クレオール的

NHKラジオで、アメリカの大統領であった、リンカーンの食にまつわる面白い話を聞きました。

リンカーンさんの功績は広く知られていますが、その中の一つにサンクスギビングの日を合衆国の祝日にしたことが挙げられます。功績かどうか、分かりませんが、少なくとも、七面鳥料理やパンプキンパイなどアメリカを代表する伝統料理が現在まで紐付くきっかけになったことは間違いありません。

今では秋の恒例行事として定着していますね。

日本でも馴染みのある言葉になってきて随分久しいです。

そもそも「感謝祭」は、1620年にイギリスから清教徒ピルグリムが新大陸に入植し、先住民から作物の作り方を教えてもらったおかげで翌年、たくさんの作物を収穫できたことから、感謝の宴を開いたのがきっかけ、と言われています。

しかし、イギリスには古くから同じような収穫祭があって、料理のメニューも牛、豚、七面鳥のほか様々な種類の鳥のロースト料理とほぼ同じであったことなどから、旧大陸の習慣が新大陸に引き継がれていったのではないかということです。

面白いことに、今ではすっかりサンクスギビングの定番料理になっている七面鳥は、16世紀にアメリカ大陸のメキシコ盆地からイギリスに輸出され、人気を呼んで広く食されていたそうです。その後アメリカに渡ったイギリス人によって再び七面鳥が持ち込まれ、里帰りを果たしたと言う訳です。

また七面鳥にかけるソースには、アメリカの食材を代表するクランベリーソースとグレイビーソースがありますが、グレイビーソースは、もともと肉汁と言う意味の中世英語、グラブから来ているそうです。肉汁にバターを加えるレシピは古くからあり、フランスでソース料理が発明されると、グレイビーソースとして発展していきました。アメリカ植民地時代にグレイビーソースが持ち込まれ、種々の肉のロースト料理には欠かせないものとなりました。

このようにアメリカでは旧大陸と新大陸の食材が混合して新たな創作料理が数々生み出されてきましたが、中でもその代表例になっているのが「パンプキンパイ」です。

パンプキンパイに使われるシナモンなどの香辛料は中世に交易によってヨーロッパにもたらされたもの。先住民から教えられて作るようになったカボチャは新大陸の食材。それを包むパイ生地はイギリス伝統のパイのレシピから作られました。

今やアメリカを代表するパンプキンパイが、文化的な歴史の背景を見るとこんなに幾つもの文化が融合したものだったとは。とても興味深い事柄です。

また西欧と非西欧の文化が混じり合うことを「クレオール」と言って、移民大国アメリカでは数々の文化が混合し合い、融合し合った、クレオール文化が花開きました。

ローラインガルスの「大草原の小さな家」シリーズでも、いろんな料理が登場しますが、この視点で見ると、新たな発見がありました。

例えば「長い冬」という話の中で、冬の間、吹雪に閉ざされて食料が底をついてしまい、茹でたジャガイモと黒パンしか食べるものがなくなってしまうのですが、紅茶だけはたくさん買い込んであったので、インガルス家の人々は、砂糖を入れて熱くて濃い紅茶を飲んでいました。

アメリカ人なのに何で紅茶？とずっと疑問に思っていましたが、

紅茶はすでにヨーロッパで飲む習慣があり、アメリカに移住した人たちも紅茶を飲んでいました。その後有名なボストンティーパーティー事件があって、アメリカはコーヒー文化になるのですが。

インガルス一家も元を辿ればイギリスやスコットランドからの移民だったのですよね。そのことにようやく気がついて、食べ物だけでなく信仰に沿った厳格な生活態度や、倹約や労働を美徳とする価値観、慎ましくも家族で支え合って生きていく姿には、ピルグリムの影響が色濃く反映されていたのだということに思い至りました。

ところでリンカーンさんの食事に戻ると、アメリカ大陸で獲れる野生の肉を好み、アップルケーキなどシンプルなものが好きだったようです。

リンカーン生誕２００年にあたる年、ちょうどオバマ元大統領が大統領に就任する年と重なり、就任式の祝賀昼食会では、リンカーンさんが好きだったもので料理が構成されたそうです。

今度はどなたが大統領になられるのでしょうね。