君の答えが「Yes」だった。俺の想いに、君は笑顔で答えてくれた。
世界からしたら小さなこと。でも、俺の世界からしたら、全てがひっくり返るほどの
大事で。目の前に広がる俺の歩む道。決して順風満帆とはいかないだろう。でもその道を
歩む俺の隣を、君は一緒に歩いてくれるんだ。…きっと、ここから先は何があっても大丈
夫。俺は茨の道ではなく、光溢れる幸せな人生を歩んでいける。
全ての問題が解決したわけではなかった。俺自身は、未だに解決すべき課題がある。それに、まだ日本で満足な結果を得られているわけではない。両親とのことを公表することもできない。
…それでも、『彼女』を想う心だけはそれこそ一分一秒の単位で膨れあがり…同時に彼女の魅力に気づく、不埒な輩も日ごと増えていき…。
そんな日々の中、我慢の限界に達した俺は、俺の想いを彼女に全て曝け出した。
最初は驚いていた彼女だけれど、それこそ必死になった俺は、格好悪い男になり下がり…すがるように彼女を望み、『君を俺にくれ』と懇願したんだ。
戸惑いながら、笑顔で『Yes』と言ってくれた君。
…俺は、世界で一番愛しい人を、この手に入れた。
*****
「ほうほう、それで?」
「ですから、昨夜からですね、最上さん…。…いえ、その…。…ゴホンッ。…キョー、コは、俺の、その…。」
「あぁ~~ん?何だってぇ~~??声が小せぇぞぉ~~??」
「……!!やめてください!チンピラのイチャモンですか!!」
ニヤニヤと、いやらしい笑いを浮かべながら社長が俺に向かって耳を傾けてくる。
「だ~か~ら、何だっつってんだよ。そんくらい大きい声でいいやがれ。」
「!!」
聞こえているくせに、分かっているくせに…そう促す社長。そんな彼に対し、反発心と…それから、これまでの俺達を見守ってくれた感謝の気持ちが溢れてくる。
「…キョーコと、付き合うことになりました。キョーコは俺の恋人です。」
「ほう。…で、一人で報告にくることになった原因、聞いてもいいか?」
「……っ!!」
感謝の気持ちも込めて言った告白に、なおもニマニマと笑いながら社長が質問を繰り出してくる。
「今日は日曜日で、最上君は学校が休みだよな?」
「はっ、はい…。」
「ちなみに椹情報だと、彼女は今日、オフだったはず。」
「……はい……。」
答える俺の声はだんだんと小さくなっていく。ちらりとこちらに視線をよこす社長に、心臓が大きな音をたてた。
「まさかと思うが。未成年の最上君に無体な真似、してないよなぁ?」
「……!!」
「ま~さ~か~な~…。『紳士』の『敦賀蓮』が、純情可憐なジョシコーセーに…なんてな~。」
「しっ、仕方ないでしょう!?俺だって切羽詰まっていたんです!!」
「ほうほう、切羽詰まって告白したあげく、その答えが色好いものだったもんで、枯れた輪ゴムの理性がプッツンきちまったっつ~~ことだな?」
「!!生々しすぎるんでやめてください!!」
「ったく、なにやってやがんだ。普通は『そこ』にいたるまでに順序ってもんがあるだろ?天然記念物的乙女とか呼んでいやがったくせに、いきなりハードなことしやがって…。」
最上君、それはもう大泣きしていただろうなぁ~、可愛そうに…と厭味ったらしく呟く社長。…それに対し、否定する言葉は一切持ち合わせていない。…いないのだが!!それでも…。
「かっ、彼女が望んでいないことは…!!していないと…思って、い…ます……。」
…後半が頼りなく、小さな声になってしまったが…。だが、彼女が本気で嫌がればいくらなんでも俺だって無理強いなんかしなかったし(多分…)色々夢中になりすぎて、断片的にしか覚えていないこともあるけれど、彼女を気遣っていたはずだ(多分…)!!
「…当たり前だ、この阿呆が。」
長い沈黙の後、社長はふぅ~~と深い溜息を吐き、頭を掻きながら言った。
「…え?」
「お前の『彼女』は嫌ならお前の急所を蹴飛ばしてでも逃げる子だろうが?」
「……。」
「まぁ、何にしても、だ。」
そして、社長はニヤリと笑ってみせた。
「…おめでとう、蓮。」
からかいを多分に含みつつも、実に嬉しそうなその表情は、俺達への祝福の想いが充分に伺えるものだった。
「ありがとうございます、社長。」
社長の祝福の言葉を受けて、より一層の実感が俺の中にこみあげてくる。…彼女を、この手に入れることができたんだ。愛しい愛しい、あの存在を。
「…とりあえず、お前、そのゆるんだ面で仕事に向かうなよ。」
「はっ、はい…。すみません…。」
「ったく、『敦賀蓮』の面じゃねぇよなぁ、そりゃ。」
緩みまくった自分自身の表情は、言われるまでもなく分かっていたので、頬をぺちぺちと叩いて『敦賀蓮』の表情に戻すべく努力をする。
「…じゃ、明日の朝9時に記者会見するから。そのつもりでいろよ?最上君にもお前から伝えておけ。」
「…はい。……。………は!?」
ぺちぺちと頬を叩いていると、驚くべき社長の発言が飛び出す。
「ちょうどテンも帰国しているしな。最上君のメイクと分かれば喜んで請け負ってくれるぞ。」
「ちょっ、ちょっと待ってください!!そんな…。俺達、昨日やっとお互いの気持ちを伝えあった仲なんです!!」
「な~~に抜かしてやがる!!俺がお前らのことでどれだけヤキモキしたと思っているんだ!?お前らの進展は、恋愛ゲームのじれったさの域を超えすぎている!!誠一もびっくりだ!!」
ギロリと睨んでくる社長。その視線に思わず怖気づきそうになる。…ところで誠一って誰だ?
「ご、ご心配をおかけしていたのは大変申し訳なかったと思いますが、もう少し待ってください!!俺だって業界では若手の域を出ない存在なんです!!まだ俺には彼女を守れるだけの力がありません。」
「んなもん知るか!!誠一だってかなりイラつかせる存在だったが、オトしてしまえばなんてこたぁないただの男だったんだ!!それに比べてお前らときたら…!!近づいたと思ったら冗談で煙に巻くは、離れたかと思ったら急速に追いかけるは…お前は一体、何がしたかったんだ!?」
「!!おっ、俺の事情だってご存知でしょう!?」
「事情がなんだ!!事情って言うのは、ままならぬ恋愛の甘酸っぱいスパイスにはなるが、重すぎると単なる枷だ!!そんなもんに『萌え』は感じねぇ!!」
「ゆえにお前は誠一以下だ!!」と高々に断言されてしまった。
「と!!いうわけで!!紐につないででもいいから、お前は明日、最上君と一緒にうちの迎賓館に来るんだ!!各報道機関への連絡は俺に任せろ!!」
茫然とする俺。そんな俺を置いて、社長は「はっはっはっは~~!!」と上機嫌に退室してしまった…。