居酒屋 | Untitled

 

居酒屋(’56)フランス国旗

 

原作:エミール・ゾラの同名小説

 

監督:ルネ・クレマン

 

 

以前、映画版を観た時に、これはいつか原作も読んでみたいものだと思い

 

サクサクっと読んで、再鑑賞しましょうと軽い気持ちで挑んだのですが・・・

 

もう、とんでもない目に遭いました。こんなに苦痛を伴う小説は久々です。

 

また、小っちゃい字でぎゅうぎゅう詰めで、黄ばんだ古本だったし

 

秋の夜長は、19世紀パリの下層階級の悲惨な生態とともに

 

過ごすハメになってしまった(自分で選んだんでしょ!)

 

 

二人の子供と共に情夫ランチェ(アルマン・メストラル)から棄てられた

 

洗濯女ジェルヴェーズ(マリア・シェル) は、屋根職人クーポー

 

(フランソワ・ペリエ)と結婚し、慎ましい幸福を得る。

 

彼女は洗濯屋を開くことを夢見て死にもの狂いに働くが

 

夫が事故に遭い家計は彼女の仕事で支えることになる。

 

夫は事故以来、酒浸りになり、さらには彼女の元を去った情夫

 

ランチェが再び街に舞い戻ってきて・・・・・・・・。

  

 

マリア・シェルの屈託のない笑顔を見ると、かえって辛い・・・・・・

 

映画版を観た時も結構な衝撃を受けたのですが、原作の比じゃない。

 

映画版は、原作をジェルヴェーズの洗濯屋で綺麗に洗って

 

ふんわり仕上げにしたかようです(笑) ただでさえキツかった

 

映画版のラストは、原作では墜落の序章に過ぎなかった・・・・・

 

曲者ルネ・クレマンをもってしても、あそこまでは描けなかったか・・・

 

 

原作から強く感じられるのは、貧困や人間の痴態から漂う悪臭。

 

道路脇の下水溝から立ち上る悪臭、居酒屋の中ではアルコールと

 

肉体労働した男たちの汗臭さが混じって、むせ返るような匂いになる。

 

情夫ランチェがクーポー家に居座るようになり、ジェルヴェーズの元から

 

去った時と同じトランクを開き、ぷんぷん匂う昔の情事のすえた匂いに

 

あてられて虚脱感におちいってしまうジェルヴェーズ。

 

そして、貧困の末に忍び寄る“死臭”・・・・・・・・・

 

原作の原題が「ラソモワール」(物語に頻繁に登場する居酒屋)

 

映画版の原題は「ジェルヴェーズ」  

 

登場人物やエピソードを削り、ジェルヴェーズに焦点をあてた映画版

 

という捉え方ができますが、それでも彼女の“死臭”までは

 

描くことはできなかったということなのでしょう。

 

さて、ジェルヴェーズの娘ナナが成長し高級娼婦として男たちを翻弄する

 

「居酒屋」の続編でもある 「ナナ」 を読もうかどうか・・・・・・

                 (ジャン・ルノワール 『女優ナナ』 として映画化)

 

極寒の夜をコレで過ごすつもり?(笑)

 

 

 

 

貧困にあえぎ、卑怯で狡猾で自堕落な男たちに苦しめられ、転落の宿命をたどる薄幸の女の一生を

『禁じられた遊び』の名匠ルネ・クレマンが冷徹なリアリズムで描くフランス文芸映画の名作。