今回は現在進行形とそれに付き物の「現在分詞」。「なぜドイツ語・フランス語には(現在)進行形が無いのか?」についても言及します。
私の場合、第2外国語のドイツ語、第3外国語のフランス語では「英語で現在進行形を用いる場合は現在形になる(現在進行形は使用しない)」と教えられました。それで(現在・過去・現在完了)進行形は「英語独自」のものかと認識していたのですが、ロマンス語のスペイン語・イタリア語には(現在・過去)進行形が用いられます。もちろん英語の様にどの時制(・アスペクト)でも使われる訳ではないのですが、確かに文法書では書かれています。
イタリア語では出てくる場面は、一部の文法書にも示唆されている様に少なそうでした。ところが、NHK語学講座の応用編(2009年11月号)ではこの様な例文が。
Il livero del fiume sta diminuendo. 川の水位は減少している。
他にも幾つか例文が有り、それほどマイナー・特殊という訳ではなさそうですね。
しかし、イタリア語の現在進行形は大きく英語と異なる点が2つあります:
a)進行の助動詞はbe動詞ではなく英語でstayに相当するstareで有る事(staはその活用形)。
b)動詞の機能を持つものが、現在分詞と言われずジェルンディオと言われている事。
これらの相違点にスポットを当て、英語とイタリア語/スペイン語の進行形との違いとドイツ語・フランス語に現在進行形の無い理由について言及します。
(1)英語の進行形はゲルマン語起源?
実は古代ドイツ語には「sein+現在分詞」の進行形が有りました。但しこの形はメジャーになれず、18世紀に廃れたと言われています。ただ、ドイツ語のseinが英語のbe動詞に相当すること(これがスペイン語やイタリア語と大きく異なる点です!)からもこれが英語と同一形式である事が分かります。
英語もドイツ語同様に古英語から進行形(beo-nまたはwesan+現在分詞, oの上に-)が存在しているのですが、残念ながらこれ以上文献を遡る事は出来ません。ただ、ラテン語には進行形は有りませんので、この形式はラテン語が印欧言語から分化した以降に起こった現象、少なくともゲルマン語派の一部で起きた現象であると推察できます。
(参考)
インド・ヨーロッパ語族(印欧言語)・・・・イタリック語派(ロマンス語など)、ゲルマン語派、スラヴ語派、ケルト語派など
※本シリーズは、英語の属するゲルマン語派、関係するイタリック語派を中心に取り上げています。
イタリック語派(現生言語はすべてロマンス語)・・・イタリア語、スペイン語、フランス語、ポルトガル語など
ゲルマン語派・・・ドイツ語、オランダ語、フィンランド語、スウェーデン語、英語など
(2)ゲルマン語派においては、どうして英語の進行形のみが生き残ったのか?
ドイツ語の進行形が衰退・消滅したという事は前項で述べました。あとのゲルマン語を見ましても、オランダ語はおろか英語とは最も近縁の「フリジア語(オランダ国内の一部で話されている)」でさえも少なくとも現在においては進行形は見られません。以降は「何故消滅したのか」ではなく「何故生き残ったのか」という視点で述べる事にいたしますが、
a)英語には、be+on(in)+動名詞という形態があって、それとbe動詞+現在分詞の形式とが混在して発達したという説
b)ケルト語派のウェールズ語は英国内で話される言語。これには迂言表現(存在動詞bodの活用形を助動詞とし本動詞を動名詞とする表現)が有り、意味は必ずしも進行ではないもののこの表現に引きずられる形で残存したという説
これら2つが有るようです。どちらも一長一短があり、
a)は本来の英語の現在分詞-endeが動名詞-ingに取って代わられた理由(be+on+-ing→be+-ing)にはなりますが、発達した理由としては弱く、
b)は形式が同様であり、しかも隣接地域の言語なので影響が有る事は頷けるのですが、進行表現とは言えないところに多少の難点が有ります。
確かに英語において-ingが現在分詞と動名詞を兼ねている事は不思議では有りました。
この古い英語の現在分詞-endeはドイツ語の現在分詞-endと同語源。これが-indeに変化したために「-ingと紛らわしくなった」ものと考えられていますが、一方で、紛らわしくはなった事は事実としても、ende→inde→ingと変化した事には変わりないという考え方も有ります。
ですから、以前英・独・仏語の「現在分詞」 (←4/25の記事。ここをクリック)のお話をした際の表現も完全な誤りとは言えないのかもしれませんが、紛らわしくなる事を憂慮して「英ing, 独endが同一語源」の表現を削除いたしました。遅くなりましたが、お詫びと御報告まで。
さて、長くなりましたので続きは後編にて。
[1]三好助三郎:「新独英比較文法」,郁文堂,1977.
[2]ジュゼッペ・パトータ:「イタリア語の起源」,京都大学学術出版会,2007.