★東郷青児(1897年:明治30年4月28日-1978年:昭和53年4月25日)は、柔らかな描線と色彩で独特にデフォルメされたエレガントでロマンティックな女性像で知られる洋画家。
その作風が通俗的に過ぎるという批判もあるが、pop art 的なニュアンスを持ちながらも上品な画風で国民的な人気を誇った画家であった。
●東郷青児1959年「望郷」 (損保ジャパン東郷青児美術館所蔵)
都内では モンブラン発祥の地とされる自由が丘の老舗洋菓子店「モンブラン」(現存)や吉祥寺の「ボア」(惜しくも2007年閉店)の包装紙に青児の絵が永く使われていたのが懐かしいという向きも多い。
・自由が丘の洋菓子店「モンブラン」の青児の絵を用いたロゴマーク
・自由が丘「モンブラン」の元祖モンブラン
★その東郷青児が表紙を描いた自動車カタログが1点だけ残されており、「自動車カタログ棚から」の第6回はその青児の描いたカタログを御紹介します。
そのカタログは、1955年式のいすゞBX系バスの総合版(発行年月の記載はないもののモデルイヤー改定時の1954年秋の印刷発行か)。A4判/4つ折全8面+α の折カタログ。1960年代前半までの自動車カタログは写真ではなくイラストによる表現が多く、このカタログも大半はイラストで構成されている。イラストの味わいは、ビンテージ自動車カタログの魅力のひとつ。
●東郷青児の描いた1955年いすゞバス カタログ表紙
●中頁から
BX91-7型(三方シート:中型路線用ボンネットバス)
BX95-7型(三方シート:大型路線用ボンネットバス)・・・1950年代の都営カラー
BX95-7型(前向きロマンスシート:大型観光用ボンネットバス)
BX91X-7型(前向きロマンスシート:中型観光用リアエンジンバス)
BX95X-7型(半前向きシート:大型路線用リアエンジンバス)
BX91V-7型(前向きロマンスシート:中型観光用リアエンジンバス)
搭載エンジン2種(ディーゼルDA48型100HP/ガソリンDG32型105HP)
BX95-7の室内写真
●このカタログの掲載型式は以下の通り。いすゞBX系の長尺車は1956年式からホイールベースが5200mmとなり、エンジンもパワーアップされ、車両型式体系も3桁に改変されるが、それ以前の1955年式BX系モデルが掲載されている。
【ボンネットバス】この時代のBXボンネット車は全国津々浦々の事業者に使用された云わばボンネットバスの代表格であり、1976年(昭和51年)には懐かしのバスとして日本を代表する小スケールミニカー「トミカ」でも発売されている。
(1)BX91-7(ディーゼル) ホイールベース:4300mm
(2)BX81-7(ガソリン) ホイールベース:4300mm
(3)BX95-7(ディーゼル) ホイールベース:5000mm
(4)BX85-7(ガソリン) ホイールベース:5000mm
【リアエンジンバス】
(1)BX91X-7(ディーゼル) ホイールベース:4150mm
(2)BX95X-7(ディーゼル) ホイールベース:5020mm
(3)BX91V-7(ディーゼル) ホイールベース:4150mm
●1952(昭和27)年の東郷青児 (久我山のアトリエにて)
●1950年代に東郷青児が久我山のアトリエで乗っていた1953年スチュードベーカーのカタログ表紙(B4判/フルカラー12頁)。表紙には「ヨーロピアンルックの新しいアメリカ車」のコピー。
1953年といえばアメリカ車はクロームメッキ・ギラギラがトレンドであった時代に、ペンシルバニア鉄道の数々の流線型機関車のデザインや日本の煙草ピースのパッケージデザインでも有名なレイモンド・ローウィ(Raymond Loewy:1893年11月5日-1986年7月14日)がデザインした1953年式スチュードベーカーを自ら使用するクルマに選んだあたりは、さすが美的センスの卓越した青児たる所以だろう。