ヘヴィサイケ特集 その10
サイケ発祥の地であるサンフランシスコの音楽シーンが60年代後半のロックミュージックに与えた影響は、多かれ少なかれどこにも見られることだと思いますが、特にテキサスのロッカーたちに感化された者が多く、Janis Joplin, Steve Miller, Doug Sahm(Sir Douglas Quintet)といった人たちは活動の舞台をテキサスからシスコに移して、シスコサウンドの重要な一翼を担ったのでした。
メキシコ生まれのカルロス・サンタナがシスコにやってきてラテンロックを創始したように、70年代以降に確立され注目されるスワンプロック、サザンロック、テックスメックス、ルーツロックといったスタイルの萌芽が、すでに60年代のシスコサウンドの中に見られるのも、これらテキサス組をはじめとする「移住者」たちによるフィードバックに拠るところが大きかったのではないでしょうか。
もちろん、テキサスにいながらシスコサイケ風の音を出していたバンドもあったわけで、そんな中から特にQuicksilver Messenger Service, Moby Grape, Jefferson Airplane, Grateful Deadといったところからの影響が随所に見受けられるヘヴィサイケ系のグループをいくつか紹介したいと思います。
Bubble Puppy
1969年のアルバム''A Gathering of Promises''はサイケファンはもとより、プレ・ハードロックとして70sロックファンからも人気が高いようです。最初に出したシングルでアルバムの先頭を飾る''Hot Smoke and Sasafras''は全米トップテン級の大ヒットを記録しています。(シングルヒットはこれだけの「一発屋」なんですが・・・。)
音はシスコサイケ風のコシのあるヘヴィなギターサウンドに、繊細で美しいボーカルハーモニーが乗っかるのが特徴で、なによりも各楽曲の質が高くて、何度も繰り返して聴いても飽きません。(曲の展開はけっこう変化に富んでいて複雑だったりするんですが、メロディなんかはわかりやすくてベタな感じなのが良い。) Kak, Tripsichordあたりに通じるものもあります。
Bubble Puppy
A Gathering of Promises (試聴はこちら 。)
Demian
Bubble Puppyの4人のメンバーはそのままに、一時西海岸に移りバンド名をDemianに変えて、1971年にアルバムを1枚残しています。実質的にはBubble Puppyのセカンドアルバムといえますが、音の方はさすがにサイケ味は薄まり、70sハードロック(レナード・スキナードみたいな元祖サザンロック風味もあり)という感じになっています。''A Gathering ~''の''Todd's Tune''が再録されているのですが、それほどアレンジが違うわけではないのに、こちらはサザンロックチューンみたいに聞こえるのが面白い。
それでもやはり、ギターサウンドなんかにチポリナが渡り歩いた70年代シスコのバンドみたいな匂いがするのは、偶然ではないように思います。名作の''A Gathering ~''と比べられると気の毒な気がしますが、個人的にはとても良いアルバムだと思っています。
ちなみに、「西海岸移動 ~ ABC/Dunhillと契約 ~ バンド名変更」のいきさつは、Steppenwolfと一緒にツアーしたのがきっかけで、そのメンバーのNick St. Nicholasの勧めによるものでした。Demian(「デミアン」)もSteppenwolf(「荒野の狼」)同様、ヘルマン・ヘッセの小説の題名にちなんだものです。
Demian
Demian
(追記: FalloutからCD再発 されています。)
Christopher
ヒューストン発のトリオによる1970年発売の同名タイトルは唯一のアルバム。サイケデリックから一歩進んだような感覚もありますが、全体的にアシッド感が高くて、アングラっぽさ・ダークさが横溢しているので、コアで濃厚なサイケデリアという印象が強い逸品です。
レコード制作時はカリフォルニアに出て来ていたようですが、このバンドもシスコサイケからの影響が色濃く、''Wilbur Lite'', ''In Your Time'', ''Disaster'', ''Queen Mary''といった曲はJefferson Airplaneを彷彿とさせます(というかモロです)。全サイケファンにオススメできるような一級品ですが、特にシスコサウンドファンにはこのへんは盲点かもしれません。
Christopher
Christopher
Josefus
Christopherの前身のUnited GasからのオリジナルメンバーだったドラマーのDoug Tullが、ドラッグ禍でChristopherをクビになって結成したバンド(*1)。ヘヴィサイケファンにはむしろこちらの方が有名かもしれません。(70sハードロックファンからも「伝説のバンド」化されている。)
アルバムは1970年に''Dead Man''と''Josefus''の2枚を出していますが、名盤とされているのは「骸骨ジャケ」の''Dead Man''の方。グランドファンクもカバーしているストーンズの''Gimme Shelter''をやってたり(レコーディング年代的にはJosefusの方が先)で、GFR(*2)やZep等のハードロックが引き合いに出されたりしていますが、やはり17分強の表題曲のまったりとしたシスコサイケ風長尺インプロが、ヘヴィサイケアルバムたらしめています。
ところで、この''Dead Man''以前に、1969年に制作されたもののレコード契約上の問題で近年まで陽の目を見なかった、''The 'Original' Dead Man''というべきアルバム''Get Off My Case''が存在しています。''Dead Man''とは7曲中4曲が重複しているのですが、それらも新たに録音し直されています。この''Get Off My Case''はSundazed盤CDの''Dead Man''にカップリングされていて、全曲を聴くことができます。
さて、もう一枚のセイムタイトル''Josefus''ですが、メンバーによると「ひどい代物」で、''the worst record I've ever heard''だそうです。しかし、サイケ者にとってはそう言われると却って食指が動いてしまうのではないでしょうか? 実際、ヤク(アンフェタミン)漬けでリハーサル不足の中、ソングライティングも含めて数日間で制作したような作品で、いまにもバラバラになりそうな滅裂感があるんですが、そのダメダメさ・トホホさ加減がサイケ的にはイイ感じで、まったりドロリなヘヴィサイケアルバムとしてのツボにも不足ありません。B級シスコサイケっぽさでは、こちらに軍配を上げます。(ラストにヘタレたカントリーチューンを持ってくるところなんか、狙ったとしか思えないんですが・・・。)
Josefus
Dead Man/Get Off My Case
Josefus
Josefus
Josefus
Dead Box
*1
アルバム制作途中に自殺(未遂)を図ったりして解雇されたため、''Christopher'' には彼のほかに3人のドラマー(&パーカッション)がクレジットされている。Dougらの新バンドも最初はUnited Gasと名乗ったが、すぐにJosefusに改名している。その後Dougは1990年に留置場の中で本当に首を吊って自殺してしまった。しかし、他のメンバーや家族は警官に暴行されて死んだのだと主張している。──これは憶測ですが、その前年の1989年に女性ドラマーを入れてリユニオンしてるので、バンドから仲間はずれにされたことが自殺の一因になったと邪推されたくなかったのではないでしょうか?
*2
1969年にはGFRのオープニングをつとめている。そのとき、「テキサス出身のダークなバンド」をさがしていたTerry Knightに声をかけられ、Capitolとサイン・・・という段取りになったが、またもやDoug Tullがドラッグが原因ですっぽかして契約にいたらなかった。彼らの替わりにレコードデビューしたのがBloodrockだったとか。ちなみに、JosefusというのはDougのニックネームだったらしい。メジャーになれるはずのバンドだったのに、そもそものネーミングが運の尽きだったのかも・・・。──数年前にメンバーが当時を振り返って、「(成功は)ただDougと縁を切るという単純な問題だったかもしれない」みたいなことを言ってますが、気づくの遅すぎです。しかし、近年になって発掘音源(''Dead Man Alilve'')や3枚組CDボックスの発売などで注目され、一昨年には再結成ライブを行ってネット配信するなど元気に活動を続けています。(オフィシャルページはこちら 。)
メキシコ生まれのカルロス・サンタナがシスコにやってきてラテンロックを創始したように、70年代以降に確立され注目されるスワンプロック、サザンロック、テックスメックス、ルーツロックといったスタイルの萌芽が、すでに60年代のシスコサウンドの中に見られるのも、これらテキサス組をはじめとする「移住者」たちによるフィードバックに拠るところが大きかったのではないでしょうか。
もちろん、テキサスにいながらシスコサイケ風の音を出していたバンドもあったわけで、そんな中から特にQuicksilver Messenger Service, Moby Grape, Jefferson Airplane, Grateful Deadといったところからの影響が随所に見受けられるヘヴィサイケ系のグループをいくつか紹介したいと思います。
Bubble Puppy
1969年のアルバム''A Gathering of Promises''はサイケファンはもとより、プレ・ハードロックとして70sロックファンからも人気が高いようです。最初に出したシングルでアルバムの先頭を飾る''Hot Smoke and Sasafras''は全米トップテン級の大ヒットを記録しています。(シングルヒットはこれだけの「一発屋」なんですが・・・。)
音はシスコサイケ風のコシのあるヘヴィなギターサウンドに、繊細で美しいボーカルハーモニーが乗っかるのが特徴で、なによりも各楽曲の質が高くて、何度も繰り返して聴いても飽きません。(曲の展開はけっこう変化に富んでいて複雑だったりするんですが、メロディなんかはわかりやすくてベタな感じなのが良い。) Kak, Tripsichordあたりに通じるものもあります。

Bubble Puppy
A Gathering of Promises (試聴はこちら 。)
Demian
Bubble Puppyの4人のメンバーはそのままに、一時西海岸に移りバンド名をDemianに変えて、1971年にアルバムを1枚残しています。実質的にはBubble Puppyのセカンドアルバムといえますが、音の方はさすがにサイケ味は薄まり、70sハードロック(レナード・スキナードみたいな元祖サザンロック風味もあり)という感じになっています。''A Gathering ~''の''Todd's Tune''が再録されているのですが、それほどアレンジが違うわけではないのに、こちらはサザンロックチューンみたいに聞こえるのが面白い。
それでもやはり、ギターサウンドなんかにチポリナが渡り歩いた70年代シスコのバンドみたいな匂いがするのは、偶然ではないように思います。名作の''A Gathering ~''と比べられると気の毒な気がしますが、個人的にはとても良いアルバムだと思っています。
ちなみに、「西海岸移動 ~ ABC/Dunhillと契約 ~ バンド名変更」のいきさつは、Steppenwolfと一緒にツアーしたのがきっかけで、そのメンバーのNick St. Nicholasの勧めによるものでした。Demian(「デミアン」)もSteppenwolf(「荒野の狼」)同様、ヘルマン・ヘッセの小説の題名にちなんだものです。

Demian
Demian
(追記: FalloutからCD再発 されています。)
Christopher
ヒューストン発のトリオによる1970年発売の同名タイトルは唯一のアルバム。サイケデリックから一歩進んだような感覚もありますが、全体的にアシッド感が高くて、アングラっぽさ・ダークさが横溢しているので、コアで濃厚なサイケデリアという印象が強い逸品です。
レコード制作時はカリフォルニアに出て来ていたようですが、このバンドもシスコサイケからの影響が色濃く、''Wilbur Lite'', ''In Your Time'', ''Disaster'', ''Queen Mary''といった曲はJefferson Airplaneを彷彿とさせます(というかモロです)。全サイケファンにオススメできるような一級品ですが、特にシスコサウンドファンにはこのへんは盲点かもしれません。

Christopher
Christopher
Josefus
Christopherの前身のUnited GasからのオリジナルメンバーだったドラマーのDoug Tullが、ドラッグ禍でChristopherをクビになって結成したバンド(*1)。ヘヴィサイケファンにはむしろこちらの方が有名かもしれません。(70sハードロックファンからも「伝説のバンド」化されている。)
アルバムは1970年に''Dead Man''と''Josefus''の2枚を出していますが、名盤とされているのは「骸骨ジャケ」の''Dead Man''の方。グランドファンクもカバーしているストーンズの''Gimme Shelter''をやってたり(レコーディング年代的にはJosefusの方が先)で、GFR(*2)やZep等のハードロックが引き合いに出されたりしていますが、やはり17分強の表題曲のまったりとしたシスコサイケ風長尺インプロが、ヘヴィサイケアルバムたらしめています。
ところで、この''Dead Man''以前に、1969年に制作されたもののレコード契約上の問題で近年まで陽の目を見なかった、''The 'Original' Dead Man''というべきアルバム''Get Off My Case''が存在しています。''Dead Man''とは7曲中4曲が重複しているのですが、それらも新たに録音し直されています。この''Get Off My Case''はSundazed盤CDの''Dead Man''にカップリングされていて、全曲を聴くことができます。
さて、もう一枚のセイムタイトル''Josefus''ですが、メンバーによると「ひどい代物」で、''the worst record I've ever heard''だそうです。しかし、サイケ者にとってはそう言われると却って食指が動いてしまうのではないでしょうか? 実際、ヤク(アンフェタミン)漬けでリハーサル不足の中、ソングライティングも含めて数日間で制作したような作品で、いまにもバラバラになりそうな滅裂感があるんですが、そのダメダメさ・トホホさ加減がサイケ的にはイイ感じで、まったりドロリなヘヴィサイケアルバムとしてのツボにも不足ありません。B級シスコサイケっぽさでは、こちらに軍配を上げます。(ラストにヘタレたカントリーチューンを持ってくるところなんか、狙ったとしか思えないんですが・・・。)

Josefus
Dead Man/Get Off My Case

Josefus
Josefus

Josefus
Dead Box
*1
アルバム制作途中に自殺(未遂)を図ったりして解雇されたため、
*2
1969年にはGFRのオープニングをつとめている。そのとき、「テキサス出身のダークなバンド」をさがしていたTerry Knightに声をかけられ、Capitolとサイン・・・という段取りになったが、またもやDoug Tullがドラッグが原因ですっぽかして契約にいたらなかった。彼らの替わりにレコードデビューしたのがBloodrockだったとか。ちなみに、JosefusというのはDougのニックネームだったらしい。メジャーになれるはずのバンドだったのに、そもそものネーミングが運の尽きだったのかも・・・。──数年前にメンバーが当時を振り返って、「(成功は)ただDougと縁を切るという単純な問題だったかもしれない」みたいなことを言ってますが、気づくの遅すぎです。しかし、近年になって発掘音源(''Dead Man Alilve'')や3枚組CDボックスの発売などで注目され、一昨年には再結成ライブを行ってネット配信するなど元気に活動を続けています。(オフィシャルページはこちら 。)