今まで、フィギュアスケートで使っている人は記憶にないんだけれど、ぜひ使ってほしい曲がある。
グスタフ・マーラーの、アダージオ。
そう、あの「ヴェニスに死す」で流れたドラマティックな曲である。
しかし、なんといっても、トーマス・マンの文学作品、「ヴェニスに死す」映画版のテーマ曲である。
そんじょそこらのスケーターでは、滑りこなせないだろう。なにしろ、あのタージオを彷彿とさせる男性スケーターでなければならない。
ヴェニスに避暑にきている小説家がホテルで見かけて、恋い焦がれて死んでいく、というストーリーの絶世の美少年である。 設定ではホテルに長期滞在しているポーランドの貴族の家族の13-14歳ぐらいの息子で、当時世界を驚かせた、ビヨルン・アンデルセン君が演じている。(もう今は面影もないが)
美しいヴェニスの街並みや海岸を舞台に、タージオの姿を追い求める初老の小説家の心理を描いて、ヴィスコンティ監督は、ドイツの巨匠トーマス・マンの世界を映像美にしたてあげている。 当時欧州を席巻したコレラと退廃した文化のバックグラウンドとしてこの音楽を選んだ監督はすばらしい。
もっと深く読むと、トーマス・マンは「老年期に訪れる青春期への憧れ」と「少年愛」を描いたのだが、初老の作家アッシェンバッハはタージオと言葉を交わすことすらしない。「お前はそんな風に人に微笑んではならないのだ」と自分に曖昧な笑顔をむける少年に対して、じれて心の中で話しかけるだけなのだ。
この物語は「老年と若さ」「同性愛」「生と死」という3つのモチーフをとりあつかっており複雑だ。学者によっては「マンこの作品で初めて神話のモチーフを取り入れた」とし、導入されたのはギリシャ神話のディオニュソスだという。
サウンドトラックは、マーラーの名曲だが、このゆったりした曲を優雅、かつセンシュアルに滑りこなせるのは、今思いつくのは、ジョン・カリーぐらいである。 しかし、ジョン・カリーはもうこの世の人ではないし、生きていたら80歳ぐらいになってしまうだろう。
若手の麗しい男性スケーター、タージオの持つ美に負けない美を、優雅な動きで表現できるスケーターさんは誰だろう。 少年の清潔感があふれていて、無邪気なのに誘惑的という難しい役どころ。 ビヨルンは映画の中で見事に演じていた。
この映画をとった数か月後に日本に現れたビヨルン君はもう青年になりかけていて、あの妖しいような美しさは成長の過程のほんの一時期のものだったのだ、と私は友人と言い合った。 桜の花と同様に、青春期の美しさは、それが一瞬しか続かないことと無関係ではないだろう。
ちょっとリプニツカヤ選手に似てませんかね・・?
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最後にうちの美猫の誘惑的な写真を・・・
だれか勇気をだして、「ヴェニスに死す」のサウンドトラックで滑ってくださいよ~。かなりチャレンジングだとは思いますが・・・。