★1950年代のオオタ乗用車たち  幻の国産ブランド ~自動車カタログ棚から 087 | ポルシェ356Aカレラ

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★世界の自動車メーカー名は言うまでもなく創業者の名前に由来するものが多い(ポルシェ、シトロエン、フォード、クライスラーなど)が、日本の自動車メーカーでもトヨタ(豊田)・ホンダ(本田)、マツダ(松田)・スズキ(鈴木)など創業者の名前に由来するメーカー名は多い。そんな中で日本にはかつて太田祐雄(1886年-1956年)が創業したオオタという自動車メーカー・ブランドが存在した。

★オオタは1933年(昭和8年)より 750ccの乗用車およびトラックの生産を始め、1935年(昭和10年)には三井系の資本により社名を高速機関工業と改めた。戦前においては創業者太田祐雄の長男・太田祐一(1913年-1998年)のデザインにより国内の小型車シェア1位だった日産自動車のダットサンよりもスタイリッシュな乗用車を生産した。
また、1936年(昭和11年)に日本最初のサーキット「多摩川スピードウェイ」の完成に際してオオタ小型乗用車をベースにした748cc・23馬力・車重400kgのレーシングカーを作り上げ、1936年(昭和11年)6月7日に開かれた多摩川スピードウェイでの日本国内初の自動車レースでオオタ・レーシングカーは太田祐雄・祐一親子の操縦により小型車クラスで1-2フィニッシュするという快挙を成し遂げた。オオタにダットサンが負けたことを知った当時の日産社長 鮎川義介(1880年-1967年)が激怒して、急遽日産はツインカム・レーシングカーを開発したという逸話が残されている。

★戦後のオオタは、まず戦前型シャシーに戦後型ボディを載せたトラックで再スタートし、1948年(昭和23年)には戦後初のオオタ乗用車PAセダンを発売した。1952年(昭和27年)には高速機関工業の社名をオオタ自動車工業と改めたが、戦後の激動期を生き抜くには小資本の独立メーカーであったオオタにはあまりにも道は険しく、1956年(昭和31年)まででオオタ乗用車の生産を中止した。
戦後の生産の主体は乗用車よりもトラックが中心で、乗用車は小規模生産特有の目まぐるしい変更・マイナーチェンジが繰り返されバリエーションは多い。中にはボディはワンオフと思われる個体も多いようだ。1957年(昭和32年)にオオタ自動車はオート三輪「くろがね」を生産していた日本内燃機製造と合併し日本自動車工業となった後、最後まで残っていたオオタトラック・ライトバンも1958年(昭和33年)までで生産を中止し、ついにオオタのブランドは消滅した。オオタは現存車両が少なく、1933年から1958年まで20世紀半ばの25年間だけ存在した今となっては正に幻の国産ブランドと言える。

【主要スペック】 1950年後期 オオタPA-2 セダン
全長3850mm・全幅1440mm・全高1580mm・ホイールベース2100mm・車重800kg・水冷4気筒SV760cc E-8型エンジン・最高出力20ps/4000rpm・乗車定員4名・最高速70 km/h・月産6~20台程度・販売価格?

●1937年 オオタ フェートン 広報写真
妙齢の美女と黒・海老茶ツートン?のスタイリッシュな戦前のオオタ。既に75年が経っているので写真の女性も御存命なら100歳近いはず。
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●1949年後期型 オオタPA セダン  モーターファン1949年1月号表紙 (B5判)
まだ戦後の物資不足の時代で紙質は悪い。富士山をバックにオオタPAと幽霊のように佇む女性の何とも時代を感じさせるイラスト。1948年発表のOS型トラックベースのOS型試作乗用車は戦前型トラック・シャシーをベースとしていたが、正規販売されたPA型はシャシー・ボディ共に純戦後型として新たに設計されたモデルで、前年のフォードが取り入れたフラッシュサイドの近代的なボディスタイリングが特徴であった。
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●1950年後期型 オオタPA-2セダン オオタ総合カタログ (B5判・3つ折)
760ccE-8型20psエンジンで2ドアだが、VWビートルやシトロエン2CVもタクシーとして使用されていた時代であり、タクシー需要が殆どだったようだ。ワイパーは運転席側にしか付かない。
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※中頁から
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※裏面スペック
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●1951年 オオタPB セダン カタログ (A4サイズ・2つ折)
従来より大きな900ccのE-9型エンジンを搭載した新型車で初期モデルはコンバーチブルだったと言われる。PAより一回り大きくなりスタイルも洗練され車格的には同時代のダットサン・デラックスセダン(DB系)よりワンランク上の乗用車であった。このクルマになって漸くワイパーが助手席側にも付けられた。
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※中頁から
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※裏面スペック
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●1953年 オオタPA-5 セダン カタログ (B5判・2つ折)
2ドアを4ドアに改めたPA-5の記載のあるカタログだが、PA-5までは観音開きドアとされていたにも関わらずイラストは全てリアドアも前ヒンジのPA-6と同じものとなっている。PA-5からPA-6への過渡期的なカタログなのかもしれない。
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※中頁から
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※裏面スペック
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●1954年 オオタPA-6 セダン 広報写真
十字型のホイルキャップはオオタのトレードマークで、上に掲載の戦前1937年フェートンの写真と比べても基本的に変わっていないことが分かる。
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●1954年 オオタPH-1 セダン カタログ (B5判・4つ折)
PA-6の代替として発売されたモデル。ボディはオールスチールとなり、フロント1枚ガラス、曲面ガラス、サッシュドア、26psエンジンの革新的なモデル。25psだったダットサンよりも若干高出力にも係わらず、生産数はダットサンの1/10以下で一桁違っていたと言われる。
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※中頁から
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※裏面スペック
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●1955年 オオタPK-2 セダン オオタ総合カタログ (24×26cm・6つ折)
丈夫なフレームを持ち、サスペンションは前後共にリジット/リーフで京都の相互タクシーの発注により生産され、一般販売はされなかったと言われる。カタログ表紙のクルマのナンバーも京都を表す「京」となっている。このクルマからバンパーオーバーライダーが消滅している。デザインは著名な彫刻家によるものと言われるだけあって、なかなか美しい。同年デビューの初代クラウンRSはフロントウィンドーがセンターピラーの入った左右分割の2枚であったので、フロント1枚ガラスのこのオオタPK-2の方が進んでいたと言える。リアスタイルは同時期のオースチンA50ケンブリッジと似ている。
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※裏面スペック
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1956年 オオタPK-3 セダン オオタ総合カタログ (10×20cm・3つ折)
表紙はオオタのエンブレムと最後のオオタセダンであるPK-3。おそらく1956年の第3回東京モーターショーで配布されたカタログ。PK-3はモーターショーでの展示と同時に京浜地区のタクシー事業者向けに生産されたと言われる。
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※裏面スペック
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●1958年 オオタKE型トラック・VM型ライトバン カタログ (A4判・8頁)
これがオオタ最後のカタログとなった。
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※中頁から
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★オマケ: なし 
オオタの立体造形ミニチュアモデルは製品としては現在まで造られていない(と思う)。オオタ自体が旧車としては非常にマイナーな存在であることに加えて、エブロやトミーテックといった旧車ミニチュアモデル製造の大手メーカーは、製品化に当たっては実車取材を原則としており、現存車両が皆無に等しいオオタ乗用車が今後モデル化される可能性は少ないだろう。


●追記※オオタのミニチュアモデルはなしと記載して記事をUPしましたところ、早速、オオタに非常に詳しいYI様という方よりガレージメーカーながらスタジオKANのストリームライナーシリーズで戦後のオオタPK-1セダン(1/43スケール)が出されていると御指摘を戴きました。以下、YI様より戴いた画像を掲載します。左側に写っているのは貴重なオオタの七宝エンブレム。

スタジオKAN ストリームライナーシリーズNo.34 1/43スケール 1955年オオタPK-1セダン
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