黄泉路のメディアDAT(Digital Audio Tape)。後継機であるSDAT(*1)が作られる気配もなく2022年現在、昭和~平成初期に作られたDATデッキを修理して使うのでなければDDSテープドライブ(SONY SDT-9000)を使ってパソコンで再生・録音する位しか利用手段がありません。この分野の神ソフトであり、かつ日本語による詳細な情報源でもあったefu氏作のWaveDATが昨年5月頃に公開停止となり、動作させるための情報も先細りです。本記事では現時点から未来へ向けてDDSDATを使う方法を模索しました。とはいえ何か目新しいものが出てきたわけでもなく、5~6年たてばこの記事も陳腐化していると思います。

■SDT-9000を使うための最強環境
SDT-9000もWaveDATも、最も使われていたのは2000年代初頭です。使用手順は現在も変わっていません。よって、当時まだ入手可能であった以下のようなハードウェア、ソフトウェアの組み合わせが最強であることも変わっていません。

・BIOSで起動し、PCI-BUSを装備したデスクトップパソコン
・PCI-BUSで使えるSCSIインターフェース(Adaptec AHA-2940など)
・WindowsXP 32bit
・DOS版ASPIマネージャ
・Win版ASPIマネージャ

私も含め、多くの方々はこちらのサイトの記事を参考に使用環境を構築されたことでしょう。

パソコンをDAT化しよう
http://recording.s53.xrea.com/sdt.htm

今でも上記の環境が用意できる方は、今回書く方法よりも安定して使えますのでそちらを使いましょう。しかし2000年代初頭から既に20年近くが経過し「PCIバス」も「BIOS起動」も「32bitOS」も過去のものになってしまいました。今後、これらのハードウェアと使い方情報の入手がさらに難しくなるのは確実です。本記事はLogitecのLUB-SC2というUSB-SCSI変換ケーブルの利用を軸に展開しますが、DDSDATを今後も末永く使い続けようとお考えであるなら、まだ中古市場で見かけるうちにこの製品を入手しておいたほうが良いのではないかと思います。

本記事を書くにあたり使用した環境は次の通りです。

・ノートパソコン HP ProBook450G3 Core i7-6500U/Windows11Pro 64bit(後編で登場)
・ノートパソコン TOSHIBA DynabookSS RX2 Core2Duo-SU9300/Windows10 32bit
・SCSIインターフェース Logitec LUB-SC2 USB-SCSI変換ケーブル


なお、私は過去に録音したDAT資産を後世に残すためにキャプチャしたいだけで、DATに新しく録音しようとかDATからDATヘダビングしようとかいう需要がまったくありません。本記事はすべて再生のみのチェックで録音に関しての実用性は未知数です。

■USB-SCSI変換ケーブルでSDT-9000は使えるか?
使えます。昔からの記事ではデスクトップ機のPCI-BUSに挿すSCSI I/F(Adaptec推奨)が必要とされていますが、これはSDT-9000のファームウェアをデータ用からオーディオ用に書き換える際にWindowsよりも古いDOS環境が必要なためで(後述)、ファームウェアを既に書き換えてあるSDT-9000を持っている場合はUSB-SCSI変換ケーブルでも使えます。ただし初期のUSBはPCIバスよりも転送速度が遅いため倍速運用が難しい場合が多いそうです。

この手の変換ケーブルはRATOCの製品(U2SCX)が唯一64bitOS対応を謳っていましたが生産完了でプレミア価格となっており極めて高価(5万円以上)です。以前から私が使っているLogitech LUB-SC2はドライバのサポートがWindows Vistaで止まっているので世の中的にはあまり価値が無く、中古品を安価に手に入れることができます(と思っていましたが、ヤフオクの落札価格相場を見に行ったらこれも値段が上がり始めていますね。以前は4〜5千円で買えたのですが)。これを使ってWindows10/11でWaveDATが動くのか、を調べます。LUB-SC(無印)とLUB-SC2の違いは転送速度で、SCがUSB1.1、SC2がUSB2.0(理論上は480Mbpsまでですが勿論そんなに出ません)です。これから入手する方にはLUB-SC2をお薦めします。

■LUB-SC2の2つの動作モード
まず成功の確率が高いWindows10(32bit)で試しました。SDT-9000のジャンパピンを下記のように設定しました。

ID=0
TERM POWER ON
TERMINATOR ON(外付けのSCSIターミネーターを使う場合はOFF)

私のSDT-9000(ファームウェア書き換え済)は昔のSCSI外付けCD-ROM(Logitec SCD440)のケースに入れてあります(*2)。



このようにして使うメリットはデスクトップPC本体への内蔵と比べてヘッド掃除のようなメンテナンスが容易な事です。外付けのターミネーターを別件で使っているのでSDT-9000内蔵のターミネーターを生かしました。50pinSCSI端子にLUB-SC2をつないで電源を入れ、TOSHIBA Dynabook SS RX2のUSB2.0端子につないで起動するとデバイスマネージャーでは「USB大容量記憶装置」としてWindowsの標準ドライバで認識されました(同じ装置が複数ありますが、デバイスのイベントタブの日時で今つないだものかどうかが識別できます)。


SCSI機器がMOやHDDであればこのままでも利用できるそうです(*3)。SDT-9000も認識されて、デバイスマネージャーに「SONY SDT-9000 USB Device」の表示が出ます、が、適合するドライバーが無いので「!」マークが付いています。この状態でWaveDATを起動してみましたが、SPTIモードでもASPIモードでも「テープドライブが見当たりません」と表示が出てアクセス不可です。

LogitecのサイトにはLUB-SC2のドライバがまだ公開されています。
https://www.logitec.co.jp/down/soft/if/lubsc2.html

LUBSC2_WVD100.EXE(Windows Vista用)
LUBSC2_WD130.EXE(Windows95/98/2000/XP用)

これらを実行すると指定した解凍先にファイルが生成されます。それぞれのVERSION.TXTによれば、

【LUBSC2_WVD100】
TITLE: LUB-SC2 Windows Vistaドライバ
PRODUCT: LST-D048-2
VERSION: Ver 1.00
DATE: 2007-2-20

【LUBSC2_WD130】
TITLE: LUB-SC2 ドライバ
PRODUCT: LST-D048
VERSION: Ver 1.30
OS: Windows XP, Me, 98, 2000
DATE: 2006-04-20

となっており、今回はVista用のドライバー(LUBSC2_WVD100)を使います。Vista用ドライバーもインストール情報ファイルを見た限りではWindows98/2000/XPへも対応しているようですが、ということは64bitには対応していないということです。

添付のHTMLによるとLUB-SC2にはUSBディスクモードSCSIエミュレーションモードの2つの動作モードがあります。USBディスクモードとは先ほど試したSCSI ID=0に設定して「USB大容量記憶装置」として認識させる方法です。Windowsの標準ドライバで認識させるので64bitのWindows10/11でもそのまま使えるという利点があります。LUB-SC2がWindows 64bitで使えるかをネットで検索して調べると、これを根拠に使えると書いてあるサイトが多く、それはそれで間違ってはいないのですが、SDT-9000のようなテープドライブやスキャナを使う場合は以下の手順によりSCSIエミュレーションモードで使わねばなりません。LUB-SC2とSDT-9000を取り外し、SCSI-IDのディップスイッチを変更します。

ID=1~6のいずれか(ID=0は不可)
TERM POWER ON
TERMINATOR ON(外付けのSCSIターミネータを使う場合はOFF)

次に、LUBSC2_WVD100.EXEを展開して出てくるDPinst.exeを管理者実行します。DPinst.exeには署名が無いので赤字で2回警告が出ますが、構わずインストールします。LUBSC22K.SYSとLUBSC2X2.SYSの2つのドライバーのインストール完了が出ればOKです(ここで64bit用のインストーラーが必要ですと表示された場合は64bitOSなのでこの先に進めません)。

念のため再起動します。SDT-9000をつないだLUB-SC2をUSBポートに挿すと、デバイスマネージャーに2つの項目が増えます。ユニバーサルシリアルバスコントローラーの中にある"Logitech LUB-SC2"と記憶域コントローラーの中の"Logitec LUB-SC2 USB-SCSI Adapter"です。この2つが表示されている時はLUB-SC2がSCSIエミュレーションモードで動いています。加えてテープドライブの項目の中に"SONY SDT-9000 SCSI Sequential Device"が見えていれば、SPTIモードのWaveDATでSDT-9000を認識し普通に操作できるはずです。取り外す際は、「ハードウェアの安全な取り外し~」から"SONY SDT-9000 SCSI Sequential Device"か"Logitec LUB-SC2 USB-SCSI Adapter"を右クリックで取り外してUSBポートから抜きます。

■SDT-9000のファームウェア書き換えにDOSは本当に必要か?
本来データバックアップ用のテープストリーマであるSDT-9000を音の再生・録音用途に使うためにはファームウェアをオーディオ用のもの(SGI audio firmware 12.2)に書き換える必要があります。古い記事ではこの作業にFWASPIというDOSのコマンドラインアプリを使うため、フロッピーディスクかUSBメモリーでDOSの起動環境を作ってDOS用のSCSIカードのドライバやASPIマネージャを組み込む手法が紹介されていました。しかしこの手法はWindows以降のPCしか触った経験が無い方には難易度が高く、またLUB-SC2にはそもそもDOS用のドライバーが無いので使えません。加えて、最新のWindowsPCではDOS時代の16bitアプリが使えなくなっていたり、UEFIによるセキュアブートがデフォルトになっていたりしていてレガシーBIOSブートへの切り替えにリスクがある場合があります。

Sony Tape Tool(STT)はソニー製のテープドライブを管理するためのWindowsアプリです。LUB-SC2をSCSIエミュレーションモードで使っていれば、このソフトからSDT-9000のファームウェアを書き換えたりデバイスの状況(現在のファームウェアバージョンや累積使用時間など)を確認したりできます。当方が動作を確認したSTTのバージョンはv1.039です。FWASPIと違いわかりやすいGUIで、DOSで起動環境を作る必要もなくASPIマネージャーのインストールも不要です。


書き換え操作はSTTを起動し、ファームウェアのアップグレードのファイル選択からオーディオ用のファームウェアファイルを指定して開始を押すだけです(開始ボタンの横にある"ファームウエアテー"で見切れているボタンはテープメディアから更新するためのボタンで使用しません)。


LUB-SC2とSTTがあれば、ファームウェアの書き換えにPCIバスで動作するSCSIインターフェースやDOSの知識は不要です。

■WaveDATの代替ソフトはあるのか?
WaveDATはパソコンをテープデッキのように使える素晴らしいシェアウェアでしたが、残念ながら現在は公開中止となっています。公開中止時点での最新バージョンはv1.23でした。公開中止になった理由は不明ですが、およそ一般のパソコンユーザーには縁のない特殊なドライブを、とうの昔に製造販売が終了した古いハードやソフトで動かす話ですからefu氏のサポート対応も簡単なことではなかったと思います。私自身もかなり以前にDM対応をしていただいた事がありました。長年にわたる開発と提供に感謝しかありません。

しかしWaveDATが無くても、SDT-9000を使ってDATの音源を取り込むだけなら昔から他にもいくつかソフトがありました。コマンドラインアプリながら日本語で使えるのが下記のサイトで公開されているyokase氏のSDT-9000DATToolです。

SONY SDT-9000でオーディオDATテープを読む
http://www.din.or.jp/~yokase/SDT-9000/

・SONY SDT-9000のオーディオ対応ファーム1.22専用。
・Windows 2000以降用。(ASPIは不要のはず)
・44.1kHzと48kHz(未テスト)に対応。
・2パスでWAVファイルに変換。(すみません、手抜きしてます。)
・簡易START ID位置補正 + 末尾のゼロ音量のフレームのカット
・約2倍速での読み込み

使ってみましたが、Windows10(32bit)+LUB-SC2+SDT-9000(FW v12.2)でちゃんと動作しました。再生音を聞きながら、というわけにはいきませんが、私のように録音用途が無く、DATの過去資産をまるっとパソコンに吸い出してデータ化したい人にはこちらのほうが向いているとも思えます。

欠点としては、データがあろうがなかろうがテープの最初から最後まで取り込みますので時間がかかります。ABS Timeが無い部分も取り込めますが、タイムカウンター(ATIME)が回りません。このためリールが回っているのが外から見えないDDSDATでは動いているのかハングアップしているのかがわからない場合があります。SDT-9000の3つあるLEDのうち一番左がチカチカ点滅していて、Windowsのリソースメーターを見て「ディスク」の欄にDUMPDAT.IMGへのデータ書き込みがあれば生きています。


最後にテープが巻き戻され正常終了するとDUMPDAT.IMGというファイルが出来ていますのでIMG2WAV.EXEで切り分けます。テープの初めの所でエラーが多いと取り込みに失敗する場合が時々あり、しかし失敗している事がわかるのは全部回ってからです。速度は遅いもののエラーを無視する設定にしたWaveDATのほうが若干耐性が高いです。

この他に海外製のソフトでdat2wavもあります。作った会社は無くなっていますが残存WebサイトやGitHubからまだダウンロードできます。ただし動作にはASPIマネージャーが必要なようです。AdaptecのWindows用ASPIマネージャ(ASPI32.sys/WNASPI32.DLL)をインストールすれば動作するのではないかと思います。

(*1)新世紀エヴァンゲリオンの中で主人公のシンジ君が使っているポータブル音楽プレーヤー
(*2)SCSIの50ピンフラットケーブルの入手が難しくなっていますが、ケーブルを自作するための材料であるフラットケーブルや50ピンのコネクタは本記事執筆時点で千石電商等でまだ販売されています。

(*3)機器によっては接続機器の電源を入れる順番で認識されたりされなかったりするらしい。最初からMO/HDDの電源を入れてつないでからパソコンを起動するか、パソコンを起動してからMO/HDDの電源を入れるか。

■SDT-9000からテープがイジェクトされない場合
取り込み作業中にテープがイジェクト不能になりました。ボタンを押してもSTTからイジェクトのコマンドを送っても駄目です。上蓋を外してみると回転ヘッドにテープがかかっていないので巻き込む心配は無いようですが取り出せないと困ります。


このような時はドライブを取り外して裏返すとフロントローディング用のモーターを直接回すネジがありますのでプラスドライバー(非磁性が望ましい)でUNLOADの矢印の方向へ根気良く回すと少しづつ出てきます。


調べてみたところ、カセット内でテープが切れてしまっていました。こうなるとカセットを投入してもリールに全部巻き取られてしまいイジェクト不能になってしまいます。

(がんくま)

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