サイケデリック・シンドローム ─それはビートルズから始まった─ | サイケデリック漂流記

サイケデリック・シンドローム ─それはビートルズから始まった─


著者のデレク・テイラーは英国の新聞記者出身で、ブライアン・エプスタインの秘書やビートルズの広報担当を務めたのち60年代後半に米西海岸に渡り、ビーチ・ボーイズやバーズ、ママス&パパスなどのプレス・エージェント(アーティストをメディアに売り込む仕事)をしたり、モンタレー・ポップ・フェスティバルのプロデュースに関わったりした人です。

原題は"It Was Twenty Years Ago Today"。これはビートルズのSgt. Pepper's Lonely Hearts Club Bandの歌詞の最初の一節にひっかけたもので、出版された1987年から20年前にあたる1967年の「サイケデリック」の狂騒を、その体験者の目を通して描いたドキュメンタリーです。

サンフランシスコで始まったサイケデリック・ムーブメントが海を渡ってビートルズに影響を与え、その結果生まれた「サージェント・ペッパーズ」が、逆にシスコのサイケデリック・シーンにフィードバックして、「サマー・オブ・ラブ」の花を咲かせる次第などが、当時のファッションや文学や政治の状況を詳細に交えながら描かれています。(おそらく日本でつけられた副題は正確ではありませんが・・・。)

作者の経歴が示すように、ビートルズと本場の西海岸両方の内情に関わった人なので、楽屋ネタや裏話のようなエピソードも多くて興味深いです。(たとえば、LSDの初体験が、ブライアン・エプスタインの家開きパーティーで、ジョン・レノンとジョージ・ハリスンのいたずらで紅茶に混入されていたのを飲んだことだった、とか。)

本書で好感が持てるのは、著者のスタンスが、自らの「若気のいたり」を否定したり皮肉るのではなく、その反対に無理に正当化するのでもなく、ユートピアを求めようとしたようなことを「子供っぽい」ことだったと認識しながらも、それでもやはり理想を追求して行動したことは意義があることだったし、それは今でも変わらず意義のあることだ、という信念に基づいていることでしょう。そして、そのような行動ができた60年代というのは、やはり素晴らしい時代だったという思いが伝わってきます。

ただ、私は水上は○こさんの翻訳が苦手なもんで・・・。読みにくい、というより、何度読み返しても意味が取れないことが多くて、読むのがツラいです。
「・・・ロンドンとサンフランシスコのカウンター・カルチャーが混ざりあうという広範な覚醒の間で、ある了解があった。」
「たしかにリアリー的であるよりさらに、キージー的ではなかったのだ。」
「・・・公衆の道徳の管理者として君臨するのを防いでいる情報の極端な真剣さの表れにすぎないのだ」
「完璧に陰気な(もし、文句のつけようがなく勇ましければ)伝統的なアメリカの急進主義を与えられ、なぜ異議をとなえる若者は、前の世代が現実の政治について語るべき多くのことを持っていると推測すべきなのだろうか?」
てなぐあいで。

なお、デレク・テイラーは奇しくも出版から10年後(「サマー・オブ・ラブ」から30年後)の1997年に亡くなっています。この本は現在絶版のようですが、ネットオークションやフリマでは結構よく見かけます。興味ある方は千円くらいなら「買い」でしょうか。