南米サイケ特集 その3 | サイケデリック漂流記

南米サイケ特集 その3

今回はペルーの二大サイケバンドといえるTraffic SoundLaghoniaを。彼らが活動していた60年代末から70年代初め頃のペルーといえば、クーデターによる軍事政権のもと、反米・排ロック的な空気が濃厚だったのですが、両者とも母国語ではなく、あえて英語で歌っているというのが面白い。彼らのサウンドからは英米のロックに対する純真な憧れが強く感じ取れますが、それだけにとどまらずに、南米サイケデリアとしてのアイデンティティをしっかり確立させているのがエラいところです。


Traffic Sound
1969年のデビューアルバム(未聴)にはCreamの"I'm So Glad"、Animalsの"Sky Pilot"、ジミヘンの"Fire"といったカバー曲が見受けられますが、セカンドの"Virgin"(1970)は全曲オリジナルで、私がこれまでに聴いた南米サイケアルバムの中でも一二を争う素晴らしい内容の愛聴盤になっています。

南米のトラッドと欧米のロック(サイケ)が絶妙に配合されたラテン・フォークロックとでも呼べるようなスタイルで、コンガとかがラテンのリズムを刻んだりしますが、サンタナみたいなラテンロックとはまた微妙に違っていて、これも、どこかねじれて歪んでるのにピュアでプリミティブという南米サイケならではのグルーヴを感じます。そして、なにより力強くて美しい。

サイケデリアとしてのアシッド感も高く、まるで空高く飛翔してナスカの地上絵を俯瞰しているかのような浮遊感の"Yellow Sea Days"、チープオルガンとファズギターに「ドンドコ ドンドコ」な祭祀的・呪術的リズムが強烈なサイケチューン"Jews Caboose"、そして極めつけは「ヤヤヤヤヤー ヤーヤーヤヤ ヤーヤ We were having fun even know we were dying! ヤヤヤヤヤー ヤーヤーヤヤ Let me die, Meshkalina ウン!」が一日中耳について離れない、これぞ南米密林サイケの"Meshkalina"、といったぐあいに、アコースティックなアシッドフォークナンバーからファジーなヘヴィサイケデリアまで、南米サイケの魅力をあますところなく堪能させてくれます。

次のサードアルバム"Traffic Sound"(1971)では、前作でも使われていたサックスやフルートがもっと前面に出て、TrafficとかJethro Tullとかを連想するようなプログレ方面への進化が見られますが、それでもやはり、ぬらぬらと絡みつくようなファズギターとか、妙にナマナマしい楽器の音やアンサンブルがプリミティブな感じで、これも良いです。


Traffic Sound
Virgin (リンクはFreak Emporium)

Traffic Sound
Traffic Sound
Traffic Sound


Traffic Sound
Yellow Sea Years: Peruvian Psych-Rock-Soul 1968 to 1971



Laghonia
ギターのDavid Leveneは北米の出身で英語がしゃべれるとのことですが、リードボーカルは2枚のアルバムで数曲のみで、他はペルー人のメンバー(Saul Cornejo)が歌っています。ややラテン訛りの英語(Davidまで訛ってるのが面白い)なんですが、その頼りなげなボーカルがとても良かったりします。

素朴なアンサンブルの中に時折りハッとするようなキャッチーなメロディやフレーズが出てきたり、初期Byrds風のリズムギターに「色っぽい」ファズギターがからんだり、特に、メランコリックでナイーブなメロウチューンが美しくて魅力的です。素朴でピュアな1stの"Glue"(1970)、ハモンドオルガンがさらに活躍する、よりポップで洗練された2ndの"Etcetera"(1971)、どちらのアルバムも素晴らしい。


Laghonia
Glue


Laghonia
Etcetera


なお、Laghoniaのメンバーを中心にTraffic Soundのメンバーなどをまじえて1972~73年ごろに、We All Togetherという名で、モロにビートルズフォロワーなアルバムが制作されています。もともとLaghoniaは、デビュー作のボーナストラックが初期ビートルズだったり、本編も(特に2ndに)ビートルズフォロワー的な曲が散見されていたのですが、このアルバムはど真ん中の直球勝負という感じで、ビートルズ的な楽曲に対するピュアでナイーブな思い入れが清々しい好盤になっています。

オリジナル以外にもPaul McCartneyの"Bluebird", "Tomorrow", "Some People Never Know"や、Badfingerの"Carry on Till Tomorrow"がカバーされてたりで、ポップなイメージが強いのですが、さすがは南米サイケ野郎、アシッドロック的な浮遊感もそこはかとなく漂っています。ボーカルがカート・ベッチャーな感じだったりもするので、ソフトロックファンも気に入るかもしれません。

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WE ALL TOGETHER
WE ALL TOGETHER (輸入盤 帯・ライナー付)