掛け流し温泉のお話 | 「無雙庵 枇 杷」 むそうあんびわ お山番の日々綴り

「無雙庵 枇 杷」 むそうあんびわ お山番の日々綴り

60歳で伊豆・土肥温泉の高級旅館「無雙庵 枇杷」のお山番をおおせつかった私。

大好きな自然の中で、果樹や大樹、野うさぎやたぬき・猿・いのしし・鹿などの野生動物と出会い、
雑草刈りや伐採作業にいそしみ、季節の移り変わりを楽しむ日々をつづります。


無雙庵枇杷の温泉は、源泉温度約60度の塩化物泉でございます。
土肥温泉は古来より、高血圧症や動脈硬化症、婦人病、肌あれなどに
高い効能を認められた銘湯とされてまいりました。

温泉は毎日入れ替えられ、
掛け流しの状態でお客様をお迎えしております。
景色をお楽しみいただきながらの露天風呂にそそがれる温泉は、
夏は熱すぎ、冬はぬるめとなり、係りの方々も管理が大変そうです。
お山にも手が掛かり、温泉管理にも係りの方々が不慣れな頃、
庵主がこんなお話をしてくださいました。

「このお山や温泉は、
神々からの授かりものと思って大事にしてください。
実は私がくじ引きでいただいた温泉二升も流れています。
くじ引きでの勝ち負けでありますのに
「おめでとう」と、あたたかいまなざしで励ましてくださった、
尊敬する老舗の宿のご主人もおられました。
土肥の方々がご先祖から受け継いだ大事な温泉権を
この宿のためにとお譲り下さった分もあります。
たくさんのあたたかいこの宿への思いに応える事が、
今いちばん大事な事と、心して過ごしていただきたいと思います。
たくさんの方々の下さったお力に対して、恩を忘れず応えていく、
お客様のお声に常に真摯に耳をかたむけてお応えしていく、
この心をどんな時も大切にし続けてください」

いつも端然として落ち着いておられる庵主の目に、
その時わずかに光る涙をみたように思えました・・・・・・・・・・

私たち従業員一同は、お宿オープン時のたくさんの壁を、
今思い起こしますと、そのお話を聞いた日に乗り越えたように思います。

今でも、迎える季節はすべて始めてでございます・・・・・・・・
お客様からいただくお褒めのお言葉も、お叱りのお言葉も、
ありがたく心して受け止め、
すべてに宿る神々に恥じない護り手であろうと、
これからも心清く歩んでまいりたいと思っております。