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『も~~!!兄さんっ!!どうしてこんなムダな買い物ばっかりするの!?しかも、お仕事に向かう途中にわざわざショップに立ちよる必要ないでしょう!?おかげで時間ギリギリじゃないっ!!』
『……買い物に行く約束、したじゃないか。』
『したのはしたけど!!今日じゃなくていいし、そもそもこんなに買っていいなんて言ってないっ!!』
都内某撮影所。衝撃的事実を知ることとなった尚君のプロモ撮影の仕事の翌日。知る由もなかったトップ俳優と密かにファンだったタレントの熱愛に対するショックとLME社長のド派手な登場とド迫力のお願いと言う名の命令に眠れぬ夜を過ごした俺の耳に、日本の撮影現場には似合わない、英語の会話が聞こえてくる。
『…何でも似合う可愛いお前が悪い。』
『~~っ!!もうっ!!兄さんのバカっ!!毎日毎日そんな台詞ばっかり言って!!聞きあきたわよっ!!』
『仕方がないだろう?大体、この台詞が悪いって言うんなら、そもそも何をしても可愛いお前が悪いんじゃないか。』
『兄さん~~~~!!』
女性の方の声に聞き覚えがある気がして振り返って見てみると。…そこにいたのは、どす黒いオーラを纏った殺人鬼のような全身黒ずくめの男と、その男の隣に相応しい、同じように黒を基調としたパンクファッションの女が立っていた。男の手には大きな紙袋が握られ、怒る女のほうも小さな紙袋を持っている。
『俺はこれから特殊メイクに行ってくるから、お前は楽屋で待っているんだぞ。』
『私も行くわよ。兄さん一人にできないもの。』
アブノーマルな雰囲気を醸し出す兄妹(…だよな?)は、俺の横を通りすぎながらなお会話を交わす。とてもそうは見えないが、どうやら俳優らしい黒ずくめの男は、当然のごとく彼につき従おうとする妹の言葉にぴたりと足を止めると、半歩後ろを歩んでいた妹に向き直る。
『…目が赤い……』
『!!??』
そして、女の左頬に右手を添えると、その顔をじっくりと見つめてそう呟いた。
『昨夜も、一睡もしていないんだろう?』
『……!!』
『俺に心配をさせたくないなら、大人しく休んでこい。』
左頬を撫でていた手をそのまま女の髪に滑らせ、優しく頭を撫でると、大人しくなった女を諭すように優しい瞳を向ける。
『…分かった。そうする……。』
『…よし。じゃあまず、楽屋に荷物を置きに行こう。』
兄妹としては妖しすぎる雰囲気を存分にまき散らしながら連れだって歩いて行くその男女を妙に動揺しながら見つめていた俺。だが、その時、俺の中にいた冷静な俺は思ったのだ。
―――…な~~んか、どっかで見た誰か達のことを彷彿とさせるような、させないような…――-
殺人鬼も裸足で逃げ出すほどの黒オーラを放つ男と、その男の隣でイカれた格好をしていた女。目が合ったら殺されそうだったのでちらりちらりと見ていたその二人の衝撃的な正体を知ることとなったのは。
嵌口令がしかれた衝撃の事実が公の場で発表された時。
実に、この時から2年後のことであった。
(衝撃の事実 FIN)