お互いの身体を傷つけ合わずに、我が意志を訴えかけたい・・・  | 音楽三昧 ・・・ Perfumeとcapsuleの世界

お互いの身体を傷つけ合わずに、我が意志を訴えかけたい・・・ 

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『戦闘 (戦争) は相手に我が意志を強要するために行う力の行使である』



○『戦争論』 カール・フォン・クラウゼヴィッツ著

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Perfumeのニューアルバム『COSMIC EXPLORER』に収録される「FLASH」のMVのダンス・パフォーマンスを観て、その衝動をもとにこの文章を書き殴っている。








さて、"相手に我が意志を強要するために行う力" として軍事力は生まれ、そして歴史の中で否応が無くこれまで発展してきた。



そして、その軍事力におけるCQC(Close Quarters Combat:近接格闘)の用途として、各種の武術・格闘技が発展してきたことも否定できないだろう。したがって武術・格闘技の本質を突き詰め、洗練させていくと自ずと、いかに効率よく相手の身体にダメージを与えて制圧し、また反撃を許さないためにも、いかに死傷させるのかという技術が高まっていくのは必然というべきだろうか。





しかし、ここである矛盾が出現する。各種の武術・格闘技を志し、その技術を洗練させ高めていけばいくほど、対戦相手を傷つける力が高まっていく。それと同時に対戦相手の技術が高まっていけばいくほど、自分自身が受ける外傷・障害の度合いも高まっていくのだ。


要するに、武術・格闘技に一生懸命に取り組めば取り組むほど、お互いにケガが酷くなってしょうがないという・・・・。したがって武術・格闘技の技術向上と共にケガは増加し、その結果、いくら志が高くても、そのケガなどによって取り組みたくても取り組めない人々がどんどん増えていく可能性だってあるのだ。これでは武術・格闘技に取り組める人口は増えず、発展する可能性は低くなる。また平和を尊ぶこのご時勢、 "野蛮極まりない" ということでバッシングを受け、理解を得られず、発展どころか存亡さえ危うくなる。





そのような背景もあってか、各種の武術・格闘技の中には "競技化" することに舵を切るものも、その歴史の中で現れた。





"武術・格闘技における競技化" とは "制圧し、また反撃を許さないためにも死傷させる" という要素をなるべく取り除く。そして技の確実性などをポイント化し、制圧または反撃を許さない度合いを合計ポイントとして客観的に評価し、その優劣をつけようというものだ。例えば、各種の空手団体の "寸止め" 、"ポイント化" という試合スタイルはその筆頭だと思う。



また中には技の正確性や洗練度合い、その優美さ、華麗さをポイント化して優劣をつけるといったフィギュア的な武術・格闘技まで現れた。やはり各種の空手団体の "演武" というのがそれに該当するだろうか。


この "演武" に至っては、まさに身体表現の一つと考えても良いだろう。したがって表現芸術との親和性が高くなっていく。そうなってくると武術・格闘技と身体表現との融合、すなわちダンス・パフォーマンスを融合させたものまで現れてきた。その代表格は格闘技と音楽、ダンスの要素が合わさった "ブラジルの文化" とまで言われる『カポエイラ(Capoeira)』というものが挙げられるだろう(ちなみに2014年にはユネスコによって無形文化遺産に登録された)。

















こうなってくると、このような身体動作は "対戦相手にダメージを与えるもの" というよりかは自身が持っているエモーション、言い換えれば "我が意志を観ている者に訴えかけたい" というものにまで変化した結果だろう。






さてPerfumeの「FLASH」のMVのダンス・パフォーマンスは "カンフー(中国武術)" をモチーフにしているそうで。確かにその振り付け動作のモチーフは "カンフー" なのかも知れない。しかし "武術・格闘技とダンスとの融合" という発想と思想、そしてそのモチベーションは、カポエイラやクランプ(KRUMP)というダンス・パフォーマンスに近いのではないかとオレには感じられたのだ。

ちなみにこのBLOGの過去エントリーでも触れたが、カポエイラの要素は『Perfume 3rd Tour 「JPN」(2012年)』の「JPNスペシャル」などの格闘シーンで確認できる。そのようなことからMIKIKO氏は武術・格闘技に造詣が深いことが垣間見られる。

ではカポエイラやクランプ(KRUMP)というダンス・パフォーマンスが生まれた背景は何か。おそらくこのようなものだと考えられる。







"実際に相手の身体を傷つけたくもないし、自分の身体も傷つきたくもない・・・・ しかし、我が意志とそのエモーションを訴えかけたい"





"武術・格闘技とダンスとの融合" は人々のそのような思いから生まれ、さまざまなダンス・パフォーマンスに発展してきた。そしてPerfumeの「FLASH」のMVのダンス・パフォーマンスから感じられるのは、オレにはそれと同様の感慨だったのだ。そういうこともあって、この前のBLOGのエントリータイトルを『フィジカルでの格闘は避け、"光と影" に戦わせる。それこそまさに"競技"だ』というものにしたのだったのだ。



しかし、あるところでは『「FLASH」のMVのパフォーマンスは、武術・格闘技の動作としては忠実性に欠ける、間違った動作だ』といった議論がちらほらと見受けられた。そのような論調自体が・・・・ オレにとっては的外れにしか思えなかった。なぜ彼女達のダンス・パフォーマンスを目の当たりにしてそのような話になってしまうのか・・・・ オレには全く理解できない(苦笑)。要するに、





「あの優しい彼女達が、誰かの身体を傷つけることを目的とした技術を披露するために、あのパフォーマンスを行ったとでも言うのか。そんなことは絶対にあるわけが無い」






むしろ平和的に、しかしながら "我が意志とそのエモーションを力強く訴えかけたい" ということから、武術・格闘技のエッセンスを融合させた振り付けを選択した。それがその一つの要因なのだろう。それなのに武術・格闘技動作の忠実性を求めるのって、無意味にしか思えないのだが・・・・。











さて話は少し変わるが、ではなぜこのタイミングでPerfume側は武術・格闘技のエッセンスを加えたダンス・パフォーマンスを披露する運びとなったのか。オレの脳裏には二つのことが思い浮かんだ。





その一つは当然「FLASH」という楽曲は、映画『ちはやふる』のために書き下ろされたものだ。そして『ちはやふる』は "競技かるた" の世界を描いた作品だ。オレはこの "競技" ということが一つのキーワードになっているような気がする。オレの中での "競技" というものの定義はその経験上、







「対戦相手の身体を傷つけることなく、また生命までは奪わないことを条件とした戦闘行為」


「対戦相手の身体を傷つけることなく、また生命までは奪わないが、それ以外であれば定められたルールの中で、出来るだけ圧倒的な力で相手を制圧し、完膚無きまでに殲滅する」







ということがあらゆる競技が目指すところの本質だと考えている。要するに "生命を賭しない戦闘行為" だと思うのだ。


『ちはやふる』がその競技という世界観を描くならば、そしてその主題歌の、しかもMVともなれば、戦闘というものの、ある意味の熾烈さを表現として込めるのは至極当然の流れだろう。したがって武術・格闘技のエッセンスを加えるのも頷ける。しかし、その一方で競技というものはあくまでも "生命を賭しない戦闘" でもある。したがって相手の身体を傷つける技術を、それほど忠実にトレースする必要性をやはりオレにはどうしても感じられないのだ。







そしてこのタイミングで武術・格闘技のエッセンスを加えたパフォーマンスを披露した理由のもう一つに、これから待ち受けている "アメリカのLiveツアーの本格展開" があるような気がするのだ。









さて皆さんは初めて経験するもの、未知の事象に触れたとき、どのような心理状況を示すだろうか。オレはこのような流れがあるように考えている。






戸惑い・違和感 ⇒ 過去の事例を照会し比較する ⇒ 疑い ⇒ 新しい価値基準を設定 ⇒ 受容する







大まかに言えばこのような感じだろうか。要するに未知の事象に触れたときは、まず我々は戸惑ったり、その違和感から "受け入れず撥ね返す" ような否定的な心理状況が発生することもある。そしてその価値を過去に存在するものに当てはめ、比較することもあるだろう。それでも評価できなければ、いったん疑いの念を抱く。それでもそこはかとなく価値があると感じられるものには新しい価値基準を構築し、ようやく受容する。

おそらくオレが体験したPerfumeというものとその現象は、そのような過程を経て受容するまでに至ったように思う。何れにしても、








「未知の事象への戸惑い、疑い、否定し、撥ね返すような "心理的バリア" をPerfumeは完膚なきまでに打ち砕き、圧倒的な力で制圧した」


「Perfumeはオレとの心理的な戦闘に完全に勝利した」


「Perfumeが伝えたい "その意志" とエモーションを完全に受容した」









ということだったのだ。しかしアメリカでは、Perfumeという存在を認知していない人々はまだまだ多いと思う。ということは、そのような人々の "心理的バリア" はまだ強固であることは想像に難くない。








" アメリカの人々の撥ね返すような心理的バリアを、武術・格闘技の打撃のような表現動作で打ち砕き、圧倒的な力で制圧したい。だからその一歩目を戦闘の要素を含んだパフォーマンスで表現したい・・・・・ "








「FLASH」のMVで伝えたかったことは、ある意味そのような彼女達の意思表明と宣言が込められていたように思えているのだ。そしてそのダンス・パフォーマンスを観るにつけ、MIKIKO氏を筆頭にメンバー、そして制作staffの心意気がひしひしと伝わってくる。

















そう、Perfumeがこれから挑もうとすることは "生命を賭しない戦闘" なのだろう。オレにはそう思えてしょうがないのだ。












<○補足>



*クランプ(KRUMP)とは


ロサンゼルスの非常に危険な区域で生まれたダンスでストリートダンス(Street Dance)の一つ。

この地域では暴力や抗争が絶えず、それによる死傷が日常茶飯事だった。そのため次第に自身の怒りや暴力的な感情を、暴力そのものとして発散するのではなく、ダンス・パフォーマンスとして表現したことが始まりらしい。

したがって相手を威嚇したり、攻撃的な動作を入れたり、身体をダイナミックに使いながら感情をむき出しにして踊るのが特徴。


















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