本日の日経MJ 9面 「匠ファイル - 対立から信頼関係へ -」から引用


帝国ホテル東京 デューティーマネジャー 山本博さん

山本さんのひきだしには、もちろん、謝る以外の術も蓄えられている。怒りに震える客には、ゆっくりと時間をかけて相手の話を聞くことから始める。トラブルや怒りの原因を素早く探りだしながら、相手が持ち出したキーワードや話題をとらえて共通の土俵を作る。トラブルで対立する関係から、話題を共有する仲に、心理的名関係を転換するのが極意だ。


 「パリのリッツではこんなことはなかった」と言われれば、リッツの話題で盛り上げる、という具合だ。クレーム客はもともと、帝国ホテルのファンであることが多い。山本さんの話術はクレーム客との関係をかえって深め、次の利用を促す。再訪してもらえれば接客役は山本さんだ。

 もっとも、理不尽な要求には毅然とした態度で臨むことも重要だ。できないことははっきりと伝える。それがホテルを守ることにある。


 「クレーム対応はやればやるほど接客術が磨かれる」と山本さん。2004年10月には優れた接客技術が評価され、約2000人の従業員のうち20人しかいない専門職に認定された。現在は若い従業員に接客技術を伝えてもいる。




基本的にクレームとは、お客の期待値が裏切られた時に発生するものだ。

それは、基本的には3つにしか分類されないと思う。


1. 本来のサービスが、サービス提供者側の不手際により提供できなかったことによって発生したクレーム

2. お客様の期待値が、サービス提供者側が提供可能なものより上回っていたことにより発生したクレーム

3. 1と2に当てはまらない八つ当たり的なクレーム 


1に関しては、わかりやすい。謝罪して本来のサービス+αを提供してリカバリーするか、それに代わる代替案を出せば納得することは往々にしてある。

その一方で、2に関しての対応は、企業と顧客とのコミュニケーションに対する見解で対応がわかれる。

2に関して述べると、「期待値が高すぎるお客が悪い」、または「無茶なことをいうお客」という風に捉えることが多々あるが、私はそれは基本的に反対だ。


ここはコミュニケーションミスによって生じるクレームだと思う。

つまり、過剰に期待させるサービスを案内したり宣伝して誤解を与えた企業側も悪いというスタンスだ。

できないものはできないと言うのは事実だから悪くない。しかしながら、人の解釈というものは自由だ。どういった情報発信に対しても、人が自由に解釈する権利というものは存在する。

そう考えていくと、誤解を与えるコミュニケーションをしている人や企業側にも非はあるし、責任はある。この責任を受け止めるべきだと思う。


そして、このコミュニケーションミスを起こさないようにするには、社員個人の資質に任せてはいけないと思う。

企業と顧客のコミュニケーションスタンス、だけでも済ませるのではなく、接客技術やコミュニケーション技術というものをきちんと体系化して評価していくべきだと思う。

リッツカールトンといい、ホテル系はこのあたりが充実しているが、一般的な会社の導入も私はした方がいいと思う。それは社内や取引先とのコミュニケーション円滑化につながるからだ。



ちょうど、ヒアリングを強化している時に、コミュニケーション技術というものを分解して以下のようなものを作成して、通信簿のように5段階で毎月評価していき3~6ヶ月かけてメンバーを育成した。


大項目 具体的技術 詳細
質問力基礎編 WHAT 対象者のライフスタイルの中で、限りなくMECEに「何を」しているかを聞きだせる
WHO 対象者のライフスタイルの中でどんな人物が登場するかを聞きだせる
WHERE 対象者のライフスタイルの中でどんな場所が登場するかを聞きだせる
WHEN 対象者のライフスタイルの中でどういう風に時間を使っているかを聞きだせる
質問力
応用編
WHY 基礎編の項目に対して、「何故」を3回繰り返すことができる
COMPARE 基礎編の項目に対して、「同等のサービスと比較」してどうかという視点で聞きだせる
HOW 基礎編の項目に対して、「どうやって」を3回繰り返すことができる
会話の論理力 前提共有 相手に説明する時に、前提共有をした上で話すことができているか
レベルあわせ 相手のレベルに応じて、言葉・話し方のレベルを変えることができているか
質問力 「YES/NO」で答えられる質問、具体的にイメージで聞く質問を適切に使い分けてるかどうか
PS 結論に対して、根拠を示せるような会話方法で相手のニーズを聞き出すことができる
分解手法 相手に説明する際に、事前に幾つの選択肢があるか示せているか
会話の表現力 比喩 相手がよく理解できない時に、比喩(たとえ)を適切に用いて相手の共感が得られるかどうか
語彙力 相手の説明に対して、より適切でわかりやすい語彙を用いて表現しかえしてあげてるか
ネタ持ち度 相手と会話が詰まった時のために、何か相手を笑わせられるようなネタをもっているか
スピード 相手の話すスピードに対して、こちらもあわせてあげることができているか
共感力 相手の話すことに心から共感を示すことができているか
アイスブレイク 相手と最初に話す時に、話しやすく会話のキッカケをつくることができるか


コミュニケーション能力とか資質とか言うと、どうもぼやける。コミュニケーション技術の育成や教育において必要なことは、体系化して評価していくことが1つポイントだと思う。それの集合体が、企業と顧客のスタンスにつながる。もちろん私が作成したのは正しいか間違っているかわからない。ただ、少なくともいったん自分の理想のものを作り上げてそれを感覚と論理を使ってトライ&エラーでやっていくしかない。これからもそうだ。変化しつづけるということが大事なんだと思う。



引用の山本博さんも述べているように、クレームをすればするほど接客術は磨かれるものだと思う。

そういった意味で、私は前職で最初の半年間は接客できたのはすごくラッキーなことだと改めて思った。

商売の真髄はそういうところがベースにあるのだと思う。戦略や戦術で済まされない「何か」が商売には必要なのだと思う。それを体感することが肝だ。