メルヴィル・プポーとロマン・デュリス。アンダー・ヴァンサン・カッセルでは仏映画で好きな俳優二名。個性派だけど、マニアックに行き過ぎない適度なメジャー感がイイ塩梅。
 ってんで、ヴァンサン兄ィの登竜門(および独身貴族終焉の契機)でもあった『ドーベルマン』の弟分的ノリの映画『キッドナッパー』、観ました。いまさら。
 ハッキリ言って、タスキのコピー(大昔に買っていて、封も開けないでそのまま仕舞ってあったのですが)ほどスタイリッシュじゃないです。どちらかというと、泥臭い。ドタバタで、埃っぽい。その点、『ドーベルマン』の方がクールでまとまりも良かったかな、と。なんか、ありがちな、“非アメリカ圏のタランティーノ映画”風で…。
 でも、やっぱりキャストはイイんだよなぁ。この映画はもう、徹底的にキャラ勝ちではないか、と。ロマン・デュリスは、初期イメージの、まんまボーボー頭で、クレイジーだし。メルヴィルのヘンなマチズモがまたビミョーなリズムを作っていたり。ストーリーそのものは、本当にしょうもない誘拐事件。ラストも、ベタベタ。でも、たまには「くだらねー」と画面に向かって一人ツッコミも入れたくなるもので、何も考えずスコーンと楽しめる、濃い口なのに後味のよい映画。
 『ル・ディヴォース』の方は、過日の『イースタン・プロミス』鑑賞によるナオミ・ワッツ評価で衝動買いした作品ですが、こちらもちゃんとメルヴィル&ロマン、そろい踏み。しかも、受けるイメージというか、立ち位置というか。『キッドナッパー』とあんまり変わってない(笑)。
 メルヴィルの方は、『キッドナッパー』の敏腕金庫破り役とは違って、ダメダメなアーティスト役(ま、女性の敵ですね。でも、適度なボンボン風情が似合うんだわ)なんですけど、これまたボーボー頭のロマンは、「素…じゃないよなぁ?」的、自然体演技。好青年なのにアクが強い。イイですなぁ。
 話しとしては、なんてことない、ラブストーリー。そこに、やっぱりベタな“お洒落なパリ幻想”を挿し込み、米仏、海を隔てた家族愛、姉妹愛、あるいは道ならぬ愛、そして家族愛、といった様々な愛の形を、テンポ良く描いた作品。推定ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの絵画とエルメスのケリー・バッグが物語のスパイスになっていたりするのも、仕掛けとしては面白かったです。絵画がアメリカ的なハッピーエンドへの布石なら、バッグはフランス的(あるいはそのカリカチュアライズ)なラストを象徴するアイテムに。でもやっぱり、女性の方が楽しめる映画なのかな、なんて。ナオミ・ワッツ、巧いなぁ。ケイト・ハドソンが野暮ったく見えてしまうほどに。作中では、ケイト演じる妹の方が華やかなキャラクターなのに、張りつめたナオミのオーラは見過ごせない…。
 まったくタイプの違う両作品。メルヴィル・プポー&ロマン・デュリスの立ち回りを見比べるつもりが、結構それなりにそれぞれ楽しんでしまった、そんな映画でした。(了)


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『ル・ディヴォース~パリに恋して~』 

「旅から、音楽から、映画から、体験から生死が見える。」 著書です:『何のために生き、死ぬの? 意味を探る旅』(地湧社)。推薦文に帯津良一・帯津三敬病院名誉院長。

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