Wilson McKinley | サイケデリック漂流記

Wilson McKinley

Spirit of Elijah
Wilson McKinley
Spirit of Elijah

Azitisの話題が出たので、クリスチャンサイケの名作をもうひとつ・・・。

Wilson McKinleyというのは個人ではなくて、ワシントン州Spokane出身の4人組。もともと(60年代末)は宗教とは関係のない(プロの)バンドとして活動していましたが、当時のヒッピーやフラワーチルドレンの多くに影響を与えたキリスト教プロテスタントのJesus Peopleの街頭活動に感化され、1970年にメンバーのほとんどが一斉に回心。その後、一派(The Voice of Elijah)の「ハウスバンド」としてロックミュージックによる布教活動を行ったという、ホンモノのクリスチャンバンドです。

教団の信者で楽器が出来る者が集まってバンドを組んだ、というありがちなパターン(それはそれで面白いんですが…)とは少し違って、歌・演奏・ソングライティングともに非常に潜在能力が高いのが彼らの特徴です。なぜ「潜在能力」かというと、満足な予算も機材もレコーディング技術も持ち合わせていなかった一派の手によって自主制作されたレコードには、彼らの能力が100%発揮されていたとはいえないからです。

しかしながら、その不完全なプロダクションこそが、この"Spirit of Elijah"(1971)をサイケ的に「美味しい」作品にしています。ありあわせの機材で、たった一夜のセッションで録音されたという本作は、「回心後」の二作目となるもので、ひとことでいうと「Moby Grapeがガレージでジャムセッションしてるみたい」なアルバム。いわゆる「どサイケ」ではありませんが、ギターオリエンテッドなユルいシスコサイケ風ジャム感覚があって、Moby Grape, Grateful Dead, QMS, Kakといったところがお好きな方はきっとハマると思います。

面白いのが1曲目のMoby Grapeの"He"のカバー。まったく歌詞を替えて、Heをイエスキリストに見立てたものに作り変えています。その次のMoody Bluesの "It's Up to You"のカバーも同様の「替え歌」なんですが、これがまたヘヴィサイケ風味の見事なアメリカンロックになっていて、とてもカッコイイ。ほかにも、歌詞だけでなくタイトルまで替えている曲があるので、その元ネタを探ってみるのも一興ではないかと思います。

このあとバンドは、オリジナル曲中心でAllman Brothers的な側面を発展させた "Heaven's Gonna Be a Blast"(1972)、後期Byrdsを思わせるようなカントリーロック風味の"Country in the Sky"(1973,カセットのみのリリース)を残しています。(Voice of Elijahは70年代半ばに自然消滅、バンドはその後しばらく活動を続けたのち70年代末に解散。なお、「回心後」の1stは1970年の"On Stage - Jesus People's Army"。)

実は私が一番好きなのが最後の"Country in the Sky"で、"Spirit of~"とはまったく別のバンドのような、ソフト~メロウサイケな佳品となっています。メジャーになれる実力を持ちながら、大手レーベルからの「ジーザスソングを減らすなら契約してもいい」という提案を蹴ってまで信仰の道を選んだ彼らの真摯さが、ある意味異様にサイケです。このアルバムの全8曲中6曲は"Message Brought to Us: Anthology Vol.1"(2000)という、彼らの4枚のアルバムからの楽曲(+1ボーナス)を収めたコンピCDに収録されています。amazonには売ってないようですが、どこかで見かけたら是非どうぞ。


さて、話はこれで終わったわけではありません。実は彼らは「回心前」にもアルバムを1枚(とEPを1枚)出しています。そのアルバムというのが、101 StringsやAnimated Eggのリリースでお馴染みのAlshireレーベルから、California Poppy Pickers名義で発売された"Honky Tonk Women"(1969)です。

California Poppy PickersというのはAnimated Eggのような架空の「なんちゃってサイケ」グループで、演奏は匿名のミュージシャンによるもの。ほとんどが当時のスタンダードナンバーのカバー曲で占められた、いわゆる「企画もの(エクスプロイト)」作品です。1969年に、"Sounds of '69", "Hair/Aquarius", "Today's Chart Busters", "Honky Tonk Women"という、いかにもなタイトル(ジャケも)の4枚のアルバムがリリースされています。

ところが、この最後のWilson McKinleyの手による"Honky Tonk Women"だけは、ちょっと雰囲気が異なっています。彼らのオリジナルは"Brick Walls"の1曲のみで、あとはタイトルナンバーや"Get Together", "Proud Mary"といったカバー曲なんですが、演奏の質が他の3枚とはかなり違います。Wilson McKinleyというバンドのアルバムとしても、ちゃんと成立している感じなんですね。これは中身もジャケ(下の画像)も埋もれさせておくのは惜しい内容なので、CD化が望まれるところです。("The Best of California Poppy Pickers"というタイトルが音楽ダウンロードで販売されているようですが、CD化されているかどうかは不明。)

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