続・Perfume LIVE @東京ドームのマニアックな話題をお一つどうぞ⑧ | 音楽三昧 ・・・ Perfumeとcapsuleの世界

続・Perfume LIVE @東京ドームのマニアックな話題をお一つどうぞ⑧

前回はPerfumeが使用しているマイクについて触れた。

PAにおける engineeringは、どうしても我々オーディエンス側から考えると、F.O.H(「Front Of House」の略で、観客席に向かって提供する音響のことをさす)に注目し、関心が高いと思うが、ステージ上のアーティスト側からすると、むしろMonitorのほうが、そのステージングの善し悪しを左右する、重要な要素になってくる。


今回はそのMonitor engineeringについて少し書きたい。



では、そのMonitorとそのengineeringはいったいどのようなものなのか。



「Monitor」とは・・・

アーティストがパフォーマンスしたサウンドや音声を、アーティスト自らがそれをチェックするために提供される音響のことをさす。現場では通称 "返し" と言われる。ステージ上に複数のモニタースピーカーを配置して提供したり、アーティストが装着するイヤホンモニター(イヤモニ)に提供したりする。演奏者の演奏しやすさ、強いて言えばパフォーマンスの完成度に影響を与えるので、F.O.H以上に重視される。





基本的に小規模なLive会場であれば、F.O.HとMonitorのengineeringは兼任することが多いが、大規模な会場になってくると、F.O.HのPAブースがステージから離れてしまうため、Monitor用のブースをステージ脇に設置することが多い。したがってこのような場合、F.O.HとMonitorの担当者は別々となる。

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* "Perfume First Tour 『 GAME 』"の横浜BLITZ公演(2008年6月1日)の模様。ただしmacをオペレートしているので、Monitor担当者とは考えにくい。たぶんmanipulator(飯塚啓介氏??)だと思われる。







この画像を見てほしい。


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このアーティスト(苦笑)はあまりイヤホンモニター(イヤモニ)に慣れていないそうで、その違和感を盛んに訴えている。本当は彼はモニタースピーカーを用いて、Monitorしたいらしいのだが、彼のパフォーマンスやステージング、演出などを考えるとステージ上でのポジション移動が多いため、モニタースピーカーでは、常時最適な音質のMonitorを提供することは不可能だ。したがって選択肢はイヤモニしかない。

そこでMonitor engineerの出番である。ステージ上のアーティストがパフォーマンスしやすいように、Monitorの音圧・音質を適宜に調整する。

しかし、Monitorの音圧・音質に定型的なものは無く、例えばドラマー用のMonitorであれば、ベースの音をしっかりと聴けるようなイコライジングを要求されることが多く、ボーカル用のMonitorであれば、ボーカリスト自身のボーカル音声をしっかりと聴きたいという要求もあれば、トラック全体の音ををしっかりと聴けるようなイコライジングを要求されることもある。

また、ボーカル用のMonitorであっても、ボーカルパフォーマンス中心のアーティストなのか、ダンスパフォーマンスを中心としたアーティストなのかで、要求されるMonitorの音圧・音質が違ってくる。

さらに同じアーティストに対するMonitorの提供であっても、楽曲の毎に要求されるMonitorの音圧・音質が違ってくる場合もある。例えばバラード系楽曲の場合は、ボーカルパフォーマンスを重視して、ボーカリスト自身のボーカル音声をしっかりと聴けるようなイコライジングを要求され、ビート感の強い楽曲で、ダンスパフォーマンスを重視した場合は、リズム隊の音をしっかりと聴けるようなイコライジングを要求されたりする。


リハーサルによって、これらの打ち合わせを完璧に行っていたとしても、Monitor engineerはまだ気が抜けない。

なぜなら、当日のアーティストの体調や、オーディエンスを入れた状態での会場の残響音の状態、オーディエンスの反応や歓声・・・・・・・さらにモニタースピーカーを用いる場合はアーティストが、モニタースピーカーに近づくとハウリングを発生しやすくなるため、その度ごとに音圧のコントロールなどの対応も要求される。

これらのことから、ステージ上のアーティストの表情やしぐさから、現在提供しているMonitorの音圧や音質が妥当なのか、アーティストがパフォーマンスしやすいMonitorが提供できているのかを想像して察知しておかなければならず、もし適切な音圧・音質が提供されてないようであればアーティストの要求に対応すべく、瞬時にイコライジングを施さなければならないのだ。



したがって、Monitor engineerには、その技量もさることながら、アーティストの傾向や性格を熟知し、お互いに信頼関係を築いておかなければならない職種なのである。余談だが、あるアーティストなどは F.O.Hのengineerが変更になっても文句は言わないが、Monitor engineerが自分のお気に入りの担当者でないと仕事のモチベーションが低下してしまったり、怒り出す人も・・・・・・・。そのようなことからLive公演などでは、F.O.H engineerの所属会社とMonitor engineerの所属会社が別々ということが比較的頻繁にある。



近年では "ワイアレス・イヤモニ" のステレオ送信が電波法で許可されるようになってから、Monitorの音声をイヤモニでチェックするアーティストがかなり増えた(たしか"ワイアレス・イヤモニ" が登場した初期段階から、Liveで積極的に採用していたのは松任谷由実氏だと思う)。この"ワイアレス・イヤモニ" の発達からMonitor engineerはハウリングのリスクから開放され、またアーティスト側はステージ上を縦横無尽に使ってのパフォーマンスが可能となった。さらに演出上の指示や緊急事態に対する指示も、ステージ上のアーティストに対してリアルタイムに行えるようになった。


ただし古くから活動しているアーティストからすると、イヤモニの密閉感・遮蔽感を嫌がる人も少なくないそうである。したがってそのような場合は、イヤモニを少し耳から浮かせたり、イヤモニとモニタースピーカーを併用するらしいのだが、Monitor engineerの立場からするとそれが一番厄介らしい。その理由としては、アーティストが聴いているMonitorの音圧や音質がどのようなものなのかを的確に把握することができず、想像してイコライジングなどを施さなければならなくなってしまうからである。


ちなみに『DREAMS COME TRUE』の吉田美和氏はイヤモニとモニタースピーカーを併用するタイプだそうで、楽曲ごとに両耳をイヤモニ装着をしたり、片耳にイヤモニ装着して片耳はイヤモニを外してモニタースピーカーを聴いたりと・・・・・ それで、その度ごとにMonitor engineerはイコライジングを施すのだそうで。さらに吉田氏は楽曲ごとに違うイコライジングを要求するらしく・・・・・ 加えてLive中のアーティストへの聴こえ方は・・・・・・・。 もう想像力を働かせるしか方法がないので、Monitor engineerは非常に神経をすり減らすことはこの上ないだろう。




それで、PerfumeのLiveにおけるMonitorの話なのだが、Perfumeの場合も小規模会場でのLive公演の場合はF.O.HとMonitorのengineeringは兼任だったように想像される。

したがって、Monitor engineerが採用されたのは、大規模会場が含まれていた「Perfume First Tour 『 GAME 』(2008年)」「エスキモー pino presents BUDOUKaaaaaaaaaaN!!!!!(2008年)」のどちらかが最初だと思われる。

しかしGAME・Liveの映像を確認すると、まだ三人はイヤモニを装着していないため、F.O.HとMonitorのengineeringは兼任だったのではないかとオレは考えている。

要するにイヤモニをLiveパフォーマンスで初めて採用した "武道館Live" からMonitor engineerを登用したのではないかと推測している。



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*「Perfume presents ~Perfumeがいっぱいサンタ呼んじゃいました♪~(原宿アストロホール・2006年12月21日)」の模様。イヤモニは装着していない。

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* "Perfume First Tour 『 GAME 』"の横浜BLITZ公演(2008年6月1日)の模様。イヤモニは装着していない。

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*「エスキモー pino presents BUDOUKaaaaaaaaaaN!!!!!」の最終日(2008年11月7日)の様子。イヤモニを装着している。


それで、武道館Live(2008年)から東京ドームLive(2010年)まで、一貫してMonitor engineeringを担当しているのが "小林雅彦氏(MSI JAPAN所属)" である(ただし、代々木Live(2009年)に関しては資料が無く不明)。したがって、小林氏は三人と確実な意思疎通を図ることで、良好な関係を築いているのであろう。また三人やスタッフは小林氏に全幅の信頼を寄せていることが考えられる。


Perfumeのステージングを考えた場合、やはりダンスパフォーマンスを重視し、リズムを明確に把握できるようなイコライジングが、その中心となるだろう。また近年の音楽系Liveの場合、ステージやステージセットの変形・移動やライティングなども楽曲の進行に合わせ、コンピューター制御を用いて、ある程度自動的に、且つ包括的に運用・同期させるシステムを採用することが多い(すべてではなく、重要な "キュー出し" や舞台・ライティングの制御は人間が手動で行うこともあるだろうが)。最近のPerfumeの大規模Live公演の場合も、そのシステムを採用していることが考えられる。


音楽三昧 ・・・ Perfumeとcapsuleの世界
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このような同期システムを採用した場合、ステージ上のアーティストにもシステムとの同期を促すために、Monitorにガイドリズムのクリック音(FM変調の「キコカコ」という音)をミックスして聴かせる場合も多い。しかしこのクリック音を不快に感じるアーティストも多く、「いかに自然に演奏・歌唱の音声とクリック音をミックスするのか」というところも、Monitor engineerの腕の見せどころでもある(ちなみに実際にPerfumeのメンバーがガイドリズムのクリック音をイヤモニで聴いているかどうかは不明)。


またPerfumeの場合、MC時にもイヤモニを装着したまま行うので "楽曲パフォーマンスからMCへ" 、"MCから楽曲パフォーマンスへ"と切り替わる局面におけるMonitorの音圧・音質のイコライジング変更をいかに的確に行うのかが、そのステージングを善し悪しを左右している。


さらにそのイコライジングはダンスパフォーマンス重視がその中心ではあろうが、歌唱系の楽曲も含まれているため、その楽曲へ切り替わり局面におけるMonitorの音圧・音質のイコライジング変更も重要になってくる。よく『ジェニーはご機嫌ななめ』や『Puppy love』、『wonder2』などの歌唱時、メンバーがイヤモニを指で押さえるシーンが気になった人も多いかと思うが、この仕草は「ちょっと聴き取りにくい。音圧・音質変更をして欲しい」というMonitor engineerに対するサインである可能性もある。(各種動画サイトにある、過去の小規模なイベントに参加したPerfumeの映像などで、あ~ちゃんがPA engineerに対して、手で指示しているシーンも良く見られる)

ちなみにメンバーの傾向としては、『ジェニーはご機嫌ななめ』や『Puppy love』、『wonder2』などの歌唱系楽曲の過去のLive映像を検証すると、あ~ちゃんとのっちが、イヤモニを指で押さえる仕草を頻繁に見かけるが、かしゆかに関してはそのような仕草は皆無であった。

さらに東京ドームLiveの映像で検証すると、あ~ちゃんがイヤモニを指で押さえる仕草がいつもより少なく、のっちはそのような仕草がいつもより多かった印象である。


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このようにMonitor engineerはLive中は一瞬たりとも気が抜けない、緊張した局面の連続する職業であるが、オーディエンスからは注目されない・・・・・・・・



本当はManipulatorの飯塚啓介氏と同等か、それ以上にPerfumeのパフォーマンスの完成度を左右している"真の縁の下の力持ち" 的な役割なのである。





○追記


ちなみに三人が使っているイヤモニはこれだ。


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 * のっち専用のイヤモニ

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須山補聴器が製作した"Custom Ear Monitor"の『FitEar Priavte』シリーズだ。このシリーズは "モールド・タイプ" と呼ばれ、耳型採取し、耳に自然にフィットするカスタムシェルを製作してくれるため、高い遮蔽性と安定した長時間の利用を実現してくれると、業界内で高い評判である。

ちなみに、三人が使用しているものは装飾のためラインストーンが装着されているため、型番までは確認できなかったが、高性能ドライバーを採用したフラグシップモデルの『FitEar Private C435』であれば "標準小売価格 157,500円(税込・インプレッション採取費別)" だそうである。



○補足


「モニタースピーカー」とは・・・

アーティストがパフォーマンスしたサウンドや音声を、アーティスト自らがそれをチェックするためにステージ上に配置したスピーカーのこと。"ウェッジ"とも呼ばれるが、現場では通称"ころがし" で意味が通じる。ロック系アーティストがよく、このモニタースピーカーの上に足をかけて歌唱したり、演奏していたりすることもよく見かける。