ハルカ様とのコラボ企画~いたずら。(side蓮)2~ | ななちのブログ

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このブログは、スキップビート好きの非公式2次小説作成SS中心です。作品については、あくまで個人の趣味で作成しています。
馬車馬のごとく働く社会人ですので、更新スピードは亀ですが、よろしければお読みください☆

「ふふふっ、気持ちよさそう……。」



 水音が聞こえなくなり、ぱたぱたとスリッパの鳴る音が控えめに聞こえ、ふわりと甘い香りが漂ってきた。それらが俺に、彼女がリビングルームに戻ってきたことを伝える。

 少女の気配を感じると、途端に部屋の空気が柔らかく、温かなものへと変わった。

 

「……お疲れ様です、敦賀さん。」



 穏やかな声で言われた言葉は、思った以上に間近に聞こえた。そして、漂う最上さんの甘い香りが強くなって…次の瞬間には、髪を優しく梳かれた。まるで母親のように優しく、ゆっくりと触れるその感触がとても気持ちが良くて思わず笑みを浮かべてしまう。



 ―――あぁ、気持ちいい……―――



 彼女が俺の家に当然のようにいるようになって2週間。その存在は、俺にとって眠るために帰るだけの『家』に温かさと穏やかさを与えてくれていた。

 同時にそれは、間近に控えた大きな仕事で思いのほか緊張をしていた俺の心をリラックスさせるには覿面の効果を示し……。



 俺はこの2週間。彼女を下宿先まで送り届ける事はおろか、きちんとした別れのあいさつをすることもできていない。



「…疲れている時くらい、無理して紳士でいる必要はないんですよ……?」



 俺の髪に触れながら、まるで子どもに言い聞かせるように話しかけてくる少女。そう言えば初日も言っていたっけ?



『大きなお仕事を控えてらっしゃるお忙しい敦賀さんに、そんなことさせられません!!』



 送り届けるという俺の申し出に対し、眉を吊り上げて拒否を示す最上さん。それでも俺は、彼女と少しでも長い時間同じ空間にいたくて、「送って行く」と主張していたんだけれど…。

 それも、彼女がいる『家』の居心地の良さに、安堵のあまり眠ってしまうと言う大失態を犯し続け、実現することはできていない。



「どうして、起こしてくれなかったの?送って行くって言ったのに……」



 ここ二週間。彼女に「ありがとう」というお礼と「おやすみ」というあいさつを伝えることができなかった俺は、毎朝礼の電話をするついでに、恨みごとを呟くようになった。それに対して最上さんは、



―――すみません、あまりにも気持ちよさそうでしたので…。起こすことに、気が引けてしまって…―――



 と、いつもおかしそうに笑いながら言うのだ。



 確かに、気持ちがいいのだ。傍に最上さんがいると思うだけで、心の中から温かい気持ちが溢れてきて。…幸せ、だと思ってしまった。彼女が俺の空間(テリトリー)にいるというだけで、全てが満たされたような気持ちになっていた。



……食器を洗うその音を聞くだけで、心の底から安堵し、思わず笑みを浮かべてしまう…そんな不思議な感情があった……



「……それも、今日で最後ですね……。」



 ぼそり、と彼女が呟いた言葉。その声が、少し寂しそうに震えていると感じたのは気のせいだろうか?

 少しでも、寂しいと。俺と共に過ごす時を名残惜しいと、思っていてくれたら嬉しい。



『え!?あの人気シリーズに!?すごいですっ!!さすがですっ!!』



 俺のアメリカでの仕事の詳細。まだ報道機関にも秘密にされているその情報は、2週間前。食事サービスの初日に伝えた。すると、彼女は瞳をキラキラと輝かし、尊敬の眼差しを俺に向けてきたのだ。



『それならば、痩せてしまった4.2キロ分を取り戻して、体調をバッチリにしておかなければなりませんね!!不肖、最上キョーコ!!尊敬する大先輩の輝かしい一歩へのお手伝いを、微力ながらさせていただきますっ!!』



 最敬礼をして、「ふんっ!!」と鼻息荒く言ってのけた最上さん。その様子からは、1ヶ月とはいえ会えなくなることの淋しさなんて微塵も感じる事ができなかった。むしろ使命に燃える瞳はやけにイキイキとしていて、思わず負の感情が表に出そうになると、彼女は「ヒッ!?」と叫んで一歩俺から離れたものだった。



 ブーー…ブーー…ブーー…



 穏やかに過ぎて行く時間。その時間を、邪魔する音が室内に響き渡る。その音は、俺の髪からあっさりと手を離した少女によって止められた。



 時間が、近いのだ。俺と最上さんの逢瀬のタイムリミットが。

そして、この時が終わる瞬間が……俺と彼女の、1ヶ月に及ぶ離れ離れの生活のスタートとなる……。

本当は、目を開けたい。愛しい人の姿を一分一秒でも…出来うる限り長く見つめていたい。彼女のコロコロ変わる表情を見つめ、言葉を交わし…傍に、いたい。



 でも、それをぐっと我慢する。



「…さてと。今日は何をしようかな?」



 少女の明るい声が聞こえた。そして、再び最上さんが俺の傍に近寄ってくる気配がする。

 

 彼女と過ごした2週間。毎晩俺のために美味しい夕飯と、翌朝のご飯の準備をし、一緒に他愛のない話をしながら夕飯を食べ、「お疲れの方は座っていてください!!」とキッチンから追い出され…そして、眠ってしまう……。そんな毎日を過ごした日々には、1週間前から習慣づいたことがある。



 1週間前。夜中にふと目を覚ますと、すでに彼女の姿はなかった。毎日のようにかけられるようになったブランケットを見て、いつも通りへコみそうになった俺。…溜息ついて前髪をかき上げようとしたら…。そこに、ヘアピンがひっかかった。

 それは翌日にはヘアピンからハート型のピンになり、そのまた翌日にはヘアバンドになり…4日目にはヘアゴムをつかったちょんまげになっていた(これには心底ヘコんだな…)。気をつけるつもりが5日目もやっぱり眠ってしまって、全ての武器を使った傑作作品を作られるハメになった。



 1週間前から始まった、最上さんの可愛らしい「いたずら」。翌日、それらの道具を彼女に差し出すと、彼女は悪戯に成功した子どものようなイキイキとした表情を浮かべ、無邪気に笑ってみせるのだ。それが可愛くて、怒ることもできないから…本当に、性質が悪い。



 でも、それが昨晩は。…何の、変化もなかったのだ。それが気になって、今日はタヌキ寝入りを決め込み、彼女の動向を探ることにした。






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