※ご注意くださいっ!!
このお話は「そこはかとなく本誌ネタバレ」をしている作品でございます。1文字でもネタバレを含む者がお嫌な方は読まれないことをお勧めいたしますっ!!
俺の目の前にいるのは、2人の男と1人の少女。
1人は人気絶頂の俳優で、老若男女問わず虜にする人物。特に20代の女性を中心に絶大なる支持を得、『抱かれたい男№1』、『芸能界1イイ男』と呼ばれる21歳の若き才能溢れる俳優だ。
そしてもう1人は、ファーストシングルでオリコン1位を得、衝撃デビューを果たして以来、10代から20代の女性の支持を得てその実力を伸ばし、オリコン1位の座を他の誰にも譲らない『不敗神話』を作り続けているカリスマミュージシャン。
そしてそして。…そんな男達の間に挟まれているのは…。
カインドードリンコの清涼飲料水、『キュララ』のCMで元気いっぱいの女子高生を演じ(友達とじゃれあう姿、可愛かったよね…)、不破尚の名曲の一つと呼ばれる『プリズナー』の特典DVDで天使の役を演じ(女神と言っていいほどの神々しさだった)、ダークムーンで『本郷未緒』を演じ(恐ろしさの中に気高さがあったよね)、BOX‐Rでカリスマ女子高生を演じ(うっとりするくらいの美しさだ…)ている、与えられる役によってどんな色にも染まる不思議なタレント兼女優、『京子』
「…なんでお忙しい敦賀サンが、こんなところに来ているんですかねぇ?」
「うん。たまたま近くに来たものだからね。ここでうちのキョーコがお世話になっているのを知ったから、あいさつがてら見学をさせていただきたくて。あ、プロデューサーさんには許可をもらっているよ?」
あからさまに不機嫌な表情を見せる尚君に、紳士的な笑みで応じる敦賀蓮。…そして、そんな二人の間でせわしなく交互の顔色を窺っている…真っ青な顔色の京子ちゃん。
「……『うちのキョーコ』ってなんデスか?」
「うちのキョーコは、うちのキョーコだよ。ねぇ?キョーコ?」
「!!??うぇっ!?はい、キョーコ…!!はい、ワタクシ、キョーコでございますです!!はいっ!!」
にこにこ笑う敦賀蓮には、テレビで見かける紳士然とした彼らしい雰囲気が…出ているように、見える。尚君が不機嫌そうな顔をしているのは、まぁ仕方がないとして…。…なぜだろう、あの3人の居る場所。
……近付いたら消し炭にされそうな気がする……
俺は、この状況に陥った数分前を思いだした。
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「はい、カ~~~ット!!よかったわよ、二人とも!!」
麻生さんのその声に、「ふんっ!!」と鼻息荒く繋いだ手を振りほどいたのは、京子ちゃんのほうからだった。
「!?おっ前!!なんだよ、その嫌そうな顔はっ!!」
「嫌に決まってんでしょ!?なんであんたと仲良く手なんかつながなきゃなんないのよ!!あ~~!!両手が穢れたっ!!すぐさま洗いたい!!消毒したい!!」
先ほどまで、純粋無垢たる乙女として、花畑(造花だけれど)の中で己の目の前に跪く男に、頬を染め、恥じらいと好意を向けていた美しいお姫様は、険のある表情をしてズカズカとセットから抜け出して行く。
「俺はバイ菌かなんかか!?」
「ハンッ!!あんたなんかバイ菌以下よ!!バイ菌に可哀そうなことを言わないでくれる?」
「っか~~~!!可愛くねェ女だな、お前は!!」
「あんたに可愛いだなんて思ってもらう必要性は全くないわね!!」
「「フンッ!!」」とそっぽを向く二人を見た後…、ちらりと隣に立つ麻生さんを見た。
「相変わらずよねぇ。仲がいいんだか、悪いんだか。」
「…………。」
「悪いんだと思います。」とは言えないので、俺は黙ったまま二人の様子を見つめる。
麻生さんの『カット』という声がかかるまで、花畑にいたのは可憐な姫君と、その姫君に想いを寄せる隣国の王子様だったのだ。そして、姫に想いの丈を打ち明けた彼を、姫も受け入れる……な~~んていう、メルヘンチックな物語が展開されていた。
なのに。演じる必要がなくなった途端に、『犬猿の仲』になる清らかで愛らしい姫君と、彼女を一途に想う王子様。
ギャンギャンと噛みあう姿は、もはや不破尚のイメージからかけ離れているって、尚君、分かっているのかな…?