かけがえのない日々~新たなる日々へ(4‐1)~ | ななちのブログ

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このブログは、スキップビート好きの非公式2次小説作成SS中心です。作品については、あくまで個人の趣味で作成しています。
馬車馬のごとく働く社会人ですので、更新スピードは亀ですが、よろしければお読みください☆

――― …ラブミー部… ―――

 それは、愛し、愛されることを拒絶した人間が、人を愛し、人に愛される気持ちを知るために作られた、大手芸能プロダクションLMEに設けられたセクション。

 奇抜なネーミングに相応しい、奇抜なユニフォームを着用することを義務付けられたその部に所属する人間は、常に他人に愛される様な心のこもった仕事をしなければならない……

 そう、そこに所属する者達は、『愛』を失った天使達。『愛』という名の翼を得、再び輝かしい世界を飛ぶために、君達は真心のこもった仕事をしなければならないのだ……!!



「…な~んて言いながら、雑用が多いのねぇ……。」

「まぁね。掃除やらファイル整理やら書類作成やらお使いやら、仕事は色々あるけれど、ほとんどが雑用ね。」

「なるほど。熱烈歓迎されるわけよねぇ……。」



 ラブミー部の部室にて、タレント部の企画会議の資料作成を任されたキョーコは、そんな彼女の前に座ってお茶を飲む奏江と会話しつつ、作業を進めている。



 室内には、パチン、パチンとホッチキスを止めるリズミカルな音が響いている。



「それにしても、大量ねぇ…。ちょっと貸しなさいよ。手伝ってあげるから。」

「ほぇ?」

「……何よ。その奇妙な返事は……。」



 言いながら、奏江はキョーコの目の前に積み上げられた資料の半分を奪い取ると、自身のロッカーの中から筆箱を取り出し、ホッチキスを探し当てるとパチン、パチンと書類を閉じ始めた。



「…あんたね!!さっさと手を動かしなさい!!私が手伝ってあげてんのに、あんたがやらないなら効率全く上がらないでしょ!?」



 そんな奏江の様子を目を丸くしながら見ていたキョーコは、その奏江の言葉に我に返り、慌てて手を動かし始めた。



「……だから!!仕事に集中しなさいよ!!」

「え?ちゃんとやっているわよ??」

「どこがよ!!何なの、その気持ち悪いぐらいの笑顔は~~!!」



 「モ~~!!」と大絶叫しながらも、パチン、パチンとホッチキスを打つ手は止めない。そんな奏江に嬉しそうな笑顔を向けるキョーコ。



「えへへ…。だってね。こんな風に、任された仕事を手伝ってくれる人って今までいなかったから……。」

「……そう。」

「うん。…ありがと、モー子さん。」



 ニコニコと本当に嬉しそうに微笑みながら、キョーコも手を止めることなくホッチキスを打つ。パチン、パチンと鳴る音は、室内によく響いた。



「…ねぇ。」

「なぁに?モー子さん。」

「あんたは、もう一人じゃないからね。」

「え?」



 キョーコが打ったホッチキスの音がパチン、と響いた後。今まで聞こえていた音は室内からなくなる。



「あんたの覚えていない1年間で、あんたはたくさんの人と関わって、たくさんの人を幸せにしたの。だから、あんたのことが好きで、あんたの力になりたい人間はたくさんいるわ。」

「……。」

「だから、あんたは信用できると思った人間に頼ればいい。悩みがあれば相談したらいい。あんたにはその権利があるし、あんたに相談されることを喜ぶ人間だっているの。迷惑だなんて、思わないわ。」



 淡々と語る奏江。目線をキョーコに合わせることもなく語られるその言葉達。決して優しさを感じる響きの声ではなかった。だが、確かに心に優しく灯る明かりがある。



「モー子さんも、そう思ってくれる一人?」

「っ!!私のことは、どうでもいいでしょ!?あんたが信用できるって思ったんなら、頼ればいいし!!信用できないって言うんなら頼らなければいいだけよ!!」



 その穏やかな気持ちのままに問うた言葉に、奏江は途端に真っ赤になり、怒鳴ってくる。それからまた資料作成の仕事へと戻ってしまった。



「うふふっ。困ったことがあったら、一番にモー子さんを頼るね!!だって、私の親友なんでしょ?」

「……。そう。まぁ、別に相談してくれてもいいわよ?でも、いい答えが出せるかは別問題だからね!!」

「うん!!聞いてくれるだけで充分だもの!!」



キョーコは不思議に思う。覚えていない『1年間』。たかが1年の間に、自分は一体何を思い、どう行動して、今の人間関係を作ったのだろうか……?



 過去、キョーコの心に寄り添い、話を聞いてくれる同年代の女の子はいなかった。いや、そもそも大人に甘えることができなかったキョーコにとって、『相談をしてもいい相手』は皆無だったといえるかもしれない。なのに、今は違うのだ。寄り添い、話を聞いてくれる友人がいる。そして、相談ができる大人もいる……。



 ローリィや椹、奏江に千織、マリア…。そして、入院中に顔を出してくれた俳優やタレントの人々。彼らが向けてくれる視線はいつも優しく、好意を寄せてくれるものだった。



 ―――全てを、失くしたと思っていたのに……―――



 失くした先で、得た物。それらは確かに存在し、『今』のキョーコを支えているのだ。

 思わず笑顔を浮かべたキョーコと、頬を赤らめつつも手を休めずに資料作りに励んでいた奏江。そんな二人の耳に、突然扉をノックする音が聞こえる。






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