与謝野馨 1
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より
与謝野 馨(よさの かおる、1938年8月22日 - )
は、昭和後期・平成時代の政治家。衆議院議員。与謝野鉄幹・晶子夫妻の孫にあたる。学位は法学士(東京大学)。特技は囲碁(アマチュア7段)。
1938年(昭和13年)8月22日、東京都千代田区に与謝野秀(しげる)・道子の長男として生まれる。麻布中学校・高等学校を経て1963年(昭和38年) 東京大学法学部を卒業し、中曽根康弘の紹介で日本原子力発電に入社、同社の労組と繋がりのある民社党佐々木良作書記長と良好な関係を築く。1968年(昭和43年)日本原子力発電を退職し、中曽根の秘書となる。
1972年(昭和47年)12月の第33回衆議院議員総選挙に東京1区(旧)から自民党公認で立候補するが落選。1976年(昭和51年)12月の第34回衆議院議員総選挙に東京1区から立候補し初当選する。しかし、1979年(昭和54年)の第35回衆議院議員総選挙で大平正芳首相が打ち出した一般消費税による逆風を受け落選する。1980年(昭和55年)の衆参同日選挙では、社会党・飛鳥田一雄委員長を抜きトップ当選し返り咲く。以後、科学技術・通商産業関係を皮切りに、通産政務次官、自民党商工部会長、衆議院商工委員長などを歴任し、商工族、政策通として頭角を現す。また、中曽根派に所属しながらも、商工族の実力者であった、梶山静六の門下ともいうべき関係を形成していった。1994年(平成6年)自民党が政権復帰した村山富市内閣で文部大臣として初入閣する。
1996年(平成8年)第2次橋本龍太郎内閣では、師事していた梶山内閣官房長官の下、他派閥ながら、官房副長官(政務)として、橋本政権を支えた。 1998年(平成10年)小渕恵三内閣で通商産業大臣に就任。通産大臣でありながら、所轄外の(法務省管轄の)通信傍受法(盗聴法)成立に力を注ぎ、『噂の真相』などに「盗聴法成立の黒幕」と批判された。2000年(平成12年)4月の第42回衆議院議員総選挙で民主党の海江田万里に敗れ、落選。自民党は民主党に都市部を中心に議席を奪われ、「1区現象」と呼ばれる事態に陥ったが、与謝野もこの落選により危機感を覚え、派閥を離脱する(当時、所属派閥であった志帥会における亀井静香との権力抗争での敗北と言う事情もあった)。2003年(平成15年)第43回衆議院議員総選挙で選挙区で海江田に敗れたが、比例区で復活当選を果たした。
2004年(平成16年)自民党政務調査会長に就任して、小泉純一郎首相の進める郵政民営化に尽力する。翌年9月に行われた第44回衆議院議員総選挙では、海江田に対して比例区での復活を許さないほどの圧倒的な勝利を収めた。
自作パソコンを毎年数台作っており、Linuxやオープンソースの動向など情報技術に造詣が深い。 囲碁の腕前はアマ7段で、政界最強とも評されている。
人権擁護法案の推進派でもある。
産経新聞 21世紀私ならこうする
対談 2000年1月7日 抜粋
――社会保障・福祉分野の抜本改革も急務だが
「日本の健康保険と年金制度は世界のどこに出しても恥ずかしくない制度だ。ただ、負担を嫌がって受益だけを求めるから制度を維持できなくなる可能性が出てきた。受益には負担がついているということを明確にしないといけない。国民負担率の上昇は避け難いが、北欧型の国にしていいかというと、たぶん違う」
――経済で重視する点は
「インフレ容認策を取ってはならない。また、財政頼りの経済は平成12年度で終わりにすべきだ。ゼロ成長でも日本の実力だと思ってあきらめるほかない。日本経済が強くなるには、世界中どこへ行っても負けないだけの品物やサービスを生産できる能力をもつことが重要だ。日本経済を安定成長に導くにはそういう経済の基本部分を強くしなければならない」
――国と地方を合わせて借金は600兆超といわれる
「行政改革で経費を節減するのも大事だが、福祉や公共事業のあり方を真剣に考えなければ財政赤字は解決せず、大幅な歳出カットもやらざるを得ない。将来の国民の負担増が避けられない現実の中で、今の制度を維持しようとするなら間接税を増やさざるを得ないということだ」
【寸評】党内で1、2を争う政策通といわれ、特に経済・財政通として鳴らしている。政調会長代理時代には「事実上の政調会長」と中央省庁での評価も高かった。財政頼みの経済成長の継続をきっぱりと否定、福祉予算と公共事業予算の歳出カットの必要性を強調するなど、歯切れの良さが際立った。中曽根康弘元首相の秘蔵っ子的な存在で、政界でも屈指の囲碁好きとして知られている。党内の有望株の一人ではあるが、「裏方で汗をかくことを覚える必要もある」(江藤・亀井派幹部)との声も。次の一手をどう打つか?(笠原健)
産経新聞 論点 財政再建へ総合的戦略を
記事 2000年8月6日 抜粋
本質的な問題は何か
財政危機をめぐる本質的な問題を二点しておきたい。
第一に、財政危機の影響をどう考えるかという問題である。国債は政府の借金であると同時に民間の資産になっており、国内債である限り、国全体で見れば、「右手から左手への借金」に過ぎず問題はないとの意見を述べる向きがある。しかしながら、国債は将来の税収を担保に発行されるものであり、国際発行増による納税者の負担増は将来に向かって確実に企業や個人の活力を奪い、経済全体の活力を低下させることは明らかだ。
---中略---
また、わが国の部門別資金過不足を見ると、直近では、個人部門の資金余剰(対GDP比5.9%)に加え、法人部門が資金余剰(同6.5%)となっており、公的部門の資金不足10.9%をファイナンスしているとの構図になっている。
企業の設備投資が今後活性化すると、法人部門の資金余剰幅は急速に縮小していく。民間設備投資の回復が見込まれる13年度には公的部門の資金不足を縮小しなければ、海外からの資本にファイナンスを依存する状況になり、金利の急上昇が生じる可能性がある。
さらに、中長期的には、個人部門の資金余剰金が縮小していくことが予想され、この点からも公的部門のファイナンスは制約を受けることになる。
早急な準備が必要
税制債権の問題は、単に国の歳出削減のみならず、税制全般の改革、公正で効率的な社会保障制度の再構築、地方行革と財源の移譲など幅広く国全体の制度的枠組の変革を必要とする問題である。また、低成長の少子高齢化社会における「受益と負担」の「公正さ」をどう確保するのかという問題でもある。放置すれば最後は大インフレで解決という最も愚かな事態を招くことになる。残された時間は少ない。総合的な検討開始のために一刻も早い準備が必要である。
日本証券経済倶楽部 当面の政治課題を語る
講演 2001年6月27日 抜粋
問われる参院選後の対応
第二がアメリカ経済の動向です。大きな落ち込みはないといわれる方々もおりますが、私はこれも楽観は許されないと思っています。
そして、第三が構造改革の進展も支持率頼みだけでは、けっして進まないということです。橋本行政改革の一環として、経済財政諮問会議が設立されましたが、同会議の欠点は合議体であり、責任体制が明確ではないということです。これまででしたら、大蔵省や通産省といった担当省庁が責任を持って引っ張っていくような仕組みがとられていましたが、合議体ですので、その点がどうしても曖昧になってしまいます。
重要な四大改革 さて、次に私が考えております、わが国の四大改革についてお話させていただきたいと存じますが、まず第一は財政改革が本当に必要な時期にきているということです。
国民もすでに、そのことは十分に分かってはいますが、問題は社会保障をはじめ、公共事業や地方財政といった国民生活に直結するような大型分野に切り込んでいかない限り、その実現が難しいことです。小泉総理も安易な増税には頼らないと一応は言っておりますが、正直に申しまして、やはり最終的には、国民に相ふさわしい負担を求める間接税の増税にいきつかざるを得ないと思います。
政治家が、不良債権問題を解決しろと言うのは簡単です。しかし、実際の不良債権処理の現場で、これに応えていくためには、銀行の担当者が、担当企業に対して「融資金を返してほしい」と迫り、それが難しいようなら、破産は極端だとしても、民事再生法や債権カットなどの方策により、ある種の「縁切り状」を突き付けざるを得ないのです。
中期的な課題からも、先程申しあげました競争力の強化策は大事ですが、まず、その中では研究開発体制の強化があげられます。科学技術予算をこれ以上増やしても、大学や国の研究所では、消化できないとも言われますが、大企業だけでなく中堅企業などへも、政府が積極的に研究委託をして、新しい分野を開拓していく仕組みが是非とも必要になってきます。
プロパテント政策とわれわれが呼んでいます、知的所有権を育て守っていくことです。あえて名前をあげますが、中国が知的財産権を全く無視しています。中国は、今年後半にはWTO(世界貿易機関)に加盟してくるでしょうが、ルールを守っていただかないと、日本で研究したものが、瞬く間に中国で利用されてしまいかねません。これは相当な注意が必要です。
月刊財界フォーラム 小泉改革と日本経済
講演 2002年5月21日
次に、最近の経済情勢についてお話を申し上げますと、竹中大臣は喜び勇んで、経済は底打ちだと発表されましたけれども、どう見ても、日本の経済というのは脆弱な要素をたくさん持った状況にあるのだろうと思っております。人はよく、坂道を下り続けていると、平らになったとたんに上り坂に入ったふうに感じられるんですが、いまの状況というのは、あくまでも循環的な経済変動にとどまっていて、デフレとか不良債権の問題とかの構造問題は、前とまったく変わっていないという状況だろうと思っております。
まず生産ですけれども、確かに、年明け以降は下げ止まっております。在庫調整は一段落したと言えると思います。もう一つは、輸出が増加に転じていることも事実です。ただし、これはアジアへの素材関係とか電子部品などが主たるものです。生産も、内需型の中小企業では相変わらず不振が続いております。
次に消費ですけれども、現金の給与総額は11ヶ月連続でマイナスになっております。春闘というのは、われわれの感じでは、毎年賃金が上がることが繰り返されてきたわけですが、今年は春闘ベースアップ・ゼロに象徴されるように(「所得バブルの崩壊」とわれわれは呼んでおりますけれども)賃金は上がっていきません。
賃金のカット例ですが、具体的な会社の名前を挙げて恐縮ですけれども、たとえば日立は、1年間平均して5%カットいたしました。松下は半年間、定期昇給の凍結などをやっておりまして、実際の可処分所得は増えているわけではございません。
設備投資、これは年度で見るとマイナスになる可能性が大変大きいと言われています。これはIT産業が赤字決算をしていること、設備投資全体の約5割を占める中小企業が、不況で設備投資の意欲がまったくないということです。ただ、生産拠点を海外に移転するなどして、在庫調整の進展によって景況感は多少改善されたというのが現時点です。
一方、全体を見ますと、設備の過剰感は解消されておりませんで、そういう設備の過剰感から、新しく設備投資をしようというのは、気持ちの上でも実際でも抑制されたままになっております。また、新規の国内需要も生じていないという特徴があります。
製造業は利益改善を少ししておりまして、その結果、株価が維持をされているから、秋にかけて非常に脆弱な回復が見られるという程度でして、ここからV字型の回復をしていくということは、とても考えられないわけです。
アジアの経済はやはり米国依存でして、米国の復調のおかげで回復はしつつありますが、米国の(ダブルディップという)二番底があると、大変大きな影響を受ける可能性があります。
ヨーロッパの金融関係者の話を聞いてみますと、いちおう米国経済の回復を歓迎しておりますけれども、景気が回復することによって米国の経常収支赤字がまた大きくなって、それが様々な影響を持つことを心配している方が、ヨーロッパ中心の金融関係者には非常に多くなっているわけです。ヨーロッパではむしろ、世界経済全体のサステナビリティ・リスク、景気が維持できるかということに対するリスクが高まっているという見方もあることは、ぜひ、ご記憶願いたいと思います。
また、米国の金融や証券の人たちにずっと聞いて回りますと、米国においてすら、ナスダックの1800という水準は40%ぐらいオーバーバリューされているんじゃないか、40%ぐらい高すぎると言う方が非常に多いということです。
次に、日本国内のリスクの要因を申し上げますと、一つは、金融資本市場が大きく変動すると実体経済が脆弱であるという状況には、変わりはないと思っております。むしろ、金融機関の余力がなくなっているという現状から、ますます脆弱性は増しているという状況にあると見るべきだと考えております。不良債権問題の残存というのは、変動に対する脆弱性を引き続きもたらしていると思っております。
過去5年ぐらいを見てみますと、1997年には循環的な景況回復というものが起きました。2000年にはこれが失速をして、また、金融不安になりました。再びそういうことが起きるのではないかということを心配される方が大変多いわけです。
株価のほうですけれども、循環的回復のために株価はいちおう上昇いたします。ここで皆様方にご注目いただきたいのは、株式市場、GDP、銀行貸出と、いろんな分野で製造業はどのぐらいウエートを占めているかということですが、株式市場の製造業のウエートは、時価総額にして約半分です。
GDPは約500兆ですが、この中の製造業のウエートは約4分の1です。銀行貸出における製造業のウエートは約5分の1です。ですから、製造業中心の循環的回復は確かに株価上昇の要因になるけれども、実は、製造業はウエートが株式市場でもGDPでも銀行貸出でも大変低くなっていて、製造業の回復だけで不良債権問題を解決する、あるいは止めるという要因には、残念ながら、なっておりません。
韓国のように、思いきった公的資金の投入、経営責任の追及、産業の再編成を三ついっぺんにポンとやることができればいいわけですけれども、韓国が実際に公的資金を投入した額はGDPの3分の1です。日本がGDPの3分の1を投下するとしたら、160兆とか170兆投入することですから、これは考えられないことであります。金融政策も、日銀の識者に聞きますと、インフレターゲット論はほとんど意味がないということを言われます。
小泉内閣の経済政策については、個人的には次のように感じております。第一には、国債発行30兆の枠というのは、これは政策ではありません。財政再建を最優先することには私は異論はありませんが、政策とは言えないスローガンにこだわって、かえって自縄自縛になっているように思えてなりません。第二は、経済財政諮問会議はあまり機能していないのではないかと思っております。
本当は財政再建と経済活性化の議論をぶつけ合う必要があるわけです。たとえば財務大臣と経済産業大臣がそれぞれの立場を主張し、その行事役を大所高所からなさるということであれば、経済財政諮問会議は機能を発揮するはずです。ただ、残念ながら、行司役たる竹中大臣が前面に出てしまうと、政治のプロセスというのはまったく動かなくなっております。
裏で汗をかいて、手柄は各省の大臣あるいは与党にあげるというプレーヤーが内閣におりませんと、結局、政策は人間集団によって決定されるので、経済財政諮問会議というのはほとんど動いていない、また、誰も責任をとらないという体制になっていることを私は大変心配をしております。
今後の対応について申し上げますけれども、国民が国内の暗い要因だけに注目をするように仕向ける政治は方向を転換しなければなりませんし、企業も消費者も長期的な期待を非常に低下させていて、それが言わば合成の誤謬を起こしている現状ですから、それを打開することが必要です。とにかく経済主体を動かして、挑戦させるように仕向けるための政策が必要ですし、前に述べたように、パイを大きくすることに注目をさせることも重要であると思っております。
やはり研究開発国家を目指す必要があるのではないか。そのために財政としては研究開発という分野にシフトをし、そのために必要な制度改革をやる必要があるのではないかと思っています。とくに、企業に対する研究開発資金助成は(欧米に比べて)少なすぎると私は思っております。ITの分野でも、バイオの分野でも、あるいはITSの分野でも、もっと使いやすいお金を重点的に投入すべき時期に来たと思っております
中国は脅威だと言って、政治の圧力でネギ、シイタケ、畳表にセーフガードをかけるようなバカなことを去年やりましたが、こういう縮小均衡を目指すというのは基本的に間違っていることです。日本にとってのオポチュニティは、こういう中国の状況を徹底的に活用する、そのために必要な条件整備を行うという視点で対応していくしかないのだろうと思っております。ただ、中国の模倣品とか知的財産権の侵害とかはひどすぎるので、WTOに加盟した以上は、やはり不公正なことは政府の指導で直してほしいと思っていますし、著作権とか特許権を侵害することに対しては、日本は中国に強く言ってもいい分野だろうと思っております
日本がなぜ競争力が落ちてきたのか。これは中国のせいなのかといいますと、確かに、1980年の元と円の関係は、一元が160円だったのが、今は一元が14円50銭、15円ぐらいだから、中国の為替はだいたい11分の1に切り下がっているわけです。
これは競争力という点では中国に非常に有利な条件を与えましたが、人のせいにするのではなくて、むしろ日本の競争力が低下したのは、政府、企業の"新しい時代への対応"が遅れたと考えたほうがいいのではないかと思っております。
日本として目指すべきものは何かと申しますと、一つは、輸出型の製造業の競争力を強化して、外貨の獲得と国全体の生産性の牽引を起こすことだろうと思います。このためには、大前提としては競争環境の変化に対応した企業の自己変革。政府は、こうした企業改革を積極的に支援して、付加価値の高い産業構造への転換を助ける。
具体的に申し上げれば、研究開発支援とか、課税ベースを広げて、ゆがみを除去するための税制改革などを早速やる必要があると思っております。一方では新しいサービス業、新規事業の振興によって雇用の確保もしなければなりませんし、国全体の生産性の底上げを図っていくことを、セットで行う必要があります。
先進国と発展途上国の利害が一致しないケースが非常に多くなったことで、今回のWTOのラウンドがいつ終わるのかということは、確たる見通しは立っておりません。
したがって、それを補完する意味でFTA、自由貿易地域、自由貿易協定(フリー・トレード・ゾーン、フリー・トレード・エリア、フリー・トレード・アグリーメントといろんな言い方がありますが)をASEANの諸国となるべく早く結ぶべきです。というのは、中国がすでにASEANの諸国に、自分たちと自由貿易協定を結ぼう、10年以内にやろうじゃないかということを提案しているので、日本が放置しておくと、東アジア全体が中国の経済圏になる可能性があることに対しては、非常に大きな危機感を持たなければならないと思っております。