第42回 Mad River | サイケデリック漂流記

第42回 Mad River


Mad River
Mad River/Paradise Bar & Grill

Mad RiverはVelvet Undergroundなどと並んで、永遠に「あたらしさ」を失うことがない60sサウンドの代表格でしょう。VUのようにメンバーや関係者(Andy Warhol)に「有名人」がいなかったためか、60sサイケファン以外にはあまり知られていないのが残念です。

バンドは1967年ごろにシスコ近郊のバークレーを拠点としてCJ & the Fishらとギグを繰り返し、FillmoreやAvalonで演奏していました。そして、QMSやSteve Miller BandとともにCapitolとレコード契約したということで、シスコサイケの一員と言えるのですが、その音はむしろ東海岸のボストン(ボスタウン)サウンドを連想させるような変態サイケ感があります。ダウナーで変態なのに、「滑舌(かつぜつ)が良く」て、どこか知的でクールな肌触りがあるというのは、もともとが東寄りのオハイオの医学生らによるバンドで、シスコに移る前はワシントンDCなどで活動していた、ということもあるのでしょう。

その特徴が顕著なのは1968年のデビュー作で、70年代以降のプログレやらRushやらを先取りしたかのような変拍子やシンコペーション、ブレイクを多用した楽曲や、リーダーのLawrence Hammondの強烈な「野口五郎」ボーカル、そしてこれまた強力なアシッド感のあるサイケなギターが中毒症状を引き起こします。いまあらためて聴いてみると、80年代のNWOBHM(New Wave Of British Heavy Metal)を連想させるような"Amphetamine Gazelle"や、90年代のグランジ/オルタナを連想させるような"The War Goes On"など、驚くほどススんだロック感覚を持っていたことがわかります。(とは言っても、音はあくまで60sどサイケなのでご心配なく。)

二作目にしてラストアルバムとなった次の"Paradise Bar and Grill"(1969)では、(特に前半で)アコースティックなトラッド色が強まるのですが、これも素晴らしい内容で、変態系サイケもルーツ系サイケにも目がない私にとっては、名作の1stと甲乙つけがたい愛聴盤になっています。

なお、上のCDは全二作を完全収録したもので、ジャケットにこだわらないという方には、文句なしに中身の濃い2on1となっています。