●矢倉岳 快晴
神奈川県 (870m) 2008年12月20日(土) 温泉付
<参考コース>
大雄山駅(関本バス)→矢倉沢バス停(10分)→本村(1時間10分)→矢倉岳頂上(50分)→万葉広場(20分)→足柄峠(50分)→地蔵堂バス停→新松田駅
参考歩行時間:3時間20分
立ち寄り温泉 鶴巻温泉駅 弘法の里湯
年末は、登山はそこそこにして、のんびり温泉に浸かって、ミニ忘年会をしようと、富士山の真東に位置する矢倉岳に登ることにした。
小田急線で小田原に出て、そこから大雄山線の終点に下車、そこからバスで矢倉沢バス停に降り立ったのは、朝の気配が色濃く漂う午前8時過ぎ。
周囲は、山に囲まれ、茶畑のある長閑な景色が広がっている。
登山口の本村の神社前で準備をする登山客は、われわれを含むわずか4人だけ。手軽なコースで人気のある山にしては、なんとも寂しいスタートだが、本日はすこぶる快晴、気温も高く、うってつけの登山日和。
登山口で一緒だった、70歳を超えていそうな登山者は、「この山は足慣らし」というように、山頂まではせいぜい1時間ちょっとの登り。
スタート地点の神社前
神社の鳥居と道の脇にある祠と石仏に、丁寧に拍手を打つ老登山者に軽く挨拶をして、コンクリートの林道を登り始める。しばらく続く林道は徐々に傾斜がキツクなる。昔懐かしいアタックザックを背負った別のベテラン登山者が、われわれをあっという間に追い越して行った。
林道を少し行くと、やがて枯葉が堆積した山道に差し掛かり、勾配もキツクなる。歩き始めはいつも息遣いが荒くなるが、この坂は手軽なコースにしては容赦のない急勾配。
しかし檜の樹林から上を見上げると、不気味なほど色濃く染まった青空が広がっている。
矢倉岳は標高870mの低山。ガイドブックによると、山頂までは1時間30分程度の登りだが、登山口との標高差は約600mほどもある。途中階段状の急坂と気温が高いせいもあって、真冬だというのにすっかり汗だくになってくる。
頂上付近の最後の急坂を登り切り、やがてなだらかな坂道を通り過ぎた頃に、あっけなく視界が開けて山頂に到着。
枯れた草原の向こうに、完璧な、冠雪の富士山の姿が見えてきた。
頂上からの展望はほぼ180度、遠くに霞む町並は沼津辺りか。その向こうにはきっと駿河湾の穏やかな海があるのだろうか、気温が高いせいもあって肉視することができない。
富士山が見える左側の斜面の向こうに、金時山。右奥の山が越前岳。
矢倉岳の山頂に着いたのは、9時40分。まだ時間も早いせいか、山頂には、富士山の景色に見惚れる登山客が2,3組だけ。広い山頂の草原に腰を降ろし、この無限のかなたに広がる景色に見入っている。誰でもが、寡黙になってしまう山頂のひととき。
矢倉岳の山頂に、なぜか木の「やぐら」がある!
金時山が見える斜面には、幾重にも重なった山並を背に、繊細なススキの穂が、柔らかな南風にサワサワとそよいでいる。
体の中まで吹き抜けてしまうような、爽快感。
山頂で40分ほど景色を堪能して、富士山を真正面に見据えて、足柄峠を目指して山頂を後にした。
本日の下山コースは、矢倉岳から足柄万葉公園を経て、足柄峠、その後、足柄古道を下って御殿場線の足柄駅に向かう予定。
山頂から急坂を下り、やがて檜の樹林に囲まれた、なだらかな尾根道を辿る。
矢倉岳山頂から50分ほど歩くと、冬の日差しを受けた足柄万葉公園の広場に出る。
その名の通り、万葉時代を偲ばせる、万葉集の歌を記した解説板がいたるところに立てられている。
足柄古道は、奈良時代、都から相模に至る官道として、古の人々が行き来したという由緒ある道だ。鎌倉時代に箱根道が拓かれて次第に往来する人も少なくなったそうだ。
万葉の歌を記した解説板の向こうに矢倉岳が見える
万葉公園を抜けて、富士山の展望がきく足柄峠までは20分ほどで着く。舗装道路もしっかりした、晴天の冨士山を見るには最適な日和にもかかわらず、観光客は思いのほかわずかだ。
足柄城址
足柄峠についた頃は少し風が出てきたので、東屋を借りて昼食を摂ることにした。バーナーで湯を沸かし、変わらぬラーメン作り。
見ていると、われわれとは反対側の地蔵峠からの登山客が多いようだ。
昼食にたっぷり1時間を取り、あとはのんびり足柄駅に向かうだけ。本日は小田急線に乗って、鶴巻温泉駅で降り、駅近くの日帰り温泉に浸かる予定。
およそ1300年ほど前の足柄古道
峠から今来た道を引き返し、足柄古道の道標に沿って道を下り始めたが、途中、この道は下山コースとは違う道であることに気がついた。
途中の案内板を注意深く見ても、足柄駅に行くコースの表示がない。
まあ、コースを変えて地蔵堂に降りても全く問題ない、とあきらめて50分ほど歩いて地蔵堂に着く。この辺りには、数軒の集落があり、冬季のバスの発着所でもある。(12月15日までは万葉足柄公園までバスが行く)
地蔵堂 土産物店
地蔵堂には13時30分着。バスの発車時刻にはまだ30分余りあるので土産店を覗くと、奥に飲料ケースがある。少し迷いながら缶ビールを飲むことにした。
脇のテーブルで、老婆と店の奥さんが手打ち蕎麦の話をしている。
どうやらお婆さんは、年越し蕎麦を打つために、少し離れたところからそば粉をわざわざ買出しに来たようだ。
「うちじゃあよう、そば粉8に自然薯を混ぜて二八蕎麦を打つだよ~」と地元ならではの会話。
おばあさんと同じ大きなテーブルに腰掛けてビールを飲んでいると、奥さんが、ビールの肴にと、自家製の沢庵とセロリのしょうゆ漬けを持ってきてくれた。
「このセロリ漬けは歯ざわりも良いし、香りが良いね~」と言って、おばあさんが、この店のセロリ漬けの作り方を聞いている。
「あたしもやってみるだよ」といいながら、袋からメモ帳を取り出して、レシピを書き留める。
聞くとはなしに二人の会話を聞いていると、醤油2、砂糖、みりん、酢がそれぞれの1の割合で煮立たせ、それを冷まして、セロリを覆うくらいにして数日漬け込むらしい。おばあさんが盛んにポタ酢といっているが、この地方特有の言い方か?
ビールを飲み終えると、しょうゆ漬けがあとを引いたせいか、日本酒が飲みたくなってくる。丁度いい具合に、「丹沢山」という銘柄のワンカップがあったので、腰を据えて飲むことにした。すると今度は白菜の漬物が加わって、ちょっとして酒盛り気分。
後ろを振り向くと、開けはなれた窓に季節はずれの風鈴がちりんとなっている。
「この辺じゃこんな陽気をバカ陽気というだよ」と、老婆。
足柄峠の向こうから、嫁入りしてきたという、人のよさそうなおばあさんに、しばし,
この辺りの昔の様子を聞くことにした。小さな分校(小学校)に通う頃(昭和20年代)は、雪が降るとバスが通れるように、30戸ほどの民家の人々が、早朝から総出で雪かきをしたそうだ。
「ひとつの峠を越えるたんびに、雪がだんだん増えてくるだよ」。
ひとしきり昔の話を聞いていると、バスの発車時間が迫ってきた。
店先に5,6個、袋に入った柚子を売っていたので購入。
明日は冬至、久しぶりに柚子風呂に浸かって今年溜まったのアカを落とそうか! ・・・・・「地蔵堂だより」
今日の陽気のせいか、一杯機嫌のせいか、顔中火照ってしかたがない。
バスで終点の新松田で降り、そこから小田急線に乗って、鶴巻温泉駅に下車し、駅近くの弘法の里湯に浸かる。
湯上りに生ビールを飲みながら、来年の登山予定を取りとめなく話しながら、本年の登山も締めくくり。
足柄を読んだ万葉集の句
足柄の、八重山越えて、いましなば、誰れをか君と、見つつ偲はむ