に持ちながら「まぁまぁ」と宥める。
「ちおりんは演技派女優だからねぇ。漫画より台本読むほうが好きで当然よ。…あんたはどうする?『ナツ』。」
「ん~~…そうね。」
ナツを憑かせたままのキョーコは、一瞬だけ迷うような視線をコミックスと台本へ向けた。…キョーコであれば、迷わず台本…。だが、今はナツの魂が身体の所有権を握っている。
「…面白くなかったら承知しないわよ?」
にこりと笑ったその顔は、美しいけれど心の底から笑っている笑みではなく、どこか挑戦的な瞳だった。
「大丈夫だもんっ!!絶対面白いもん!!」
一瞬怯みかけた留美だが、キョーコに向けて挑むように手にしていたコミックスを差し出した。
…その表紙には。『探偵ストロベ・リ―のヘタ』という文字が、踊っていた。