1-8 黒い青春(鯨)
私は和歌山県の鯨の町に生まれ育った。
15歳、医師になりたかった。
海がすぐそばの、のどかな田舎町で本気で考えていた。
私学の進学校なんて通えるところは、1校しかなかった。
私学の付属高校、大学には医学部もある。
担任も大丈夫だといった。
「高校は確実に大丈夫、高校でも頑張れば医学部だって行ける。」
・・・・・ところが・・・
落ちた・・・・・見事に落ちた。
大人や教師はもう信じないと誓った。
思い込みが激しい私・・・・
1校しかないのだ、すべてが終わったと思った。
普通の県立高校に入った。
そして、拗(す)ねた・・・・・思いっきり拗ねてやった。決してグレたのではない。
わかりやすく、グレるのはダサいと思ったし、ケンカとかするのは痛いので嫌だった。
そんな度胸はなかったから、一人で2年間拗ねてやった。
大人たちを困らせてやろうと思った。自分が困るだけなのに。
高校生活、まともに新しい友達も出来なかった。
でも、一人、学校には毎日行ってやった。
修学旅行も体育祭も文化祭の日も学校に行った。でも、行事には参加しなかった。
もう、走るのもダルかったし、遠い長野まで行くことがダルかった。
修学旅行を休むと、図書館で自習ということになるのだが、
ダブったこわい先輩と図書館で過ごした。
教師は母親を学校に呼び
母親に「彼は、なにを考えてるのかわかりません」と言った。
成績も学年で最下位近くまで行った。クラスでも下位3位内をキープした。
もう、なにをやってよいか分からなかった。気力がなかった。
しばらくして、仲間も出来て、帰宅を楽しむことが出来るようになった。
いかに楽しく快適に帰宅するかを考える。
電車を占拠し、ナンパをしながら帰るのだ。
占拠と言っても田舎の4時ぐらいの電車なんて高校生しかいないものだ。
大人はみな車にのっている。
2時間に1本くらいしか普通電車がないので不便すぎるのだ。
他校の生徒さんと揉めるくらいのものだ。
これが本当の帰宅部である。
当時、恋愛に関してピュアだったので、ナンパという観念はなかった。
今では考えられないが、デートに誘うこともなくいきなり告るのだ。
それでも、友達は成功していた。逆に告られたりしていた。
みな、彼女が出来、彼女と帰宅するのだ。
私はまた、一人になった。
先の見えない、なんにもない真黒な青春を送っていた。
あの人に出会うまでは。