「上手く、というか」
短くなった煙草を灰皿に揉み消して、新しいのを出しながら従兄は言う。
「波風立てるのが嫌だった。俺が何かやれば母がばあさんに怒られる。成績が悪ければ父と比べられる」
従兄の父は会社も大学も当時の一流。親、つまり従兄の祖母にとっては自慢の息子で、その子供である雄一郎の出来が悪ければ、遺伝子的にも養育としても母親が悪いということになる。彼の下には弟と妹がいるけど、長男のプレッシャーは全く違う。
「・・・そうだね」
私の家も、従兄の家も、父方の祖父母と同居していた。今回亡くなった母方の祖母は優しかったけど、同居の方はどちらもキツい人だったから、母も伯母も苦労したと思う。
「それでもあたしは嫌なものは嫌だって言って、『理津は情の強い(こわい)子だ』ってさんざんおばあちゃんにイヤミ言われて、…でも、ゆうちゃんみたいにはしなかったから、母には可哀想だったかも」
「でもその方が健康だ」
ふっと新しい煙が夜景をバックに宙に上る。
「・・・お前だから言うけど、俺、何のために結婚してたんだろう、って思う時がある」
「・・・っていうと?」
「結局、オヤジやオフクロが気に入りそうだから選んだ相手と、世間的にいいと思われるような生活して、ってことしか考えてなかったんじゃないか、って。だから、・・・どっかでズレてたものが少しずつ大きくなって、噛み合わなくなって、壊れ・・・当たり前みたいに壊れたんじゃないか、って」
「離婚ってそういうもんじゃないの?分からないけど」
冷めたお茶を飲み干して私は言った。
「いきなり壊れるんじゃなくて、それまでのひずみが溜まって、みたいなものじゃない?普通に付き合うんでもそうだし」
「・・・ズレやひずみの無い結婚なんてあるか?」
「あるかもしれないけど、大概の人はそれ承知でうまくやるんでしょ。うちの両親たち見てたって、いろいろあるけど、歯車がズレてんの分かって、途中でどっちかが修正したり合わせたりして、やってくんじゃない?」
続く
お読み下さったみなさま、ありがとうございます。
140字のショートストーリーから生まれた二人。名前もなかった人たちですが、妙に気に入ってしまったので、しばらくゆる~く書いて行こうと思います。