19) エアポートの残照 | BIG BLUE SKY -around the world-

19) エアポートの残照

19) エアポートの残照 ≪エピローグ≫  Sunset at Suvarnabhumi Airport

21時半を回った頃、ラーミンタ路地の人々に別れを告げて、DS 夫人,AI と一緒に BA 氏のタクシーに乗って、スワンナプーム空港へ向かった。

空港に着いて手続きを済ませると、数日前にも来た 3階バス乗り場横の喫煙所に行って、DS 夫人と並んで座った。
その横には、私のバッグをカッパの甲羅のように背負った AI が座る。
私たち三人には血縁も姻戚関係もないが、普通の三人家族のように見えることだろう。

「約束を守ってくれてありがとう」
DS 夫人は、昨年の約束ではなく、"今のもう少し前" の約束を果たしたことに礼を言うと、"今のもう少し前" の物語を語り出した。
一炊の夢の如しと言うが、この物語には煙草三本を要した。


BIG BLUE SKY    ~旅の空の下で~-1901_ayutthaya_watyaichaimongkon
[ワット・ヤイ・チャイ・モンコン] (2007)  アユタヤを代表するワットの一つ


空港の建屋と立体駐車場の間の道路を、ひっきりなしに車が走り抜ける。
DS 夫人の物語を聞いている内に、道路が次第に川 (メナム) のように、遠くまで続く街路灯が残照のように見えて来た。
それは、私の脳内で変換されて現れた風景だった。
"今のもう少し前" のメナムの残照は、このような風景だったのかもしれない。

自国の歴史,自身の知識と経験,取り巻く人々 ... 
DS 夫人は、全てを関連付けて、"今のもう少し前" から連綿と続く物語を語った。
物語の聞き手は、語り手を理解することは出来るが、語り手のようには物語を思い込むことはない。
全ては、脳内での意識・情動・反射の結果だと考えて聞いていた。

物語の語り手と聞き手は、同調することはないが、共存することは出来る。
そのことを、語り手も聞き手も、経験を通して知っていた。

私たち三人は立ち上がると、"今の" 再会を期して肩を抱き合った。
私は、カッパの甲羅のようなバッグを AI から受け取ると、二人と別れて出国ゲートへと向かった。
帰ったら、この国の歴史を学ぶことにしよう。


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