キングの死 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
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行方が分からなくなっていた敏腕弁護士の父エズラの死体が発見された。
同じく弁護士である息子のワークは、傲慢な父の死に関して心痛める事はなかったが、父を殺したのは妹ではと疑う。
妹を守るために自身が容疑者となるであろうと分かりつつも捜査への協力を拒む。
『川は静かに流れ 』が非常に面白かったので、著者のデビュー作である本書も手に取ってみましたがこちらも期待に違わず面白かったです。
傲慢で暴力的で敏腕ではあったけれども敵も多かった父。
母親の死の真相と合わせて、父エズラと不仲だった妹ジーンを守ろうとするワーク。
しかし妹を守るためにつく嘘は自身の首を締め次第に追いつめられていきます。
冷え切った妻との仲とは逆に少年時代から想いを通わせていたヴァネッサへの変わらぬ愛。
その裏に潜む許せぬ自分自身の傷。
伝わらない妹への愛。
捕らわれた自身の人生。
それらが混然としながらも、ワークの視点で物語は進められていきます。
父エズラに捕らわれて生きてきたワーク。
正直そのワークに感情移入する事は難しい。
無意識下とはいえ父の言いなりのような人生を甘受し、最愛の者たちを傷つける事しかできないワーク。
しかしそんな不器用な主人公が、エズラの死によってようやく自身を閉じ込めていた檻から解放させていく様子は、事件の推移と同時に合わさって読者を惹きつけてやまない。
事件そのものはある程度予想の範囲内だし、主人公の強い思い込みがなければ・・・というところがあって、『川は静かに流れ』と同様ミステリとしてはちょっと弱いかも知れない。
けれども縛られた人生から解放されていく様子、そして自らの傷に正面から向き合う様子は実に心に染み入る物語でした。