山椒大夫(’54)
原作:森鴎外の同名小説
監督:溝口健二
敵役の名前をタイトルにしたこの映画を観たビクトル・エリセが
映画監督になる決意を固めたと言われおり。
ミゾグチ信奉者でもあるジャン・リュック・ゴダールは、『気狂いピエロ』で
この映画のラストシーンを再現したことでも知られる作品。
平安時代末期、農民を救うため将軍に楯突いた平正氏が左遷された。
妻の玉木(田中絹代)、息子の厨子王と娘の安寿は越後を旅している途中
人買いに騙され離ればなれになってしまう。玉木は佐渡に遊女として
厨子王と安寿は丹後の山椒大夫に奴隷として売られた。
それから十年経っても、厨子王(花柳喜章)と安寿(香川京子)は
奴隷としての生活を続けるが、ついに意を決して逃げ出すことに・・・・・。
「人は慈悲の心を失っては、人ではない」
「己を責めても、人には情けをかけろ」
鑑賞が2回目ともなれば、そうは簡単に泣かないだろうと思ってみたものの
もう涙が、ぼろっぼろこぼれて止まらないですっ。
日本独特の幽玄美が国際的にウケた 『雨月物語』 が
溝口健二の代表作の筆頭に挙げられることが多いですが
徹底したリアリズムで描かれたこの作品もいやいや捨てがたい。
ほかにも“隠れた傑作”“真の代表作”と呼ばれる作品もありますけど・・・・(笑)
香川京子が入水し、水墨画を思わせる池の水面に広がる波紋の美しさ。
実際、墨汁を吹きつけた黒い笹を配置したらしい。
奴隷としての生活を送る兄妹がある日、新しく買われた奴隷が口ずさむ唄に
自分たちの名前が呼ばれているのを耳にする。
「厨子王恋しや~♪ 安寿恋しや~♪」 「お母さまだ!」
フェリーニの『道』で、かつてジェルソミーナが奏でていた曲を聴いた
大道芸人ザンパノが海辺で泣き叫ぶシーンを思い出します。
平安時代末、人買いに騙され母と引き離されてしまった安寿と厨子王丸の兄妹が
山椒大夫の下で奴隷として働かされる。森鴎外の小説を重厚な演出で描いた感動作。
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