昔はサイケで出てました その2 | サイケデリック漂流記

昔はサイケで出てました その2

前回のZZ Topに続いて、今回はMountain関連です。

Vagrants
Leslie Westと弟のLarry West(ベース)が在籍していたオルガン入りのガレージバンド。存命時にアルバムは出していないものの、チープオルガンのリフとレズリーの吐き出すようなボーカルが印象的な"Respect"(オーティス・レディングのカバー)が、オリジナル・ナゲッツに収録されてたりで、わりと名前は知られていたのではないかと思います。

1987年になってメジャーレーベルのAristaから"The Great Lost Album"というタイトルが出ましたが、これはちょっと看板に偽りありで、実際は1966年から68年に発売されたシングル曲の8割に未発表曲を加えたコンピレーションです。その後1996年に"I Can't Make a Friend"というタイトルで、Arista盤に未収録だったシングル曲や13分におよぶアシッド版"Satisfaction"を収録したブートレッグ(?)が出ています。ただ、後者はArista盤のすべての曲を収録しているわけではないみたいで、決定版とは言えないようです。ちなみに、私が持っているのは、両方のタイトルを合体させた「コンプリート版」の怪しげなCD(ヨーロッパ産?)です。

これを聴くと、まるで「いかにして我々はガレージパンクからヘヴィロックへ進化したか」の検証みたいで面白いです。フォーク系レーベルのVanguard時代のシングルは、レズリーのギターもペラペラの音で、初期キンクス風のガレージパンクやらRascalsみたいなR&B風60sポップ曲が主流だったのが、フェリクス・パパラルディのプロデュースによるAtco時代のシングルは、レズリーのネバネバと粘っこいファズギターが大活躍して、アシッド感とサイケ度がぐっと増しています。そして、13分の"Satisfaction"では、まさにサイケデリックとハードロックの過渡期といえるような(当時で言うアートロックみたいな)ヴァニラファッジ風のヘヴィロックが展開されています。


残念ながら、どちらも現在廃盤のようです。


Devil's Anvil
のちのMountainのFelix PappalardiとSteve Knightが在籍していたのですが、前身バンドという意味では、ロック史上最強級の「ギャップ度」でしょう。ハードロックファンがプレ・マウンテンのつもりで聴いたら、ひっくり返るのではないかと思います。

アルバムは1967年の"Hard Rock From the Middle East"一枚のみ。もう、このアルバムタイトルのセンスがすべてを語っています。素晴らしいです。もちろん、Hard Rockとはいっても、1967年当時の意味合いです。フライング・ブリトー・ブラザーズがカントリーロックであるとか、サンタナがラテンロックであるとか、シカゴがブラスロックであるとかいう意味で、これほど明快な「中近東ロック」というのもあまりないのではないかと思います。

メンバーにKareem IssayとかEliezer Adoramとかアラビア風の名前の人がいて、ウードやアコーディオンを担当しているのも本格的で、曲もほとんどが本場(アラビア、ギリシャ)のトラッドやポップスナンバーだそうです。パパラルディの歌う英語の曲("Misirlou")が1曲で、他はアラビア語が7曲、ギリシャ語が2曲でトルコ語が1曲とのことですが、英語以外は私には区別がつきません。

ラーガロックというと、西洋人による「似非」東洋風ロックという意味合いもあって、そのへんのインチキ臭さや、いかがわしさもサイケ好きにとっては魅力なのですが、このバンドは本格的とはいえ、そういういかがわしさも最高峰で、ウードやブズーキにファズギターがからんだりする中近東サイケは一度ハマると癖になること請け合いです。1967年というとパパラルディはクリームのプロデュースもしていた頃だと思いますが、こんな仕事もしてたのかと驚かれることでしょう。

なお、CDはFreak Sceneの"Psychedelic Psoul"とのカップリングで出ています。どういうわけでこの2枚がカップリングされたのかはよくわかりませんが、
"Psychedelic Psoul"はレココレのサイケ特集号のアルバムガイドで一番最初に紹介されていた"Psychedelic Moods of the Deep"の続編的なプロジェクトで、サイケファン必聴級の名盤なので、この2on1はお得だと思います。オススメ!


The Freak Scene & Devil's Anvil
The Freak Scene/The Devil's Anvil


余談ですが、レズリー・ウェストは「最もダイエットに成功したロックアーティスト」ではないでしょうか? 右の写真は最も太ってたとき(1980年頃?)の3分の1くらいに見えますが・・・。