彼の瞳は、いつも穏やかで、春の日だまりのように優しい輝きを放っている。
…だから、今、目の前にいる彼はきっと…夢かなにか、なのよ。
「…最上さん。」
静かに、私を呼ぶ声。その声は決して大きな声ではなく、むしろ小さな掠れた声だった。
でも、その声には、激しい熱を感じて…。
「最上さん。」
再び名前を呼ばれても、私は彼に視線を向けることができなかった。
さっき見た、彼の表情。穏やかな笑みを絶やさない彼が、私を見つめるその視線。
…瞳の奥に、焔があった。熱く、燃え盛るような感情が…私は、怖い。
私の心の底にある、深く深く沈め、二度と熱を持たぬように凍りつかせたもの。
それに熱を与え、みるみるうちに溶かしてしまいそうで…。
きつく目を閉じ、視界から彼の姿を消し去った。それでも残像のように残る熱い視線の彼…。
コツリ、コツリと靴音が耳に響く。その音はだんだんと私に近づいてきていた。
「最上さん、俺を見て?」
声は、驚くほど近くで聞こえて。びっくりした私は、思わず目を開けて…そして、後悔した。
神様が丹精込めて作った人間。…神の、寵児…。
そう言わずにはいられない美しい先輩俳優の顔を、見ることはかなわなくなっていた。私が見ることができたのは、燃え盛る炎を宿す彼の瞳だけで…。
彼は、怒っているんじゃないわ。だって、怒りのオーラは感じないもの。でも、怒った時の視線よりも、もっと熱くて怖い感情が、その瞳にはある。
だって、今まで感じたことがないほどに胸が痛むもの。怒られた時よりも身体が震えるんだもの…。
ここから先は、彼に近づいてはいけない。彼の、話を聞いてはいけない……。
「最上さん、俺は…君のことが……」
お願い、傍に来ないで。そんな目で見ないで。その先を…どうか、言わないで。