花火大会の会場となる河原は、最寄りの駅からほど近い。改札から出ると、普段はきっと静かな街並みが続くのだろう場所に、たくさんの夜店が並んでいた。
「うわ~~!!すごいですね!!」
「花火まで時間があるし、少し見ていこうか?」
「はい!!」
彼女は瞳をキラキラと輝かせ、頬を紅潮させている。
「わぁ!!たくさんお店がありますね!!」
繋がれた手はそのままに、人ごみの中に入っていく。たくさんの人から彼女を守りながら歩けることを少し誇りに思いながら、俺の後ろに続く彼女が危なくないように、誰にもぶつからないようにと細心の注意を払う。
「何か気になる店があったら言ってね?」
「はい!!…あっ、あそこでヨーヨー釣りしてますよ。ふふっ、楽しそう……」
「ん?じゃあやろうか。」
「へぇ!?いえ、あの、私、そんなつもりじゃ……。」
「どっちが多くとれるか勝負しよう。あ、そうだ。色々勝負して、勝ったほうが後で相手の言うことを聞くって、どう?」
「え!?」
最上さんは俺の提案に、驚いた声をあげた。
「俺の気分転換に、付き合ってくれるんだろう?」
「で、でも……。」
「何?俺には一勝もできないかな?…まぁ、女の子のキョーコじゃ、俺の相手なんか無理か…。」
戸惑う彼女を挑発するようにからかってみる。すると、少女の瞳に負けん気の強い光が溢れだす。
「望むところです!!つる…。…あなたなんか、コテンパンに負かせてやるんだから!!」
「うん。いい心がけだね。でも、俺に勝てると思わないでよ?」
こうして俺達は、花火が始まるまでの時間を、夜店めぐりをしてすごすこととなる。
ヨーヨー釣りにはじまり、金魚すくい、スーパーボール掬い、輪投げ、パチンコ、果ては当て物の結果まで。
俺達は、童心に返ってそれらを楽しみ、数や成績を競った。
「ふふん!!私の勝ちですよ!!」
「…………。」
その結果は、4勝1敗1引き分けの…最上さんの圧勝。しかも、俺が勝ったのは当て物の『より商品がいいほう』という運だめしだけ。本気で『勝ち』を狙っていただけに、この結果にショックを隠せない。
「…なぜだ……。」
「敦賀さん、無駄な動きが多すぎなんですよ。それに、動きがダイナミックすぎです。」
落ち込む俺に、最上さんはクスクス笑いながら俺の敗因を指摘してくる。
『お前は無駄な動きが多いんだ。しかも、動きが大きすぎる。金魚は逃げてしまうし、そんなに素早く動かしたら、紙が千切れて当然だろう?』
俺の耳には、10年前に同じように落ち込んだ俺の頭を撫でながら諭す、優しい声が蘇る。
「?敦賀さん?」
「…キョーコ。呼び方が『敦賀さん』になっている。」
「あっ……!!」
過去に戻っていた俺を呼び覚ます少女の声。小首を傾げる最上さんに、ごまかすためにそう指摘すると、彼女は慌てて口を押さえた。
「…じゃあ、お嬢様?どうぞなんなりとご命令を。」
「あ~…」とか「う~…」と、唸る最上さん。…そんな彼女の命令は、きっといつまでたっても呼んではくれない『名前』についてなんだろうな……。
「それでは。…そこで売っている焼きそばを、一緒に食べませんか?」
「え?」
「それから、あそこのたこ焼きもいいですね…。あ、それともあちらの焼き鳥なんていかがでしょう?ん~~、お好み焼きも捨てがたい……。」
眉間に皺を寄せながら、「何がいいですか?」と聞いてくる。
「…え?」
「お腹、減ってらっしゃらないようですけれど。そろそろ6時です。世間一般では夕飯を食べたくなる時間帯なんです。だから、私におごってください。そして一緒に食べましょう?それが私の命令です。」
頬を染めながらにこりと笑う最上さん。そんな彼女に、俺は「喜んで。」と返した。