涙の磯崎選手 | ロンドンつれづれ

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気が向いた時に、面白いことがあったらつづっていく、なまけものブログです。
イギリス、スケートに興味のある方、お立ち寄りください。(記事中の写真の無断転載はご遠慮ください)

今日の試合は女子のSPと、男子のフリー、とあってはこの日のチケットは完売でしょう。というか、そうでなくても完売でしょうが、日本のトップ30の選手を女子も男子も見ることができるということで、会場の熱気は昨日にもまして高まるのでした・・・。

私は、朝寝過ごして、9時半に起きたため、朝ごはん抜きですぐに真駒内の駅へ。駅構内にお花屋さんがあるというので、でかけました。ある選手に花束を投げるために…。


今回、くるはずではなかった私が全日本に来ることにしたのは、イギリスに4か月留学していて、一緒にスケートをしたりバレエやオペラを見に行った、磯崎大介選手の応援のためです。その時に知り合った彼の人柄、英語の勉強やスケートの練習に熱心なところ、つらいことがあっても乗り越える力とそれを笑い話にできる強さ、そして人に感謝する気持ちを忘れない好青年ということで、まるで息子か甥っ子のようにかわいいと思えるようになりました。

そんな彼が今期で競技生活を最後にするというのを聞いて、予定を変更してでも応援に来ようという気になったのです。11月に出張で帰国した際には運よく西日本大会と日程が重なり、応援に行くことができました。そこで、3位の成績を残し、今回の全日本出場ということになったのです。大介君の晴れ舞台をぜひ現地で応援したい。

彼の演技は、前の記事のコメントに書かれた方もいましたが、別カテゴリーという感じです。他のどのスケーターさんとも違った雰囲気をもつ、独特の表現方法。優しい彼ですが、頑固なところもあり、絶対守り抜きたいコンセプトがあるようです。スケーティングの確かさと、コンテンポラリーバレエの表現のような動き。

今日の演技は、磯崎選手のお姉さまの作品というコスチュームを身にまとって、一風変わった選曲と、不思議な振付の演技でした。衣装は、これまでのプログラムで用いた衣装の布地をお花にして縫い付けたもの。磯崎選手のこれまでのスケート人生を表したのでしょう。

その衣装を身に着けて、磯崎選手はとても自由にリンクを駆け回っているかに見えました。演技がうまくできてもできなくても、僕は最後の試合を楽しむ!そういっているようでした。そしてその演技は難解かもしれなかったけれど、素晴らしかった。ジャンプのミスは一つ二つありましたが、彼のスケーティングは、氷上でジャンプなど一つも跳ばなくてもきっと見る価値のあるもの。そう思いました。

イギリスのオリンピックゴールドメダリスト、ジョン・カリイが一つもジャンプをいれないコンテンポラリーの表現のスケートをして魅せられたことがあります。確か、「牧神の午後」でした。磯崎選手のスケートにはそんな雰囲気があります。


(磯崎選手の長年のファンの方の横断幕。今回、彼女につきあって、横断幕を張るファンの苦労も垣間見ました…)


磯崎選手との約束で、私は彼の練習拠点だったシェフィールドのリンクのコーチや友人たちからのメッセージを書いたユニオンジャックを座席で掲げました。ロンドンの知り合いたちから書いてもらった、日本の旗のメッセージと一緒に・・・。「大介君、イギリスの仲間も応援しているよ!」って。コレオグラフィをしてくれた、マーク・ハンレッティ氏のメッセージも入っています。

旗は、お隣にたまたま座った人たちに頼んで、一緒にふってもらいました。彼女たちもスケートに詳しく、自分も滑る人たちで、大介君のスケートは大好き、と言ってくれる人たちでした。「喜んで!」と協力してくれ、彼の衣装の話をすると、演技前から涙を流して一緒に応援してくれました。



磯崎選手は演技が終わると、目を抑えて泣いているかのように見えました。テレビ放映もなかったし、顔のアップにもなりませんでしたから、それはよくはわかりませんが…。そして彼はお客様に丁寧にあいさつをして、最後にリンクに膝まづいて、キスをしました。・・・最高の感謝の気持ち。


私は朝お花屋さんで用意した花束を、高いところからリンクに投げ込みました。アリーナ席に、お花を渡す時だけ入れてもらえないか、と聞いたのですが、ダメだったのです。大介君には、「黄色い花束にしてもらうからね!」と言っておきましたが、直接渡すことはできなかったのです。

演技が終わって、階段を下りて行って、おもいっきり花束を投げました。なるべく、こちらを向いている時を狙って…。 でも、今はフラワーガールの子供たちがたいへんにてきぱきプレゼントや花をひろってしまうので(ありがとうございます)、残念ながら、大介君が拾う前に回収されてしまいました…。他にも大きな花束を用意して投げたファンの方もいましたが、それも残念ながらごみ袋のようなものの中に収納され・・・。



全日本の最後の演技の、最後のキスクラで、大きな花束を抱えて笑ってほしかったな。


でも、花束がなくっても、キスクラの大介君の泣き笑いは、きっととても輝いていたでしょう。遠くて実際には見えなかったけれど、私の心の目には見えましたよ、


夫が、イギリスでどういう手をつかったのか、全日本の試合をライブでみたようです。昨日のSPも、今日のフリーも。

「ダイスケのSP,みたよ。ジャンプをひとつミスしたけど、そんなこと気にならないぐらい良かった…。スケーティングもスピンも美しくて。 でも、今日のフリーは放映されなかったね…残念だよ」と。

ライブで放映しなくてもいいから、いつかスケーターさん全員の演技をどこかで放映してくれませんか。ご本人やご家族のためにも、そして私たちのようなスケートファンのためにも。 トップ選手の演技は繰り返し見ることができますが、日本にはトップでなくとも個性豊かな選手がたくさんいます。そういう選手の演技もみたいというコアなファンは、けっこうたくさんいるのです。SPだけでフリーまで行けなかった選手の中にも、SPも放映されなかった選手もいたのではないでしょうか。ぜひ放映してほしいです…。イギリスのナショナルはどんな選手もみんな動画サイトで見ることができて、良かったですよ。テレビでなくともいいので、どこかで見られるようにしてほしいですね。ご家族のためにもぜひ…。




試合後、磯崎選手のお母様にお会いしました。おっとりしたお母様が、「今日はもう朝から泣いてしまって」とおっしゃって。 本当に素敵な親子です。こんなお母様だからああいう息子さんができるんですね。大介君からイギリスでたくさん素敵なご家族のお話を聞きましたよ。すてきな衣装をつくるお姉さまのことも…。


今回、私が全日本に来た目的は果たしましたから、明日の早朝には東京に帰ります。

大介君、美しい雪に閉ざされた真駒内のリンクでの、とっても素敵な思い出をありがとう。
大介君の滑ったマシュケナーダも、まぼろしのパスカル・コムラーデも、私の記憶の中にしっかりしまってリピートすることにします。

競技生活は今シーズンで最後かもしれませんが、どうかスケートはずーっと続けて、その素晴らしい滑りを多くの人に見せてほしいな。

だって、スケートって、本当に楽しいんだから…。そして、あなたのように滑れたら、本当に氷の上で自由に解放された気分になるでしょう…! 

また、イギリスで一緒に滑れることを楽しみにしています。

残りのスケーター生活、そして学生生活を、存分に楽しんでくださいね!