かけがえのない日々~堕ちる、世界(2)~ | ななちのブログ

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このブログは、スキップビート好きの非公式2次小説作成SS中心です。作品については、あくまで個人の趣味で作成しています。
馬車馬のごとく働く社会人ですので、更新スピードは亀ですが、よろしければお読みください☆

「おい!!あれ、敦賀蓮じゃないか!?」



 その声に、社は我に返った。誰かが放ったその一言。それは徐々に周囲に反響しているのが分かる。



「ちょっと通して!!」



 社は思わず我を忘れた自分自身を呪いながら、ざわめきだした人々の渦の中へと飛び込んでいった。

 そして、蓮と同じく、人でできた障害物を分け入り、歩道橋の下へと向かう。やっとのことで到着したその場所で……



 再び社は、足を止めてしまった。



長身の青年が、腕に小柄な少女の上半身を抱き込んでいた。すがりつくかのように少女に抱きつく男の広い背中は、普段の包容力もなく、小さな子どものように見えた。



「おっ、おい!!大丈夫か!?」



 その場に踏み込むことを拒むかのような空気が立ち込める中。社は震える足を動かして蓮に近づいていく。



「!!キョーコちゃん……!!」



 そして、蓮の傍らまで来た時。…蓮の腕を真っ赤に染める、その色を見、キョーコの蒼白となった顔色を見て、社は息を飲んだ。

 後頭部から、大量に出血しているのだ。それは、蓮のはおるベージュのジャケットの半身部分を赤黒く染め抜いていた。



「救急車!!誰か、救急車を…!!早く!!」



 歩道橋の上では、キョーコを突き落とした男をスタッフ達が羽交い絞めにしているところだった。叫び声や怒号が響く中、社は大声で叫ぶ。



「大けがをしているんだ!!早く救急車を…!!」

「!!はいっ!!」



 スタッフの一人がその声に応じ、震える手で電話を始めるのを確認すると、社は応急処置を行うために、自分の抱える鞄をひっくり返した。



「おい!!キョーコちゃんを離せ!!」



 ひっくり返したその中から、数枚のタオルを取り出し、素早くゴム手袋を装着する。

 そして、未だにキョーコを抱きしめる蓮の肩を叩いた。



…だが、蓮はキョーコの上半身を掻き抱いたまま、微動だにしなかった。



「…おい?」



 声をかけて、そしてはっとする。…蓮のその表情。それに、覚えがあったから。



 焦点が合わない。全く精気がない。血色も悪い…。身体を置いて、魂がどこかへ行ってしまったかのような、その、表情。それは文字通り『抜け殻』となった状態で…。



 ぞわり、と背筋を駆け抜ける悪寒。



 あの、カーアクションの時と、同じ状況の蓮がそこにいた。だが、あの時と違うのは…。



「キョーコ…ちゃん…」



 間近だからこそ聞こえるその微かな呟き。蓮が一度も呼んだことはない、愛してやまない少女の名前。うわ言のように口から零れ落ちるその名前と…瞬きを忘れたかのように見開かれた瞳から零れ落ちる涙だけがあの時と違う。



「……蓮!!しっかりしろ……!!」



 堪らず叫んだ社の声。だが、その声さえも。









今の蓮には、届かない。





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