「…………。」
…なんだ、これ。もしや随分前から計画していたことだったのか…?あの涙は嘘だったのか?駄々をこねてみせたのは、演技だったのか…?というか、今日は久しぶりに2人一緒に取れたオフだったよな?…え、私は今、捨てられたわけか!?
「いってらっしゃい」のあいさつもできないまま去って行った彼女。…何も言っていなかったが、どうやら1年前の父の日に送られてきた、子ども達のプレゼントが相当羨ましかったようだ。
「…まぁ、仕方ない、か。」
きっとジュリは、キョーコと仲良くなれるだろう。なにしろジュリは、あんなにもキョーコのことが大好きなのだ。あの美しくも優しい女神は、キョーコに『母』とのふれあいを存分に経験させてあげられるだろう。
「いってらっしゃい。楽しんでおいで。」
私は苦笑を浮かべると、意気揚々と空港に向けて車を走らせているだろう妻を、黙って日本へと送り出した。
******
そして、5月13日。
「……ジュリ。」
「なぁに?あなた。」
「……日本から何だか色々送られてきたけれど…なんだ、これ?」
「え?なぁに?」
楽しいオフを満喫してきたジュリは、帰国後はイキイキと仕事に精を出していた。一週間の休みを無理やりもぎ取ったことはマネージャーを泣かせる結果となったわけだが、その分良い表情をするようになったジュリに、事務所ともども満足しているようだ。
こうして平凡な日常を取り戻した私達の家に。…なぜだか分からないがおびただしい段ボール箱が送られてきた……。
「ふふん。私に気に入られたい坊やが送ってきたのよ。」
「はぁ?」
「でも、この私が簡単にわが子を手放すと思ってもらったら困るのよね。」
「……はぁ……。」
「あなたもそうでしょ?キョーコにはしばらく男女交際も…ましてや結婚なんて早いわよね?」
「!!それはもちろんだっ!!誰とも付き合う必要はないし、結婚なんてしなくてもいいっ!!」
「そうよね、その通りよね。さすがは私のダーリン。」
キョーコがどこぞの馬の骨とも分からぬ輩の隣で微笑み、その男のためだけにウエディングドレスを着ている姿を思い浮かべた私は。ジュリの言葉に心の底から同意をし、微笑む彼女の本心を知ることもなく『馬の骨撃退』同盟を妻と交わしてしまったのだ。
……その『どこぞの馬の骨とも分からぬ輩』というものに、まさか私達の子どもまで含まれているとは知らずに……
「母さん!!もういい加減にしてくれっ!!」
「甘いわ、クオン!!そんなことで私達のキョーコを任せられるわけないじゃない!!」
「~~~っ!!お願いだから…!!もう勘弁してくれ~~~~っ!!!!」
その後、本懐を果たして帰国したクオン。そんな彼は、愛しい彼の姫君を手に入れるために努力を始めた。…始めようとしたのだが、その行く手にさっそく立ちはだかったのは…。
東洋の女神「だるまや」の女将と…。なんと。クオンの母親でもあるはずの欧米の女神…我が愛しの妻ジュリだったのだ。
キョーコを手に入れようとする王子の道のりでことごとく邪魔に入る悪魔のような女神達。
そんな彼女達を……。
「グスッ。すまん、クオン……。」
『馬の骨撃退』同盟の名の下に。私は涙ながらにサポートしたのであった…。
(まざ~ず☆でぃ FIN)