「君は、キョーコちゃんの王子様なのかな?」
「……!!」
「優しくて賢い王子様で、キョーコちゃんは幸せね。」
優しく微笑む夫婦。…オレを、彼女の『王子様』と思っている、二人。
―――ショーちゃんはねェ、わたしの王子さまなの~~~―――
「…いえ、オレは……」
―――大きくなったらガラスのクツを持っていつかわたしをむかえに来るのぉ―――
「キョーコちゃんの、おうじさまじゃありません。」
―――だからわたしはお姫さまになって、しょうらいはショーちゃんのお嫁さんになるんだ!!―――
……どうか、笑っていて…。幸せになって……。
シンデレラの話の中で、誰が一番にそう願っていたのだろうか……?
それは、きっとシンデレラの王子様なんかじゃなくて…。
「オレは、キョーコちゃんのまほうつかいなんです。」
一生懸命に生きている彼女にドレスを与え、馬車を与え…ガラスの靴を与えた、魔法使い。
胸に小さな棘が刺さるような…なんだかよくわからない感覚がある。でも、彼女の笑顔と幸せを願える立場にあることを、誇らしくも思うんだ。
「…キョーコちゃんは、いっしょうけんめい、はたらいていますか?」
「うん。それはもちろん。私達もよくしてもらっているよ。」
「キョーコちゃんは、よく、わらっていますか?」
「そうね。私達に可愛い笑顔を向けてくれるわ。」
「…しあわせ、そうですか?」
「さぁ?それは君のほうがよく知っているんじゃないかな?…彼女の、友達なんだろう?」
「……はい。」
本当は、『幸せ』なんかじゃないのかもしれない。彼女の置かれた環境が、幸福な場所であるとは思えない。けれど…彼女は笑うから。泣いていても最後には幸せそうに笑ってくれるから。
「それじゃあ、これは預かっていくよ。」
「はい。よろしくおねがいします。」
感謝の気持ちを込めて、ぺこりと頭を下げた。そんなオレに、男性はそっと囁いた。
「今は魔法使いでも、いつか王子様になれるかもしれない。…君は、彼女の王子様になる資格が充分にあると思うよ?」
「…………」
夫婦は、「それじゃあ。」と、オレに手を振って旅館の中へと消えていく。
「…さようなら、キョーコちゃん。」
もう、二度と会えないけれど。それでも、オレは君を忘れない。そして、願い続けるよ。
―――どうか。君が笑顔でありますように。君が、幸せでありますように―――
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