アメリカの大学はどんな職業訓練を提供しているのか | MATTのブログ ~ 政治・経済・国際ニュース評論、古代史、言語史など ~

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元新聞記者。 アメリカと日本を中心にニュース分析などを執筆します。


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前回、米国の大学の多くが職業的知識・スキルの習得に注力していることに触れたので、今回は米国の大学は実際にどのような形でそうした実用的な内容を教えているのかについて書いてみます。



まず特筆すべきは、ビジネス(経営学)を専攻する学生数が365,000人と全体(1,716,000人)の実に21%を占めているということです。その内容は当然のことながら、卒業生が企業に入ったとき、あるいは起業するときに役立てることを目的に構成されています。次に医療・健康関連を専攻とする学生が143,000人(8.3%)もいます。この専攻も当然、手に職を付けて医療関連機関に就職させるのが目的です。教育学は185,000人(6.0%)と、これも当たり前ですが教師になるための専攻です。(米国教育省の2010-11年度統計による。) これだけでも、米国の大学生がいかに実用に役立てることを目的に専攻を選んでいるかが分かります。


次に2000年から2010年にかけて学生数が急増した専攻を見てみましょう。医療・健康関連がなんと88%、生物学関連が48%も増加しています。そのほか2005年から2010年にかけて、公園、レクリエーション、レジャー、フィットネス分野が41%の増加。国土安全保障(テロ対策)、警察、消防分野が35%も増加しています。いずれも米国で近年、需要が急増している分野ばかりです。(同統計による。)


さらに「USニュース」は今後有望な専攻として以下の11科目を挙げています。①医用生体工学(2010年からの10年間で雇用が62%増加するとの見通し)、②生体認証(2018年までに市場規模は36,300万ドルに達するとの見通し)、③科学捜査、④コンピュータゲーム開発(2017年までに市場は820億ドルに達する見通し)、⑤サイバーセキュリティ(2014-16年にかけて国防総省は4,000人の専門家を雇用予定)、⑥データサイエンス(2015年までに世界で440万人の雇用を生むとの見通し)、⑦ビジネス分析、⑧石油工学(初任給10万ドル以上を期待できる!)、⑨公衆衛生、⑩ロボット工学(2012年から20年にかけて200万人から350万人の雇用を生むとの見通し)、⑪サステイナビリティ(持続可能性;環境学の一分野だがより実際問題の解決に焦点を置く)。


そのほか、職業に直結した専攻としては以下のようなものもあります。ホテル・レストラン経営学(知識の習得とともに実際のホテル、レストランでの研修を通じて実践力をつけられることが特徴)、ファッション・マーチャンダイジング(アパレル業界の経営的側面を学ぶ専攻で、ファッションデザインと異なる)、旅行学(旅行会社などの実務に即した知識・技術を習得)、動物看護学(動物看護師になるための専攻で、獣医学と異なる)、アスレチックトレーニング(アスレチックトレーナーになるための専攻)、犯罪学(主に警察官や弁護士になりたい学生向け)、通訳・翻訳、航空学(パイロットになるための専攻)、法律事務(法律事務所アシスタントや裁判所調査員・事務官・調停員等になるための専攻)、化粧学(美容師やエステシャンになりたい人、化粧品会社に就職したい人向け)、映画・ビデオ学(映画制作・配給会社だけでなく動画制作会社やマスメディアへの就職も)、スポーツマネジメント(スポーツチームの職員や選手代理人等になりたい人向け)、特別支援教育(発達障害を持つ子どもへの指導)、オンライン(デジタル)マーケティング、グラフィックデザイン(ウェブデザイナー等になる)、インテリアデザイン、カイロプラクティック、ダンスなどなど。


もう一つ重要な視点は、社会に一度出てもリストラなどの離職や倒産その他の事情で途中でキャリアチェンジ、再就職せざるを得ない人のためにも、アメリカの大学は専用の社会人向けプログラムを提供しているということです。たとえば、先日お目にかかったタクシー運転手の40代白人男性は、勤めていた不動産会社を「自分のスキルが古くなったため」クビになり、生計を立てるためタクシー運転手となったが、いま学校に通っていて再就職でリベンジするのだと明るく語っていました。同じ業種であっても、現代社会は必要とされる知識・技術がものすごい速さで変遷しています。その社会変化への落ちこぼれを作らないため、大学が大きな役割を果たしているわけです。


いかに米国の大学がその時代の社会の需要にスピーディーに対応してプログラムを開発、供給しているかということが分かると思います。