星間飛行、キラッ | A DAY IN THE LIFE WITH MUSIC

星間飛行、キラッ

今年は松本隆の作詞活動45周年ということで、トリビュートアルバムがリリースされたり、雑誌で特集が組まれたり、松田聖子の今秋のシングルが松本隆作詞・ユーミン作曲で作られるなんていうのがニュースになったりと、何かと盛り上がっているようで、彼の作詞に着目して往年の昭和のアイドル歌謡を改めてじっくりと聴きまくっている、なんていう人も多いのではないでしょうか。

まあ松田聖子を筆頭に、太田裕美に斉藤由貴に薬師丸ひろ子、松本隆が手掛けたアイドルはたいくさんいますしヒット曲はそれこそ山のようにありますが、スルーされがちなのが「星間飛行」です。
この2008年の名曲について、松本隆作詞という観点から語られることがほとんどないようなので、だったらオレが記事をアップしようじゃないかと思った次第です。
といってもインタビューの引用がほとんどですが(^^;

星間飛行とは、テレビアニメーション『マクロスフロンティア』の架空の登場人物、ランカ・リーの 代表曲(この曲がデビュー曲としばしば誤解されるが、ランカのデビュー曲は「ねこ日記」)であり、そして、中の人歌手中島愛にとってはデビューシングル曲でもある。
作詞:松本隆
作曲・編曲:菅野よう子
劇中、ヒロインの一人ランカ・リーが歌う曲であり、又、 実際に歌っているのもランカ・リー役である中島愛である。

(ニコニコ大百科より)




松本隆の「星間飛行」制作秘話のインタビューを抜粋引用しています。
彼の公式HP風街茶房からの引用です(現在はなくなってるようです)。
このインタビューを読めば作詞という作業が非常に練られたものであり、そんなことまで考えて作っているんだ!と目からウロコであり、改めて歌詞の内容やイメージに鳥肌が立ち、そして感動を覚えるのではないかと思います。


――菅野よう子さんからはどういう要望があったんですか?
松本:彼女が言ってたことで一番気に入ったのはさ、「銀河一のアイドルのデビュー曲を作ってください」ってこと(笑)。日本1位のアイドルは書いたし、スリーディグリーズっていう全米1位のお姉さんたちに詞を書いたこともあったけど、銀河1位は無かったなと思ってさ(笑)。ぜひトライしてみたいと思った。

――歌詞について少し聞かせていただけませんか。
松本:あんまり僕は自分の詞を説明しないんだけど、ちょっとだけ話をすると…。まずバラードが来ると思ってたんだけど、菅野さんからはアップテンポの曲が来たんだ。バラードだったらさ、「瑠璃色の地球」みたいなイメージかなと思ったんだけど。

――聖子さんの名曲ですね。でも来たのは、80年代アイドルをイメージさせる、明るいポップスですね。
松本:うん。これは「80年代アイドルだったら松本隆」みたいな、ネタかな?と思ったんだ(笑)。だからその裏をかきたいと思ってさ。

――高度や読み合いですね。
松本:アップテンポの曲で何ができるか?ってことを考えて、最初にイメージしたのは、「銀河一のアイドル」だったら、単に1対1の男女の話じゃないだろう、と。それだけじゃ済まないものを作りたいなと思ったんだ。たとえ相手が異星人であろうと、もしくはバジュラにすら愛されるようじゃないとだめだろうと。

――かつてないスケールのテーマですね。
♪水面が揺らぐ 風の輪が拡がる 触れ合った指先の 青い電流♪
松本:出だしは、水面の静かなイメージから始まるんだ。「す」は50音の中でも最も弱い音のひとつだし、「水面」「揺らぐ」っていうのもすごく微細なイメージだよね。水面に水が一滴落ちて広く拡散していく。次に出てくる「風の輪」っていうのは、自然界には普通、存在しないよね。つまりその裏には”爆発”が潜んでいるんだ。

――なるほど。
松本:ここからだんだん強いイメージがフェードインしてくる。「風の輪がひろがる」で韻を踏んでいくと綺麗に広がっていくイメージになる。あと密かにさ、「水面」は「マクロス ゼロ」で、「風」は「マクロスプラス」へのオマージュなんだ。「マクロス ゼロ」は南の島と海が舞台の物語だし、「マクロスプラス」はオープニングで風車が出てくるでしょ?

――確かに!そこまで考えてたんですね!
松本:それで、次の「触れ合った指先」っていうのは、システィーナ礼拝堂にあるミケランジェロの「天地創造」の天井画のイメージ。あの指と指は、神と人だよね。そして、「青い電流」っていうのは静電気なんだけど、自分と違う価値観に出会ったときに感じる痛みなんだ。

――最初の2行だけでもそれだけの意味が込められているんですね。
松本:歌の最後は、♪魂に銀河 雪崩れてく♪で終わるんだけど、そこまでくると、溶解した宇宙が一人の人間に吸い込まれていくようなものすごいスケールになる。

――最初の水面の揺らぎから、3分間で一気に究極のスケールまで大きくなるんですね。凄まじいダイナミズムですね。
松本:ものすごく微細な世界から銀河のような巨大な世界への拡がり。これはまだ誰もやったことがないと思うんだ。仕掛けはそういうふうになってる。…あとは、「ほうきにまたがった女の子」って可愛いでしょ?

――(笑)。サビで出てきますね。
♪流星にまたがって あなたに急降下♪
松本:それをやりたいなと思ってさ。ほうき星の代わりに流星にまたがるんだ。裏には色っぽさも出るしね。急降下、急上昇っていうのは、無重力に逆らったり近づいたりしてるイメージで、そういうのはすべて恋愛にも繋がってくる。恋愛してる時って、体が逆さになったりする気分だったりするからさ(笑)。こうやって、詞全体でひとつの出会いを物語っているんだ。男と女かも知れないし、ランカ・リーとバジュラでもいいし。

――たとえ相手が怪獣でも。
松本:そう、相手は誰でも成立する。しかもラブソングなんだよね。それが「銀河一のアイドルのデビュー曲」への解答だね(笑)。

――「星間飛行」で印象的なのが、サビの直前に入る「キラッ!」っていう叫びですよね。「星間飛行」を劇中でランカちゃんが歌う第12話では、「キラッ!」と叫ぶカットがすごく良かった。そのポーズがそのままCDのジャケットにもなってますけど、あれはどういう経緯で生まれたんでしょうか?
松本:最初に菅野さんから曲をもらったときに、サビの頭に音符が2個あったから、それに「キラッ」てつけたんだ。メロディ的には♪キラッ流星にまたがって♪とつながってた。ただその2個の音符がわりと低い音だったから、「音が潜っちゃうな」と思ってたんだ。レコーディングに行ったら、菅野さんも同じことを考えていたらしくて、突然あの部分を「キラッ!」と叫ぶように変えたんだ。

――直前にああいう形になったんですね。
松本:そのとき僕は内心、苦笑していたんだ(笑)。マンガでいうとこめかみに汗がたらり、みたいな。でもそういう意味では、菅野さんはアニメを熟知してると思った。

――まさにそれがハマっていて、劇中では「キラッ!」にあわせて星が飛んだりして、すごくいい演出になってましたよね。第12話の、あのバルキリーに載って歌うシーン自体すごく良かった。
松本:うん。詞の意味をすごく理解して表現してくれてたと思う。風防が開いて、ランカが機体の中で立ち上がったときの不安定感みたいなのは、僕の詞にすごく合うと思った。僕は嬉しいよね。心の中で拍手!って感じ(笑)。

――すごく良くて、何度も巻き戻して見ちゃいました。
松本:実は菅野さんに詞を渡す前に、タイトルを迷ってたんだ。「星間飛行」にするか、「星間飛行、キラッ」にしようかって。僕の中ではその語感のシリーズがあってさ、「赤道小町ドキッ」(山下久美子)と、「誘惑光線・クラッ」(早見優)っていう。

――なるほど!もしそうなってたら三部作ですね。
松本:うん。昔ならそうしてたと思うんだけど、今は時代が読めないからね、やり過ぎかなと思って。結果的にはそっちのほうが売れたかもとも思うんだけど、今回は歌の中だけにしておいたんだ。そういうのはいつも自分の中では迷ってるわけ。でも、今回は、タイトルは「星間飛行」って重めにしたんだ。
(引用ここまで)

以上を踏まえてこの曲を聴くとより一層味わい深いです。


ちなみに松本隆の歌詞の面から見てよくできているな、と思うのはいくつかありますが、パッと浮かんだのは松田聖子の「制服」ですかね。

ただのクラスメイトだから
ただのクラスメイトなのに
ただのクラスメイトだけで

この三つの微妙な書き分けの違いによる心象描写は凄いなあ、と感心します。