自身の『王子様』について、瞳をキラキラと輝かせ語る少女の言葉を、笑顔で聞いていたその時から。…心の中には、『あの子』が息づいていた。
彼女は手を伸ばしても触れる事が出来ない天使なんかじゃない。望み、努めれば触れる事が出来る存在だった。
心に生まれた温かな感情を、無意識のうちに封印してしまったけれど…それでも、きっとどこかで願っていた。
彼女を、オレのお姫様に…と。
「ずっと、お姉様がお好きだったの?」
「うん。…好きだった。初めて会った、あの日から。」
―――…あなた…妖精――…?―――
クオンを見た瞬間に、泣いた少女が笑顔に変わった『あの時』も。
「気になっていた。どうしようもなく……」
―――あぁ~~~~!!敦賀蓮~~~~~!!―――
蓮を見た瞬間に、嫌そうに顔を歪め、がくりと打ちひしがれた『あの時』でさえも。
「……愛して、いるんだ。」
ぽつり、と零れた告白。一度として口にしたことがない、『彼女』への想い。
……好きだ、好きだ、好きだ…愛して、いる……
脳内に繰り返される、彼女への『告白』。陳腐なことのはに込められた魂は、蓮の胸を熱くさせた。その込み上げる感情を抑え込めようと、蓮はグッと瞼を閉じる。
―――敦賀さん……―――
「……愛している……」
紡いだ愛の言葉は、掠れて消え入りそうな声だった。だが、脳裏で微笑む少女に向けて、自身が発した言霊が耳へと届くたびに思い知らされる。
どうあがいても、どれほど逃れようとしても…結局は、囚われる。憎らしいほどに愛おしい…『あの子』に。
「嫌われても、俺を見てくれなくても…それでも」
―――私はねぇ…あなたなんか大っ嫌いなんだから!!!!―――
拒絶の言葉を浴びせられて。冷たい視線を向けられて。少女から与えられる、激痛が伴うだけの出来事に打ちひしがれて。自身で動くこともままならず、茫然と闇へと続く道の前で立ち尽くしていた。
…それでも。
「それでも。…必要なんだ。どうしても、欲しいんだ。」
声が聞きたくて、姿が見たくて…抱きしめ、たくて。彼女の心も身体も、全てが欲しくて。
「……好きなんだ……」
『あの子』を想えば、胸が張り裂けそうになるほど痛い。息苦しくて、辛くて仕方がない。しかし、同時にとても温かい感情も芽生えて…。
彼女への想いがあることで、苦しんでいるというのに。なのに、その想いと彼女の笑顔だけで、どこまでも飛んでいけそうな気がする。
「幸せだ」と言うのだ。『敦賀蓮』が。…そして、『クオン=ヒズリ』までもが。
「そう……」
口にすることができなかった想いは、一言零れ出ると止める事などできない。必死になって『敦賀蓮』の仮面の下に隠した『こころ』。…見て見ぬふりを決め込んだ、時に荒れ狂う嵐のような…だが、こんこんと湧き出る甘くまろやかな清水のような感情は、言葉に乗せることでやっと『彼』自身の中にその居場所を作った。