長い黒髪のスレンダー美人は、『琴南奏江』と名乗った。そして、セミロングの黒髪の少女は、『天宮千織』だと名乗った。そんな二人の『お迎え』と共に、キョーコは須永総合病院から別れを告げ、LMEの事務所を訪れる。
「琴南さんって、LMEのオーディションの時にいた人よね?」
「……そうね。あの時はお互い色々あったわよね……。」
なぜか事務所職員に熱烈な歓迎を受けた後、通された一室で右隣に座る奏江をちらりと見つめながら、キョーコが遠慮がちに声をかける。
すると、一体何を思い出したのか、奏江は渋面になった後、「……ふぅ~~~……」と深い溜息をついて目を瞑った。
「……え~~と。あなた、あの時の様子だったらオーディション、通ったのよね……?」
「……。順調にオーディションを通過していたら、オーディションに落ちた上に、タレント部に配属されたあんたと接点持つと思う?というより、順調にいっていたら社長に目をつけられることなんかなかったのに……!!」
「も~~~~~っ!!」と盛大に吠えた奏江の姿に、キョーコは思わず仰け反ってしまう。
「クスクス、琴南さんに押されるキョーコさんって初めて見たわ。とっても新鮮ね。」
すると、キョーコの左隣に座ったセミロングの黒髪の少女がおかしそうに笑う。そちらをちらりと見ると、こちらは先日テレビで見た人物だった。
「あなたは、ドラマで共演していた方ですよね?え~~っと、確か…『BOX‐R』っていうドラマの……。」
「えぇ。京子さんにとってもお世話になったの。…だから、私、京子さんの力になりたいのよ。よろしくね?」
ふんわりと笑いかけられ、キョーコは赤面してしまった。思えば、同世代の女の子に好意的な笑顔を向けてもらったことが、キョーコの人生に一体何回あっただろうか?
「あ…。は、はい…。よろしく、お願いします……。」
照れが入った笑みを浮かべながら、キョーコは千織に笑顔を向ける。
「…ちょっと、あんた。この子のためとか言って、これ以上この子のことをボロクソに批判した口だけ女優達に陰湿ないたずらとかするんじゃないわよ!!」
「あら。それを言うなら琴南さんだって、大好きな京子さんの悪口を言われたくらいで、下手くそな演技しかできない顔だけアイドルをぶん投げたりなんかしないでよね?本当にスタジオ、出入り禁止になるわよ?」
ギロリと千織を睨む黒髪美人に、にこやかに反論をする見た目は大人しめの可愛い少女。…そして、彼女達二人の言葉を、ただ聞くことしかできないキョーコ。
「あの~…ちょっと、いい……?」
「……何よ。」
「なぁに?京子さん。」
微妙な空気が流れる二人の間で、おずおずとキョーコは口を開く。
「お二人は…もしかして、私の、お、おと…お、お友達…なんで、しょうか……?」
「「…………。」」
真っ赤に頬を染めながらキョーコは二人に質問をする。そんなキョーコが交互に見つめる二人の少女は、同じように大きく目を見開いたまま固まっている。
「あ、あの……?」
「……も~~。そういうこと、改めて確認しないでくれる?」
「ふふふっ、京子さんにお友達だと思われているならとっても光栄だわ。」
不安になって声をかけると、奏江は顔にかかる髪を鬱陶しそうに掻きあげながら深い溜息を吐く。その頬は、若干赤くなっていた。千織は心底嬉しそうな笑顔を浮かべてみせる。
「えと…そうしたら、お二人は私の女友達……!!」
「人によっては、あんたを1号、私を2号、天宮さんを3号って呼ぶ人もいるわ。」
「ほぇ!?」
「大丈夫。慣れたらとっても素敵な響きになるから。」
いつの間にかできていた生涯初の女友達の存在に、舞い上がりかけたキョーコ。そんなキョーコの耳に、何やら妙な呼び名が飛び込んできた。…1号、2号、3号とは一体……?