深夜特急1 香港・マカオ / 沢木耕太郎
「深夜特急」は、インドのデリーからロンドンまでバスで旅をする26才の「私」の物語。
文庫本では1~6まで出版されていますが、今回紹介するのは1の「香港・マカオ編」です。
この本は多くのバックパッカー達に影響を与え、そして漠然と一人旅をしてみたいなあと思っている人の背中を押したのではないでしょうか。
インドのデリーからイギリスのロンドンまで、乗り合いバスで行く―。
ある日そう思い立った26歳の<私>は、仕事をすべて投げ出して旅に出た。
途中立ち寄った香港では、街の熱気に酔い痴れて、思わぬ長居をしてしまう。
マカオでは「大小(ダイスウ)」というサイコロ博奕に魅せられ、あわや・・・・・。
一年以上にわたるユーラシア放浪が、今始まった。
いざ、遠路二万キロ彼方のロンドンへ!
まあオレなんかも航空チケットだけを購入して海外行ったことが何度かありますが、それは全てこの「深夜特急」に触発されてのことで、そしてそういう人はいっぱいいることでしょう。
いいことがあり、いやなことがあり、人の暖かさに心を打たれたり、考えさせられたり...。
著者は流されるままに、足の向くままに旅をしていくのですが、この本は単なる一人旅の記録ではなく、さまざまな出来事を俯瞰的に冷静に見つめています。
そして香港・マカオのエネルギッシュでエキサイティングで妖しげな雰囲気が伝わってきます。
「次の日から熱に浮かされたように香港中をうろつきはじめた。
私は歩き、眺め、話し、笑い、食べ、呑んだ。
どこへ行っても、誰かがいて、何かがあった。」
ソバ屋の前で出会った無職の青年とソバを食べた場面は考えさせられます。
ソバを食べ終わった青年は店のオバサンに何かを話しかけ、お金を払わずに出て行きます。
タカられたと思い、お金を払おうとするがオバサンはいらないと言う。
「オバサンや客の必死の身ぶりでようやく理解したところによれば、ペンキ屋の彼がこういって立ち去ったらしいのだ。
明日、荷役の仕事にありつけるから、この二人分はツケにしておいてくれ、頼む・・・。
私は失業している若者に昼食をおごってもらっていたのだ。
情けないのはおごってもらったことではなく、一瞬でも彼を疑ってしまったことである。
少なくとも、王侯の気分を持っているのは、何がしかのドルを持っている私ではなく、無一文のはずの彼だったことは確かだった。」
後半のマカオでのサイコロ博打の場面も相当アツいです。
著者のギャンブルにのめりこんでいく様にハラハラドキドキですよ。
カジノで大負けして、「もう帰ろう」と思った著者がふとダイスという単語のスペルが気になって辞書で調べる場面も示唆に富んでいます。
「綴りはやはりDICEだった。
しかし意外だったのはそれが複数形で、賽の単数はDIEであると記されていたことだった。
DIE、つまり死だ。
賽が死と全く同じ綴りを持っていることに驚かされた。
辞書にはこんな例文も載っていた。
賽は投げられた。
ルビコン河を前にしての、ジュリアス・シーザーの有名な台詞である。
それを英語にすると次のようになるという。
The die is cast.
だが、この文章をじっと見つめていると、投げられたのは賽ではなく、死であったかのように思えてくる。
いや、賽を投げるとは、結局は死を投ずることだと言われているような気がしてくる。
DICEはDIE、賽は死と・・・・・。」
個人的には旅情をかきたててくれる最高の本です。
旅好きの人、或いは旅に出たいと思ってる人は是非一度読んでみることをオススメします。
ちなみに、だいぶ前にテレビでやってた猿岩石(死語)の香港からロンドンまでヒッチハイク横断というヤラセ企画は、この「深夜特急」にインスパイヤされたことは間違いないでしょうね。
自分探し?
オマエはそこに「いる」じゃないか。