「来週の水曜日ですか!?その日はですね!!デートに行くんですっ!!」
「……え?」
事務所での取材を終わらせた俺は、2時間15分の休憩をもぎとり、にやける社さんと俳優セクションの前で別れてラブミー部室へと向かった。
逸る気持ちを抑えてノックした部室からは、目当ての少女の可愛らしい応答の声が聞こえた。室内へと招かれるとそこには他の部員の姿はなく…。しめたとばかりに、俺はデートの約束を取り付けるべく、彼女の予定を聞きだすことにした。
すると。彼女から思いもよらない言葉が飛び出す。
「最近できたアウトレットがあるじゃないですか。」
「うん、あるね。」
「そこにですね、お買い物に行って、美味しい昼食を食べて、またお買い物をして、お茶をして、最後は『だるまや』で食事をすることになっているんです~~。」
頬を染めて、笑み崩れながら語る彼女からは、色とりどりのハートがその身の内から飛び出している。その一つを受け取って懐に入れてしまいたいのを我慢して…。俺は彼女に問うべきことを口にした。
「最上さん、『デート』に行くの?」
「はい!!……二人に、昼食をご馳走する予定なんです…。」
「私のお財布も、ちょっぴりゆとりができてきたんで…。」とテレテレと笑う彼女。
…一緒に行くのは、二人…。しかも、最上さんが食事をご馳走する相手…。
「……そうか。」
「はいっ!!」
これらの条件に合う上に、最上さんがこれほどまでに喜ぶデート相手といえば、俺にはその二人しか浮かばなかった。
…最上さんを中央に置き、その左右に座を持つどピンクつなぎの戦士達。ラブミー部員2号、3号こと、琴南さんと天宮さんだ。
最上さんの守護者の双璧ともいえる二人の少女達を思い浮かべて…俺は、諦めるために首を左右に振る。
半年ぶりに得た1日オフ。社さんが言った通り、俺にとっては貴重すぎるオフなのだ。今度はいつそんなに長い時間を自由に過ごせるかは分からない。
その1日を、愛する少女と共に過ごしたいと思う気持ちは切実なものがある。
だが、俺には彼女の先約を取り消させて、自分を優先させるだけの権利も、彼女を拘束する理由も何一つとしてないのだ。
彼女の親友たちということになればなおのこと、俺より優先されて当然というべきところなのだろう。
「そう…。楽しんできてね?」
「はいっ!!ありがとうございます!!」
自分で考えたことに落ち込みながらも、なんとか笑顔を作ってみせると、最上さんは嬉しそうに微笑み、お礼を口にする。
…多分、普段の彼女なら俺の笑顔が少しおかしいことに気付いただろう。だが、この時の彼女はよほど『デート』に出かけるのが嬉しいのか、俺の様子に全く気付いてくれなかった。
それに再び凹みそうになりながらも、俺はこの日、それでも2時間15分という許される時間をフルに使い、彼女との会話を楽しんだのだった。
この時。デートの相手を確認しておけば、問題は発生しなかったのだ。だが、俺は彼女のデート相手を決めつけていたし、最上さんも浮かれっぱなしで具体的な名前までは言ってくれなかった。
…その結果…。俺の1日オフは、後悔してもしきれない、とんでもない1日となるのである。