○月×○日
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………………………………はっ!!
こんにちは、天宮千織です。…………。ごめんなさい、どうもいつもの調子がでないわ……。
今は正午を丁度回ったところ。後1時間もしたらマネージャーの吉本さんが私を迎えにきてくれるんだけれど…。その、色々ありすぎて私、どうも頭の整理がつかない状態なの……。
今朝は立て続けに三人の人物に出会ったの。そのことによって…頭がこんがらがってしまうことになっちゃったのよね…。
え~~と、整理をするためにも、ちょっと過去を振り返ってみます……。
○月×○日 午前9時
「おはようございま~~す。」
私は、一応のあいさつをしながらラブミー部の部室を開けた。まだ朝の9時という時間。京子さんはもちろん、琴南さんがいないことも分かっていたわ。でも、部屋に対する礼儀というの?なんとなく身についてしまっている習性もあって、あいさつと共に扉を開けた。
「おはよう、天宮さん。早いね。」
すると、部屋は美しいテノールボイスであいさつを返してくれたの。
…いやいや、普通に在り得ないから。そんなメルヘン思考、私、持ち合わせていないわ。
「おはようございます、敦賀さん。どうかされたんですか?」
部室には、穏やかな笑顔を浮かべる敦賀蓮が、たった一人で部室のパイプ椅子に腰かけていた。
「…ん?あぁ、ここで10時に最上さんと待ち合わせをしていてね。」
そう言われ、私は自分の腕時計を確認する。…ただ今9時3分。10時まで57分あるわ。
「一つ目の仕事が思ったより早く終わってね。ここで待たせてもらっているんだ。」
「…そうですか…。」
私の考えたことがすぐにわかったのか、敦賀蓮はやけにきらきらしい笑顔を浮かべながら回答をしてくれた。
「え~~っと…。お茶でも飲みますか?京子さんほど美味しくは淹れられませんけれど…。」
「お構いなく。」
しばらく続いた沈黙の後。私はとりあえずのもてなしをするべきかと思いつく。…嫌だわ、いつもこういう場合って、京子さんがうまく立ち回ってくれていたから…。別に気の利かないほうではないと思うけれど、顔を何度か合わせている人とはいえ、よく知らない相手だとどう接したらいいのか分からない。
「あ、でも冷蔵庫に京子さんの作ったお手製ジュースが残っていたような…。飲まれますか?」
「じゃあもらおうかな?ありがとう。」
にこりと笑う二枚目俳優。別に好みのタイプとかそういうものではないけれど、美形の男と二人というのは結構緊張するものだということが、この時になって初めて分かった。
「はい、どうぞ。」
「ありがとう。」
どちらかというと部屋の主側である私のほうが、居心地が悪くて仕方がない。…まぁ、この人、私がラブミー部に入る前からしょっちゅうこの部室に出入りしていたみたいだし、ある意味部員の一人みたいなものなのかもしれないけれど…。
「あぁ、そうだ。これ、興味深く読ませてもらったよ。」
「へ?」
共通の会話も思い浮かばないし、とりあえず彼から少し離れた席に座り、ジュースを飲む敦賀蓮を観察していると、彼はにこりと笑いながら私に何かを差し出してきた。
……あら、なんだか見覚えのあるノートねぇ……
「ラブミー部の一員なのに『ラブ日記』を書こうとするなんて。君はなかなか愛への貪欲さがあるみたいだね。君なら卒業も早いんだろうな。」
「…………!!!!」
そう、敦賀蓮が持つそのノートは……!!ラブミー部に入ってから京子さんや琴南さん、そして二人を取り巻く男関係について綴り続けていた『ラブ日記』!!(つまり今書いているノートよ!!)
「あっ、あの……。そっ、それは……!!」
「君のその情熱、他の二人にも見習ってほしいところだよね?あの二人はどうも『愛』のことになると熱意が冷めてしまうきらいがある。」
クスクスと、楽しそうに笑う男は…麗しいいつも通りの紳士的な笑顔で。
「色々と勉強になることが書かれていて参考になったよ。自分の行動に対する他人のとらえ方なんて、なかなか分からないものだからね。それに、どうも『あの子』はやっぱりこのままの状態にしておけないようだし……。」
ふぅ~~。と溜息をつくと、敦賀蓮は私にノートを返してくれた。
「遠まわしや変化球は一切やめることにする。下手をしたら同じ勘違いをされかねないしね。…それに、そろそろ捕まえて閉じ込めてしまわないとどうやら他の捕食者に奪われる可能性も高まっているみたいだし。」
鈍さだけで逃げ切れるものじゃなくなった時が怖い。と、真剣に口にする敦賀蓮。…私には何が言いたいのかさっぱり分からないわ…。