rainmanになるちょっと前の話。6


ラオス国境の町ボーテンに着き、イミグレーションを超え、無事に中国国境の町モーハンに入った。
色んな国境を渡ってきたけど、この国境はその中でも一番と言っていいほどノンビリしていて、静かな田舎町だった。荷物チェックも無く手続きも2分ほどであっさり済んだ。


俺にとって、この旅2度目の中国だ。


船で青島(チンタオ)に入った頃のことが、えらく昔に感じていた。あの時は孤独と戦いながらゆっくり中国を南下していた。そして逃げるようにベトナムに入ったのだ。でも俺は、その後ギターを手に入れ、たくさんの出会いと別れを繰り返した。
あの頃よりもきっと、少しだけタフになってるはずだ。
「今回は負けねーぞ、中国」と心でつぶやきながら国境を越えた。



C君という同行者がいるだけで、移動が断然身軽になった。
一人旅の移動で一番面倒なのは荷物の管理だ。
一人だと、トイレに行くにも全部の荷物を持って移動しなければいけない。そしてトイレから戻ってくると誰かに今まで座っていた座席を奪われたりしてしまうのである。
二人なら「ちょっと見ててくれ」と荷物を置いていけるのだ。こういう小さなことが、とても嬉しい。



大都会、雲南省の省都・昆明を経由して、俺らは大理石で有名な町「大理」に辿り着いた。

少し前にNさんからメールがあり、雲南省を旅しているという情報が入っていた。きっと大理にも寄っているだろう。もしかしたら会えるかもしれない。


バスを降りて、C君と二人で町を歩いていると、茶屋の前で一人の日本人男性が休んでいた。
その人は天然のドレッドヘアで少しイカツイお兄さんという感じだった。そういう感じの人、俺は大好きなのである(笑)
俺はその人に話しかけた。「すみません、Nさんって方知ってますか?胴衣みたいなの着ていて髭の長い仙人みたいな人なんですけど…」
その説明がわかりやすかったのか、そのお兄さんは「あ、その人なら知ってるよ。たしかもう麗江のほうに移動したと思う」と教えてくれた。「あ、そうなんですか!」どうやら少しタイミングが合わなかったようだ。


お兄さんは「俺、道で他人にものを尋ねられたの初めてだよー」と笑った。その笑顔がなんとも言えなく良くて、俺はそのお兄さんと友達になろうと決めた。
しばらく話を聞くと、その兄さんはチベットのラサから真東に移動して雲南省に抜ける闇ルートをヒッチハイクで抜けてきたという。旅人間では、最も過酷なルートだと言われているそのコースをコンプリートしてきた猛者だったのだ。
俺はここぞとばかりに、そのお兄さんからチベットの情報を沢山入手した。
チベットは5人集めて一緒に移動するのがいいらしい。ランドクルーザーを借りての移動が多くなるらしく、運転手以外は最大5人まで乗れるため、割り勘にするとその人数が一番安くなるのだ。
俺は正規のバスルートでもある「ゴルムド→ラサ」で行こうと思ってる、と言ったら「そうだね。ヒッチハイクは大変だしリスクも多いから、バスのほうがいいよ」とアドバイスしてくれた。



俺とC君は、少し大理に滞在してみることにした。
旅行者も多いし、ちょうどいい田舎ぐあいで生活しやすそうだったからだ。
旅人の間では、大理の話はちょくちょく出ていた。中国の中では比較的外国人旅行者の多い町で、ヒッピーさんたちにも人気だった。
その昔「ダーリーズ」というヒッピーの集団もあったらしく、以前の旅では「元そのメンバー」とか言う人と会ったこともあった。



大理に着いたその日の晩、茶屋で会ったお兄さんに誘われて俺らは「BIRD BAR」という店に遊びに行った。
奥まった場所にポツンとそのバーはあった。店内は薄暗くて、とてつもなくレトロだった。地元の悪そうな中国人の若者がビリヤードしたりして遊んでいた。
俺「よく来るんですか?ここ」
兄さん「まぁ、夜は大体来るね。静かだから」
俺らはそこでゆっくりと自己紹介を交え話をした。
兄さんはロンドンにしばらく住んでいたらしく英語も達者だった。それに旅で必要な知識を、良いことも悪いことも(笑)いろいろと知っていた。気がつけば俺はそのお兄さんに「BOSS」というあだ名をつけていた。
俺はBOSSにも、ネパールでライブをやりたいと思ってるって話をした。
BOSSは、「俺はこれからラオスに降りるけど、その後は決めてない。またなにかあればメールしてよ」と言った。



それから大理に滞在中は毎晩BOSSとBIRD BARで話をして過ごした。



数日後、そろそろ先に進まないと…と思い、俺らは麗江行きのバスのチケットを取った。Nさんがまだ麗江に滞在してるかもしれない。


BOSSに「今日、麗江に向かいますよ」と伝えたら、「渡したいお土産があるから、バスが出る前に俺の部屋によってよ」と言われた。
約束通り、俺は夕方出発するバスの時間の少し前にBOSS部屋に寄ったんだけど、タイミングが悪かったのかBOSSの姿は見えなかった。
別れの挨拶が出来ずに残念だったけど、しょうがないのでそのままバス停に向かった。またきっとBOSSとは会える気がした。



麗江までの移動中、山に沈む夕日をバスの窓から見ながら「BACK PACK BLUES」という曲を作った。



俺とC君は、BOSSからのアドバイス通り、5人のメンバーをそろえてからチベットに乗り込もうと話していた。
次の町麗江でもしNさんに会えたら、チベット移動メンバーに入ってもらおう。2人とも共通の友達なので話は早いはずだ。
あと2人はどうしようか。面白いやつがいるといいね。そんな会話をしながら麗江を目指した。



2度目の中国。まずまずのスタートだ。



しかし、俺らはこの後、中国旅行の本当の厳しさを痛いほど知る羽目になる。



続く。