始まりを見逃して、途中から観たのだが感動した。
久々に心震えるドラマに出会った気がする。
最初から観なかったことが悔やまれてならない。
文化庁芸術祭 大賞他数々の賞を受賞しているそうだが、
その存在を全く知らずにいた自分のアンテナの低さを恥じるばかり。
番組ホームページ⇒NHK「火の魚」
出演者
小説家 村田省三 (69歳)/原田芳雄
編集者 折見とち子(28歳)/尾野真千子
折見の上司 伊藤(50歳)/岩松了
原作 室生犀星「火の魚」
脚本 渡辺あや
「年も立場も違う男女の「格闘技」のつもりで、この物語を書きました。
村田と折見の間にばちばちと散る火花はしかし火花だけあって、
ふたりを最後まであかるく照らし、あつく熱し続けます。」
制作統括 行成博巳
「『火の魚』は、53分の短いドラマです。
出演者も少なく、物語にダイナミックな展開はありません。
情感を大事にしたため、分かりにくい部分がたくさんある作品です。
変化の波に揺れるこの時代に、あえて虚構の世界で、地味に静かに、
人間の内面(変わらないもの)を描いてみようと考えました。」
演出 黒崎博
「『火の魚』は7年前から温めていた企画で、
室生犀星の短い小説に登場する金魚はとてもエロチックで魅力的だった。
そこには何より、「命」という強いテーマが含まれているように思えて、
今、表現したい世界と強く重なった。渡辺あやさんは、
そのテーマをあくまで簡潔に、切れ味のある脚本に仕上げてくれた。」
【物語】
広島県の瀬戸内にある小さな島に、東京の出版社から編集者がやってくる。
この島に住む老小説家・村田の原稿を受け取るためだ。
村田は孤独で偏屈で身勝手な男。
わざと嫌われるようなことをしたり、言ったりして暮らしている。
これまでの編集者と違う折見が来たことも気に食わない。
つらくあたったり、無理難題を言いつけたり・・・。
その一つが島民に影絵を見せることだった。
村田は若いころ直木賞を取り、
銀座で豪遊、煙草と酒・・・放蕩三昧の生活を送ってきた。
しかし、胃に腫瘍が見つかり、死を覚悟したことをきっかけに
それら全てを捨てて、島暮らしをはじめた。
しかし、皮肉にもそうなってからの作品は精彩を欠いたものになった。
そのことを折見に指摘されて村田は自分自身を見つめざるを得なくなる。
そして、どうしようもなく折見に惹かれていくことも自覚させられてしまう。
「折見をやめさせる」
そのために、村田は決定的に彼女が自分を嫌がるように仕向けようとする。
飼っていた金魚の魚拓を取るように折見に命じたのだった・・・
ストーリーは淡々と進んでいき、大きな事件なぞ全く起きない。
しかし、このドラマは心に迫ってくる。
美しい日本語と穏やかでありながら哀愁の漂う風景。
せりふとせりふの間の沈黙に込められた情感。
「お言葉ですが、私は先生の作品を全て拝読しております。」に始まる
折見による村田省三作品論は圧巻!
ちょっと古風でしかも美しい日本語が折見の口から紡ぎだされる場面には圧倒される。
終盤、折見の秘密が明かされていくあたりから涙が止まらない。
村田の滑稽なまでの狼狽ぶりとむき出しになった素直な心が
可笑しいのに泣けてしまう。
物語の中に織り込まれるエピソードや、使われる小道具にも
心惹かれるこだわりを感じた。
王子とツバメのストーリーが影絵で出てくるのだが、
実はそこから真剣に見始めた。
原作が幼いころに読んだ「幸福の王子」(オスカーワイルド)だと気づいた。
この童話とドラマのテーマがどうかかわってくるのかは
なんだか分かったようでわからないような感じなのだけれど・・・。
村田に自分のわがまま・偏屈さを見つめさせるためだったのかもしれない。
王子とツバメはどこまでも「自己犠牲」を貫いたのだから・・・。
そういえば、
折見役の尾野真千子さんは
愛之助さん出演の映画「小川の辺」にもご出演だった・・・。
初め、田鶴役かなと思ったのだが、そちらは菊池凛子さんらしいので
ヒガシ演じる朔之助の奥さん(役名忘れた!)の役かな?