境界サイケ特集 その12 | サイケデリック漂流記

境界サイケ特集 その12

今回は「ギター一本インスト」系です。サイケ的にアコースティックギターだけのインストルメンタルが面白いのか?と正面切って問われると困るんですが、聴く時と場合によってはとてもハマることがあります。アンサンブルとか歌詞とかに気を配らないくていい分、自分の世界に入り込めるということがあるのかもしれません。(「ひとりよがり」というのもサイケではプラスになる。)


Vol. 4: The Great San Bernardino Birthday Party
John Fahey
Vol. 4: The Great San Bernardino Birthday Party

「ギター一本インスト」といえば、この人。ジョン・フェイヒィは、いわゆる「ブルースおたく」で、大学でブルース音楽に関する論文を書き、アメリカンルーツミュージックとしてのデルタブルースを発掘したりする一方、自らレコードレーベルのTakomaを創設して、精力的に自作の発表や後輩アーティストのプロデュースを行ってきました。また、Bob Hiteらとともに、レコードデビュー前のCanned Heatの結成にも関わっています(彼らのエレキ化とともに離脱)。

70年代はじめまででも1ダース以上のアルバムが出ているので、全部を聴いたわけではありませんが、基本はフィンガーピッキングのアコースティックギター一本のみの演奏に、たまにエフェクトやコラージュ、伴奏程度に他の楽器が混じったりするというシンプルなもの。スタイルも、一見ふつうのアコースティックブルースやブルーグラスなどのルーツミュージックのような体裁をしています。

しかし、特に60年代後半の諸作には、独特の変態っぽさが濃厚に漂っているのが特色です。本人は当時のヒッピー/サイケムーブメントには背を向けていたらしい(*1)のですが、特異なブルース(ルーツミュージック)解釈と、現代音楽の影響を受けた不協和音やコラージュなどと相俟って、結果的にアシッド/サイケと親和性の高い音になっているのが面白いところです。

この人の音楽には、アメリカ(土着)的な風物を想起させると同時に、間(ま)というのか倍音というのか空気感というのか、さらに普遍的なイメージの広がりがあって、特定の時代や場所を超えた「彼方」から響いてくるようなところが、ひじょうにサイケごころをくすぐります。アルバムはどれか一枚というと難しいのですが、(特に前半の)エコーの効いたギターがファーアウトで境界サイケ的な“The Great San Bernardino Birthday Party”(1966)を挙げておきます。

*1
いってみれば、サイケデリックというのも60年代当時は「流行りもの」だったわけで、「変人」としてはそういうのに逆らいたいという気持ちはよく分かる。



Venus in Cancer
Robbie Basho
Venus in Cancer

そのJohn Faheyに見出され、彼のTakomaレーベルから1965年にデビューしたのがロビー・バショー。John同様、フィンガーピッキングによるアコギ一本のインストというのが基本スタイルなんですが、もっとヒッピー/サイケ寄りにユルく(あるいは強烈に)したような感じです。でも、テクニック的には師匠も真っ青みたいなところもあります。

それと、フォークやブルーグラスなどのルーツミュージックに加えて、ネイティブアメリカンとか、アラビアやインド、日本趣味(Bashoは松尾芭蕉から取った)などの似非東洋風な旋律や和声や瞑想感(ダラダラ感ともいう)が混ざってくるのが特徴です。あと、ときどき本人が歌っていて、これがTim Buckleyをもっとアブナくしたみたいなギリギリな感じで、強烈な変態/サイケムードを醸し出しています。

アルバムはBlue Thumbから1969年に出た“Venus in Cancer”(歌入り)を挙げておきましたが、レココレのサイケ特集号でも紹介されていたコンピで、1965~66年のアルバムのハイライトを収録した“Guitar Soli”や、1967~68年の作品から取ったコンピの“Bashovia”なんかも良いと思います。どちらかというと、ロビーの歌とともに怪しげな口笛も聴ける“Guitar Soli”の方が強力かもしれません。

ちなみに、名作“6- and 12-String Guitar”(1971)などで有名なLeo Kottke(レオ・コッケ)も、Fahey、Bashoの流れを汲むTakoma関連のアーティストのひとりです。



Still Valentine's Day 1969: Live at the Matrix, San Francisco
Sandy Bull
Still Valentine's Day 1969: Live at the Matrix, San Francisco

Sandy Bullは、Vanguardから1963年に“Fantasias for Guitar & Banjo”というジャンル不詳の境界的インストアルバム(ドラム入り)でデビューした人。フォークやジャズやクラシックの要素に加え、ラーガサウンドがブームになる前に、早くもオリエンタルな旋律や楽器を取り入れています。ギター(バンジョー、ウード)のインストによる「ダラダラ感」はピカイチ!

上のアルバムは1969年のシスコのMatrixでのライブを収録したもので、2006年に新たにリリースされた発掘音源盤です。病的に深いエフェクトがかけられたエレキギター一本のインストが延々と繰りひろげられる有様は異様にドラッギーで、並のプロパーなサイケなんかよりもヤバい感じ。