ナイロン・カーテン / ビリー・ジョエル | A DAY IN THE LIFE WITH MUSIC

ナイロン・カーテン / ビリー・ジョエル

THE NYLON CURTAIN / BILLY JOEL


nylon curtain


①ALLENTOWN  アレンタウン

②LAURA  ローラ

③PRESSURE  プレッシャー

④GOODNIGHT SAIGON  グッドナイト・サイゴン  ~英雄達の鎮魂歌(レクイエム)

⑤SHE'S RIGHT ON TIME  シーズ・ライト・オン・タイム

⑥A ROOM OF OUR OWN  ふたりだけのルーム 

⑦SURPRISES  サプライズ

⑧SCANDINAVIAN SKIES  スカンジナヴィアン・スカイ

⑨WHERE'S THE ORCHESTRA ?  オーケストラは何処へ?



本日紹介するのは、1982年のビリー・ジョエルのアルバム「ナイロン・カーテン」です。


アメリカのポップ・シーンにおいて、70年代後半から80年代前半というのは、ビリー・ジョエルの時代でした。

ストーリー性のある優れた詩を、AOR(死語w)を機軸としたポップなわかりやすいフォーマットでピアノを弾きながら歌う彼は、まさに「ピアノの詩人」でした。


「オネスティ」「ストレンジャー」「ピアノ・マン」「ニュー・ヨークの想い」など、彼を知らない人も、一度は彼の曲を聴いたことがあると思います。


人気・実力共に絶頂期にあった1982年にリリースされたのがこの問題作「ナイロン・カーテン」でした。

収録曲は、社会問題にスポットを当てたヘヴィなものや、内省的な歌詞が多く見られ、ラヴソングは影を潜めています。

当時の多くのファンが戸惑ったと思います。

アーティストが社会問題を扱うと、ファンは必ず戸惑うのですw


「ナイロン・カーテン」とは、透けて見える透明のカーテンです。

経済的に豊かな人は、カーテンをかけるけど、貧しい人はカーテンすら買うことが出来ないからオープンな暮らしだけれども心は豊かだ、だから経済的に豊かになってもナイロンのカーテンをかけるくらいのオープンで心豊かな人間になるべきだ、という意味がタイトルにはこめられている、とビリー・ジョエルの大ファンだった当時の友達はアツく語ってました。

今では彼の部屋にはナイロン・カーテンがかけられているのでしょうか。


また、アルバム・ジャケットに描かれている駐車場つき一戸建ての同じ家が並ぶイラストというのは、豊かになった個性のない社会を表しているのかもしれません。



①は廃れていく工業都市を歌っています。

景気の悪い現実が歌われ、


「この町で暮らすのはますます困難になっていく でも僕らはここアレンタウンに住んでいる」


という歌詞で締めくくられます。

それでも希望を持って頑張ろう、という意味なのか、諦めて耐えるしかない、という意味なのか、わかりかねますが、おそらく後者のほうだと思います。


ヘヴィな歌ですが、メロディが良く、しかも淡々と歌われているので悲痛さを感じさせません。


③は精神的に未熟な人物を歌っていますが、それは何かを暗喩しているようです。


「顔に傷ひとつない君は、プレッシャーには勝てない」

「君の人生はタイム・マガジンだ 僕も読んでるよ」


などと意味深ですが、ノリのいいキャッチーな曲なので、歌詞の内容を理解しなくても楽しめます。


④は間違いなくこのアルバムのハイライトです。

タイトルから分かるようにこれはベトナム戦争の歌です。


75年の戦争終結以降、アメリカ人の多くが、この忌まわしい戦争を一日も早く忘れたい、と考えていました。

ベトナム戦争を総括するとか、戦争責任を追及する、といった声は上がりませんでした。

そんなみんなが忘れたいと思っていたベトナム戦争のツケを一身に浴びることになったのがベトナム帰還兵で、マスコミが関心を集めたのが、彼らの社会復帰の問題でした。

そのことがアメリカにベトナム戦争は忘れたくても忘れられない、ということを自覚させるのです。

70年代後半から80年代中頃にかけて、ベトナム戦争(及びベトナム帰還兵)に関する映画や曲が作られるようになりましたが、この曲もそうした流れがあったからこそ生まれた曲なのかも知れません。


イントロのヘリコプターの音は、まるで映画「地獄の黙示録」のオープニングようです。


「誰が間違っていたのか? 誰が正しかったのか? 戦いの真っ只中ではそんなことは関係ない」

「僕らはみんな一緒に死んでいくのだ」


生々しく刺激的で絶望的なこの曲は、ヘリコプターの音がフェードアウトして終わります。

ヘリコプターは、待っていた彼らを救出するのではなく、死体搬送のものだったのです。


このアルバムの日本盤にはビリー・ジョエル本人によるアルバム収録曲に対するコメントが記載されてますが、とりわけこの曲のコメントは長文です。



アルバムは静かでムーディーな⑨で幕を閉じます。


「カーテンコールの後でカーテンは誰もいない客席の前に降りてくる」



その他、このアルバムにはビートルズを彷彿させるような②や⑦⑧があります。

ビリー・ジョエル自身が「このアルバムは僕にとってのサージェント・ペパー だ」と言ってるように、曲作りにおいてビートルズを意識していたのかも知れません。

或いは、社会的内容の問題作、という自覚がそうしたことを言わせたのかもわかりません。


ここにはサージェント・ペパーのような難解さはありません。

ビリー・ジョエルはアルバム毎にスタイルを変え、ファンを楽しませてくれるのですが、その中でもこのアルバムは特に毛色が違うように思います。



そんな鬼っ子アルバムですが、オレにとっては80年代の名作のひとつです。





グッドナイト・サイゴン ~英雄達の鎮魂歌(レクイエム)




パリス島で僕らは親友になった

そして収容所から同じ囚人として別れた

僕らはナイフのように研ぎ澄まされていた

命を投げ捨てるには僕らはあまりに若かった


僕らは景色を撮るカメラもなく

ハッシのパイプを回しドアーズのテープを聴いた

夜になるとあたりは真っ暗闇だった

僕らはまるで兄弟のようにお互いにすがりあった

そして母親たちに手紙を書くと約束した


僕らはみんな一緒に死んでいくのだ