りん様からのリクエスト~それは、幸せの鳥(4)~ | ななちのブログ

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このブログは、スキップビート好きの非公式2次小説作成SS中心です。作品については、あくまで個人の趣味で作成しています。
馬車馬のごとく働く社会人ですので、更新スピードは亀ですが、よろしければお読みください☆

「…さてと。ここなら誰にも邪魔されないかな?」



 一人で台本を覚える事が多い俺は、各局の人通りが少ない場所についてかなり熟知している。

俺は、TBMでまず日中に人がくることがない場所に、ずんぐりむっくりな身体をしたにわとりを担いだまま辿り着いた。



「さぁ、話をしようか。『にわとり君』?」



 すっかり大人しくなっていたにわとりを地面へと降ろす。すると、にわとりはへちゃりとその場にしゃがみこんでしまった。



「君は、『最上キョーコ』さんだね?」

「……あっ、あの………。」

「まぁ誤魔化しようもないか。あんなに堂々と頭をとっている姿を見てしまったんだからね。」

「……っ!!」



 しゃがみこんだにわとりの前に屈みこみ、『にわとり君』に視線を合わせる。着ぐるみ越しの表情を見ることはできないが、きっと中の人物は青ざめた顔をしているだろう。



「さっきぶつかっていた男だけれど。彼は誰?」

「え?…あ、光さんのことですか……?」

「……光さん……。」



 色々聞きたいことはあるものの、とりあえずは最上さんと親しげに話をしていた男のことを問い詰めることから始めることにした。…その出だしから、いきなり飛び出す爆弾。



 ……『光』という名字はまずありえないよな……ということは、これはあの男のファーストネームということになる……。



 過去を思い返してみる。…俺は演技でしか『蓮』と呼んでもらったことがない。普段の彼女から呼んでもらおうとしたら切腹の準備をされたぐらいだ。

……なのに、彼は普段から名前で呼んでもらっている……。



「あっ…あの…。あの方は、ブリッジ・ロックというマルチタレントグループのリーダーの方で…!!その、デビュー前からよくしてくださるLMEの先輩タレントさんなんです……!!」

「……。デビュー前から……。」



 デビュー前の俺達の関係は……。今は思い出したくもないほどに険悪なものだった。主に俺が最上さんを気に入らなかった、ということが原因になってはいたが、彼女だって俺の存在を無視したり、俺の好意を全身で拒絶するようなところがあった。敵意むき出しで睨まれたことだってある。



LMEの…タレントなの?」

「はい!!今人気絶頂のタレントさん三人組なんです!!私もとってもお世話になっているんです!!本当に優しくていつも気さくにお声をかけてくださって……」

「…ふ~~~ん…。そう……。」

「!!??ヒッ!?」



 『デビュー前から世話になり、優しくて気さくに声をかけてくれる先輩』。俺と違って、彼女との関係はずっと良好で…。しかもあの様子ではこの子のほうはどうであれ、あちら側は充分な下心を持っているようだ。この子の幼馴染やストーカー男に集中するあまり、デビュー前からずっと彼女の傍にいた伏兵がいたことに気付かなかったとは失態もいいところだ……。



「…そのにわとりは、彼と何か関係があるのかな?」

「はっ、はい…あの…これは、光さん達が司会を務める『やっぱきまぐれロック』という番組のマスコットキャラクターでして…!!番組の初回にたまたま観客のサクラでお邪魔していたところを、中に入る予定の人が出られなくなり、急遽私が中に入ることになって……。」



 そうして、彼と出会った…ということか……。これも、一種の神が与えた『運命の出会い』なのかもしれない。



「……そう……。」

「はい!!デビューもまだの私に色々と気遣ってくださって、撮影が終わった後に優しいお声をかけてくださったり、夕飯に行こうと誘ってくださったり、後輩の私はパシリに使われても当然なのに、必ず荷物を持つのを手伝ってくださったり…!!足の調子が悪い時には恐れ多くも控室まで連れて行ってくださったりと、とてもお優しい先輩なんです!!」



 あの男の下心が良く分かる言動の数々に、さすがに言葉がでない。

 それに、それ以外の理由においても、聞き捨てならない発言だった。



 一週間前。事務所で偶然出会った彼女は、ラブミー部がらみだろう、大きな段ボール箱を抱えていた。そんな少女に、重いだろうからと荷物を渡すようにと言ったのに、彼女は「これは私の仕事ですので!!」と顔面蒼白になって辞退し、そそくさと逃げ去って行ってしまった…。

 …そして、1年前。足の骨にヒビが入った彼女を抱きかかえた時には、全身で俺を拒絶し、お礼の言葉どころか悪態しかつかれなかった。

 

 なのに、あの男には許したのだ。荷物を運ぶことも、怪我をした彼女を抱きかかえる権利でさえも、俺に許すことはなかったのに……!!



「ヒッ!!もっ!!申し訳ございません!!そうですよね、後輩の分際で、荷物を運んでいただいたり、怪我をしたからって…「もういい!!」」

 

 それ以上、彼女の言葉を聞きたくなくて、その言葉を遮るために怒鳴った。にわとりは、目に見えるほど大きく跳ね上がり、そのまま黙りこんだ。



 聞きたくない。あの男が、彼女を抱きかかえたことがある過去なんて、絶対に聞きたくない…!!



「…ごめん、なさい……」小さな声での謝罪が、頭に血が上った俺の耳に聞こえる。でも、そんな謝罪の言葉で心が落ち着くほど、俺は穏やかな紳士ではない。





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